東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正に関するコメントのページ


 東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正に関するコメントを掲載しています。

非実在青少年がもたらす世界
【政治】
 2月24日に都議会に提出された、東京都青少年の健全な育成に関する条例を改正する条例案が一部で問題となっている。

東京都青少年の健全な育成に関する条例を改正する条例案(PDFリンク)

 そもそも、青少年の健全な育成に関する条例というのは、青少年を有害な情報から守るため、インターネットや携帯サイトのフィルタリングをしたり、有害図書の指定をしたり、深夜外出を制限したり、性的搾取の対象にならないよう保護したりするための条例だ。こう並べてみると、結構守備範囲が広い。要は、実在する青少年(不可思議な表現だが、のちの比較のために使用)を保護するという名目で、東京都が有害だと指定するものに実在する青少年が触れないように囲いを作る条例だと思っておけばよいだろう。

『東京都青少年の健全な育成に関する条例』(サイトリンク)

 今回提出された改正案は様々な内容を含むのだが、その中に、「非実在青少年」なる存在が登場する。これは何かというと、物語中に登場する青少年を指している。とりあえず、改正前後の条文を見ていただこう。下線部が改正前後の対応を示している。


第三章 不健全な図書類等の販売等の規制
<改正前>
(図書類等の販売等及び興行の自主規制)
第七条 図書類の発行、販売又は貸付けを業とする者並びに映画等を主催する者及び興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条の興行場をいう。以下同じ。)を経営する者は、図書類又は映画等の内容が、青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認めるときは、相互に協力し、緊密な連絡の下に、当該図書類又は映画等を青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない。

<改正後>
(図書類等の販売等及び興行の自主規制)
第七条 図書類の発行、販売又は貸付けを業とする者並びに映画等を主催する者及び興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条の興行場をいう。以下同じ。)を経営する者は、図書類又は映画等の内容が、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、相互に協力し、緊密な連絡の下に、当該図書類又は映画等を青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない。

一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害する恐れがあるもの

二 年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を資格により認識することが出来る方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの


 変更点を一言で言うと「十八歳未満に見える作中人物にエロい行為をする作品はダメ」になるだろう。
 では、こういう作品があった場合には、東京都はどうするのか?それを定めたのが次の条文である。


<改正前>
(不健全な図書類等の指定)
第八条 知事は、次に掲げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。

一 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの

二 販売され、又は頒布されているがん具類で、その構造又は機能が東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの

三 販売され、又は頒布されている刃物で、その構造又は機能が東京都規則で定める基準に該当し、青少年又はその他の者の生命又は身体に対し、危険又は被害を誘発するおそれがあると認められるもの

2 前項の指定は、指定するものの名称、指定の理由その他必要な事項を告示することによつてこれを行わなければならない。

3 知事は、前二項の規定により指定したときは、直ちに関係者にこの旨を周知しなければならない。

<改正後>
(不健全な図書類等の指定)
第八条 知事は、次に掲げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。

一 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの

二 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第七条第二号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規模に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの

 販売され、又は頒布されているがん具類で、その構造又は機能が東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの

 販売され、又は頒布されている刃物で、その構造又は機能が東京都規則で定める基準に該当し、青少年又はその他の者の生命又は身体に対し、危険又は被害を誘発するおそれがあると認められるもの

2 前項の指定は、指定するものの名称、指定の理由その他必要な事項を告示することによつてこれを行わなければならない。

3 知事は、前二項の規定により指定したときは、直ちに関係者にこの旨を周知しなければならない。


 「非実在青少年にエロい行為をしている作品は、不健全な図書類等として指定します」と言っている。じゃあ、それに指定されたらどうなるのか?


<改正前> (表示図書類の販売等の制限)
第九条の二 図書類の発行を業とする者(以下「図書類発行業者」という。)は、図書類の発行、販売若しくは貸付けを業とする者により構成する団体で倫理綱領等により自主規制を行うもの(以下「自主規制団体」という。)又は自らが、第八条第一項第一号の東京都規則で定める基準に照らし、青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認める内容の図書類に、青少年が閲覧し、又は観覧することが適当でない旨の表示をするように努めなければならない。

2 図書類販売業者等は、前項に定める表示をした図書類(指定図書類を除く。以下「表示図書類」という。)を青少年に販売し、頒布し、又は貸し付けないように努めなければならない。

3 図書類発行業者は、表示図書類について、青少年が閲覧できないように東京都規則で定める方法により包装するように努めなければならない。

4 図書類販売業者等は、表示図書類を陳列するとき(自動販売機等により図書類を販売し、又は貸し付ける場合を除く。)は、東京都規則で定めるところにより当該表示図書類を他の図書類と明確に区分し、営業の場所の容易に監視することのできる場所に置くように努めなければならない。

5 何人も、青少年に表示図書類を閲覧させ、又は観覧させないように努めなければならない。

<改正後>
(表示図書類の販売等の制限)
第九条の二 図書類の発行を業とする者(以下「図書類発行業者」という。)は、図書類の発行、販売若しくは貸付けを業とする者により構成する団体で倫理綱領等により自主規制を行うもの(以下「自主規制団体」という。)又は自らが、次の各号に掲げる基準に照らし、それぞれ当該各号に定める内容の図書類に、青少年が閲覧し、又は観覧することが適当でない旨の表示をするように努めなければならない。

一 第八条第一項第一号の投稿著規則で定める基準 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

二 第八条第一項第二号の東京都規則で定める基準 非実在青少年を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することが出来る方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

2 図書類販売業者等は、前項に定める表示をした図書類(指定図書類を除く。以下「表示図書類」という。)を青少年に販売し、頒布し、又は貸し付けないように努めなければならない。

3 図書類発行業者は、表示図書類について、青少年が閲覧できないように東京都規則で定める方法により包装するように努めなければならない。

4 図書類販売業者等は、表示図書類を陳列するとき(自動販売機等により図書類を販売し、又は貸し付ける場合を除く。)は、東京都規則で定めるところにより当該表示図書類を他の図書類と明確に区分し、営業の場所の容易に監視することのできる場所に置くように努めなければならない。

5 何人も、青少年に表示図書類を閲覧させ、又は観覧させないように努めなければならない。


 「十八禁コーナーみたいなところで売らなきゃいけないよ」ということだろう。では、売らせないためのルールみたいなものはあるのかというと、次の条文。


<改正前>
(表示図書類に関する勧告)
第九条の三 知事は、指定図書類のうち定期的に刊行されるものについて、当該指定の日以後直近の時期に発行されるものから表示図書類とするように自主規制団体又は図書類発行業者に勧告することができる。

2 知事は、表示図書類について、前条第二項から第四項までの規定が遵守されていないと認めるときは、図書類販売業者等又は図書類発行業者に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。

<改正後>
(表示図書類に関する勧告)
第九条の三 知事は、指定図書類のうち定期的に刊行されるものについて、当該指定の日以後直近の時期に発行されるものから表示図書類とするように自主規制団体又は図書類発行業者に勧告することができる。

2 知事は、図書類発行業者であって、その発行する図書類が第八条第一項第一号又は第二号の規定による指定(以下この条において「不健全指定」という。)を受けた日から起算して過去一年間にこの項の規定による勧告を受けていない場合にはっては当該過去一年間に、過去一年間にこの項の規定による勧告を受けている場合にあっては当該勧告を受けた日(当該勧告を受けた日が二以上あるときは、最後に当該勧告を受けた日)の翌日までの間に不健全指定を六回受けたもの又はその属する自主規制団体に対し、必要な措置を取るべきことを勧告することが出来る。

3 知事は、前項の勧告を受けた図書類発行業者の発行する図書類が、同行の勧告を行った日の翌日から起算して六月以内に不健全指定を受けた場合は、その旨を公表することができる。

4 知事は、前項の規定による公表をしようとする場合は、第二項の勧告を受けた者に対し、意見を述べ、証拠を提示する機会を与えなければならない。

5 知事は、表示図書類について、前条第二項から第四項までの規定が遵守されていないと認めるときは、図書類販売業者等又は図書類発行業者に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。


 「出版社に不健全指定をし、それが六回を超えると勧告が出来る」となっている。

 ここまで読んで見ると、”このくらいは別に良いのでは?”と思われるかもしれない。確かに、これまで規制されていたものに、ちょっと付け加えただけに見える。そもそも、十八歳未満にエロ行為をするような作品はけしからん!という方もあるかもしれない。まあ、そりゃそうかも。

 しかし、ここで良く考えていただきたいのは、この基準を誰が決めるのか、ということ。「非実在青少年」、すなわち、「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」に該当するか否かを決めるのは、知事の主観なのである。成人に関する性描写であっても、知事が十八歳未満だと言えばそうなるのであり、その作品は規制対象になるのだ、理論的には。

 そして、もう一つ問題なのは、知事が行うという勧告。条文中にいきなり、自主規制団体というのが登場するので、訳が分からないと思う。
 出版社から書店に本が並ぶまでには、取次と呼ばれる業者が介在する。トーハンとかニッパンという業者がそれで、彼らの自主規制に、「東京都の不健全図書(有害図書)として連続3回、もしくは1年間に5回以上指定された出版物(雑誌)は、特別な注文等がない限り取次業者では扱わない」というルールがある。条文中の自主規制団体とはこれを指していると考えられる。
 不健全図書に指定されれば取次業者は扱わない=書籍は流通しない。仮に書店に書籍が届いても、不健全図書用のコーナーを作ることは難しいとなれば販売されないということで、実質的には東京都の検閲による発禁処分が下されることと何ら変わりなくなってしまう。

 おそらく、この条例改正案が通れば、現在広く流通している名作のいくつかも、不健全指定されることであろう。ちょっと考えるだけでも、いくつも思いつくよ。そして、この条例改正案は、ほぼ通過の見通しだということが大問題なのである。


 しかし、不健全指定六回という所が、条例案作成者の腹黒さを表しているよね。条例にすることで自主規制を事実上条文化し、かつ、その運用は自主規制の範囲内でとどめることによって、条例による規制、という事実を薄めようとしているのだから。
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