稲垣公夫作品の書評/レビュー

米国製造業復活の秘密兵器 TOC革命―制約条件の理論

何に対する制約か?
評価:☆☆☆☆☆
 TOCとはTheory of constraintsの略。何に対する制約条件かと問えば、スループットを最大化するに当たっての制約条件だ。スループットとは、製品売上高から原材料費を差し引いたもの。スループットを増やし、総投資を減らし、経費を減らせば利益が最大化されるというのが、制約条件の理論の骨子の一本だ。
 総投資は棚卸資産を指し、経費は固定費を指す。それを減らせば利益が上がるのは分かるけれど、スループットを増やすとはどういうことだろう?

 スループットを増やすには売上を増やさなければならない。この時、固定費も原価に配賦され、結果として単価が上がることによって、価格競争に敗れてしまうことがある。この固定費の配賦という考え方が誤っていると制約条件の理論は説く。
 固定費は会社全体の売り上げに対してかかるべきであって、個別の製品にかかるべきではない。個別の製品にかけた場合、利益率の高い製品を優先することは、固定費の配賦率が低い製品を優先することにつながる。しかし実際は、原価が低く大量に生産できる製品を作った方が売上が伸び、結果として会社全体の利益が最大化することになるのだ。個々の製品のコストを最適化することが、全体のコストを最適化することにつながるとは限らない。

 この考え方が成立するためには、市場ではなく工場に制約がある状態、とにかく売ることが重要になる。そして工場の負荷が十分に高まった状態で、工場の中にある制約、CCR(Capacity Constrained Resource)を探すのだ。そしてそれをめいっぱいに稼働させるためのやり方を探ることで、スループットの最大化を目指すことになる。
 この時に中心となるのが、DBR(ドラム・バッファー・ロープ)スケジューリングという考え方だ。ライン全体の処理能力は、その中にあるボトルネック工程の最悪のもの、CCRの処理能力に等しい。それ以前の工程がどれだけ処理をしても、結局はCCRで滞留する。前の工程は頑張るだけ仕掛を量産する結果になり、生産リードタイムの延長をもたらすに過ぎない。そこで、初工程の投入スピードをCCRに合わせ、CCRを一瞬でも止めない様に直前にバッファー在庫を置くというのが、DBRの考え方なのだ。

 制約条件の理論には、もうひとつ、変化を起こすための思考プロセスというものがある。これは、問題分析・解決のためのツールであり、現状問題構造ツリー、対立解消図、未来問題構造ツリー、前提条件ツリー、移行ツリーから構成されている。本書ではこれについても簡単に扱っている。

 そもそも本書の内容は、ゴールドラット博士が「ザ・ゴール」「ザ・ゴール2」でそれぞれ示したものだ。しかしこれらの著作の日本語訳は2000年代まで成されず、本書はその前に刊行されたことに重要な意義がある。しかも、簡潔に分かりやすくエッセンスがまとめられていると思う。
 では実際にアルゴリズムはどう考えるべきか、ということになった場合には、本書の内容だけでは足りないかもしれない。原書にあたったり、自分で考えたりということになろう。その際には、巻末のリファレンスが役立つと思われる。

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