磯田道史作品の書評/レビュー

殿様の通信簿

情報を制するものが時代を制すらしい
評価:☆☆☆☆★
 著者の作品の一つの特徴は、現代から史料を通じて過去をのぞき推察するという、歴史研究の一端を垣間見せてくれることにあると思う。1冊の史書を発見するところから始まり、過去の人間の営みに何かを見出すことに終わる。そんなアカデミックな作業の楽しさを教えてくれるところがある。
 本書の紙幅の大半は、加賀前田家の物語に割かれている。関が原を経て天下の形勢は徳川家に定まり、戦国から太平の世へ向かう最中、百二十万石という飛びぬけた領地を持つ北陸の雄、前田家。家康に警戒され、常に取り潰しを恐れていたなかで、その殿様は何を考え、何をしたのか。その一端を見せてくれる。
 これらの逸話を元に歴史小説を書いたら、かなり面白いものができるのではないかと思えてきた。これまではほとんど触れられなかった様な、歴史上の人物にスポットを当てた作品が世に出ることを希望します。

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武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新

意外に深い
評価:☆☆☆☆★
 意味不明な数式の羅列から宇宙の始まりを熱く語る人もいれば、家計簿から当時に生きる人々の生活をありありと描き出す人もいる。やはりプロはすごいというのが感想。同時に自分の家計簿が流出したらどうなるのかと、空恐ろしくもなるが…
 物語は、ある一組の家計簿が古書店の目録に載ったことからはじまる。時は幕末、加賀前田家に仕えた御用算者猪山直之が残した詳細な家計簿。日々の収入支出の記録は、当時の武士の生活を浮き彫りにするだけでなく、激動の明治維新の姿もありありと描き出してくれる。
 正直なところ読み始めは歴史小説の時代考証で語られているような内容に過ぎないのでは、と侮っていたが、それは誤った認識だった。研究者の執念というべきか、一つの資料を皮切りに、どんどん深く切り込んでいく。村田蔵六とのかかわりが出てくるところでは、ちょっとぞくぞくした。

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