アニメ「STAR DRIVER 輝きのタクト」二次創作

タイトル
アニメ「STAR DRIVER 輝きのタクト」二次創作
第1話 そして物語は始まる
アニメ「STAR DRIVER 輝きのタクト」二次創作
-1-

「トーテムポールって知ってる?」
 小学校からの帰り道。
 ニチ・ケイトの手を引きながら歩いていたアゲマキ・ワコは、突然思いついたというように立ち止まると、振り向きざまにシンドウ・スガタに尋ねてきた。
「トーテムポール?」
 スガタは、その突然の言葉に少し困惑したように問い返した。
 もちろん、知識としてならある程度は知っている。トーテムポールとは、かつて北アメリカ大陸西岸の先住民族たちが作った装飾された柱であり、その表面に、彼らの伝承や事件、印象的な出来事などを記録したと聞く。だが、スガタは自らのつまらない知識をワコに知らせることはない。ワコの話は黙って聞いていた方が、断然、面白い方向に転がるのだ。

「そう、トーテムポール!えっとね、お〜っきな木の柱で、青とか緑とか黄色とか、いろんな色でいっぱい絵が描いてあるの!で、そのまわりを、ボディーペイントをして鳥の羽なんかを頭につけた人たちが、大声をあげながらクルクル回るんだって!」
 そういうとワコは奇声をあげ、右手をパッと開いて頭の上に立て、左手は体の前でパタパタと振りながら、ケイトの周囲を踊り回りだした。何かの儀式のマネをしているらしい。

 そんなことを何回か繰り返すと、ワコはキラキラと輝くまなざしをスガタに向けて言った。
「それで、みんなで牛の丸焼きとか、すご〜くたくさんのごちそうを食べるんだって!すごいでしょ!すごいよね!昨日ね、テレビで見たんだ」
 …どうやらお目当てはごちそうにあるらしい。ワコらしいといえるだろう。昨夜に放送されていた昔のB級映画に影響されたのだろうか?
「で、思ったんだけど、ケイトとスガタくんとわたしで、トーテムポールを作るってどうかな?」
 そういうと、ん、ん、とケイトとスガタに同意を求めてくる。
 トーテムポールよりもその後のごちそうがメインなのだろうけれど、こうして唐突に突拍子もないことを言い出すのは、ワコの美点のひとつだと思う。スガタは、自分にはない行動力を持つワコをまぶしそうに見やった。
「面白いんじゃないか?やってみよう」
「ケイトはどう思う?」
「いいと思う」
 ケイトはワコの提案を断ることはほとんどない。
「じゃあ、決定だね!明日はトーテムポールの材料探しだよ!忘れないでね!」
 そういうと、ワコは自宅へ向かって駆け出していった。
「…材料の手配をしておかなくちゃな」
 そう小さくつぶやいたスガタを、ケイトがじっと見つめていた。

-2-

 南十字島は、東京から南南東約1,000キロメートルにある離島だ。太平洋を循環する暖流と南方にある高気圧団の影響により、ほぼ一年中暖かな気候に恵まれている。一時期は”東京で最も天国に近い島”などというキャッチコピーで旅行プラン売り出されたこともあるほどだ。
 交通は、朝夕2便、本島との間を往復する南十字フェリーが運航しており、そこからは飛行機で移動するのが、本土への最短ルートだ。それほどの離島にもかかわらず、南十字島には大学を筆頭とする教育機関が設置されており、彼らをメインターゲットとするショッピングモール等も完備されていて、本土と変わらない生活環境を手に入れることができる。この充実した社会インフラは、島の名家であるシンドウ家や、本土の財閥・企業などからの支援により維持されている。

 この背景には、南十字島に設置された大学の研究内容が関係していることは間違いない。学生数はその規模に比しても少数であるが、それを補ってあまりあるほどの数の研究者が在籍しており、活発に産学連携の共同研究を実施している。その成果が、南十字島へのインフラ支援という形で還元されているのだ。
 だが、その現状は、思わぬマイナスの噂も生み出す。研究者のほとんど島外へ出ないこと、そして一度島外に出たもののほとんどは島に戻っては来ないという事実から、南十字島のことを”楽園式監獄”などと呼ぶ者たちもいるらしい。

*****

 南十字島の地理的環境もあり、島の浜辺には、時折、流木などが打ち上げられる。ワコたちは、その流木を探してトーテムポールの材料とすべく、浜辺へとやってきていた。

「…あーっ、あそこに良さそうな流木が落ちているよ!」
 そう叫ぶと、ワコはあっという間に駆け出していった。そして彼女を追いかけてケイトが走り出し、その後をスガタが歩いていく。

 流木のところまでたどり着いたワコは、とても興奮しているらしい。流木の上に飛び乗ったり、叩いたり、走り回ったりしている。ようやくスガタが流木に到着したところで、ワコは言った。
「スガタくん、これでトーテムポールが作れるね!」
 確かにその流木は、長さ3メートル、直径が40センチメートルほどのもので、小学生がトーテムポールを作るには手ごろな大きさと言えた。しかもほとんど海水に濡れておらず、すぐにでも装飾がほどこせそうだ。
 だからスガタは言う。
「そうだね」
「…でもよくこんなにちょうどいい流木が落ちていたね。不思議だな」
 ケイトは少しも不思議ではなさそうな口調で言った。そしてスガタをチラリと見る。
「そうだよね、ケイト。やっぱりわたしたちって、すごく運がいいんじゃないかな?流木を探しに来て、すぐにこんないい材料が見つかるなんて、すっごくラッキーだよね!」
 ワコはとても嬉しそうだ。

*****

 海の近くではトーテムポールの制作はできない。ひとまず流木を転がして、浜から木陰の方へ移動させる。発見の興奮が落ち着いてくると、ワコの気持ちは次の段階に移った。
「この木をトーテムポールにするには、みんなで絵を描かなくちゃ。どうやって描こうか、スガタくん?」
 ワコはそう問いかけてきた。やはり考えていなかったらしい。
「その準備はしてきたよ。…ジャガー!タイガー!」
 スガタがそう呼びかけると、彼と同じ年頃の、メイド服を着用した少女たちが木陰から現れた。
「はい」
「お呼びでしょうか、坊ちゃま」

 メイド姿の二人の少女、ヤマスガタ・ジャガーとスガタメ・タイガーはシンドウ家に仕える家の娘であり、物心がつくころには、彼女たちはスガタの側に仕えていた。彼女たちがいれば、スガタの生活に不足が生じることはあり得ない。
「トーテムポール作成用のペンキは準備してきてくれたか?」
「はい」
「こちらにお持ちしております」
 そういって二人が持ってきたカゴには、十二色のペンキとハケが用意されていた。スガタは満足そうにジャガーとタイガーにうなずく。
「ワコ、このペンキを使ってくれ」
 スガタはそういうと、ジャガーとタイガーが持つペンキを指し示した。
「ホント?使っていいの、スガタくん!ジャガー、タイガー、ありがとう!」
 ワコはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。そんなワコを、ケイトはじっと見つめていた。

*****

 3人で分担してのトーテムポール作成は、順調に進んだ。
 制作の分担はワコが決めた。流木を均等に1/3に区切り、一番上がワコ、真ん中がケイト、一番下がスガタの担当になった。それぞれが思い思いに自分の描きたい絵を描く。
 表面が乾くまでは裏返さない方が良いというケイトの提案により、裏面の作成は翌日の作業となった。

 そして翌日。相変わらずの好天だ。
 トーテムポール制作は順調に進み、ワコの服にペンキがつくなどの多少のトラブルはあったものの、無事にトーテムポールは完成した。

「よし。じゃあ、このトーテムポールを立てよう!」
 ワコの号令により、トーテムポールの立ち上げ式が始まった。
 直径40センチメートル、長さ3メートルのトーテムポールは、小学生の体格から見るとなかなかに大きい。ワイヤー吊り上げによるジャガーやタイガーのサポートを受けながら、3人は何とか浜辺にトーテムポールを打ち立てることに成功した。

「やったー!完成したーっ!」
 ワコは例の怪しい踊りを踊りながら、トーテムポールのまわりを回っている。ケイトもトーテムポールを見上げ、どことなく嬉しそうだ。

「じゃあ、みんなで完成パーティーをしようか。牛の丸焼きというわけにはいかないけれど、料理の準備はしてある」
 スガタがそういうと、ワコは一瞬ほうけたあと、歓喜の叫び声をあげた。
「えー、うそっ、ほんとっ、パーティー?やったーっ!」
 ワコの怪しい踊りは喜びを反映するようにその激しさを増していく。
「それでは、お二人とも」
「パーティ会場へご案内いたします」
 ジャガーとタイガーは、ワコとケイトにそういうと、踊り狂うワコをなだめながら、二人をパーティ会場誘導していった。


 出来上がったトーテムポールの前には、スガタが一人取り残されている。先ほどまで煌煌と輝いていた太陽は、その赤みをまし、スガタの横顔を照らし出していた。青かった海も赤く染まりつつある。
「トーテムポール、柱…か。一体ぼくは何を支える柱になる運命なんだろうな…」
 そういうスガタの声には、いつもの冷静な声とも違う、永きにわたって引き継がれてきた想いを吐き出すような、不思議な響きがあった。

<了>
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