上杉和彦作品の書評/レビュー

歴史に裏切られた武士 平清盛

遠くからの方が昔が良く見えるという皮肉
評価:☆☆☆☆★
 とある県の知事が最近、NHKの大河ドラマの演出に苦言を呈している様だが、なぜそんなギャップが生じるのか、本書を読めばその一端が理解できるかもしれない。それは一言で表現すれば、世代ギャップなのだ。
 30代以上の平家のイメージと言えば「驕る平家は久しからず」という平家物語の一節に起因するものだろう。本来武家の棟梁である平清盛が、藤原氏の摂関政治を真似て位人臣を極め、その奢りを本来の武家の姿を残した源頼朝により平家は滅ぼされた。武家を捨てて貴族になり、悪逆の限りを尽くした人物というのが、典型的な平清盛像かもしれない。

 それを見直すのが本書の骨子だ。平清盛を、政治力、経済力、武力という大きく三つの視点から見直し、なぜ彼に悪人というイメージがつけられたのか、時代背景と当時の状況を辿りながら解き明かしていく。おそらく内容的には、近年の教科書にて説明されているものだと思う。

 政治力の視点から見た場合、それは院政という要素によって語られるらしい。天皇が退位し上皇として政治を牛耳る中で、天皇家の権力対立を調整し実行する立場の人間が重要になる。それに都合が良い位置にいたのが平清盛だったらしい。
 しかし、延暦寺の様な宗教的権力と、世俗的権力の対立に巻き込まれやすいポジションでもあり、バランスを取ってうまく乗り切れなければ、不要な恨みを受けることもあり、それが彼を仏敵と呼ばれる遠因にもなったらしい。

 経済力の点からみれば、清盛が天皇家や摂関家に娘を嫁がせ、それを背景として荘園の受領となったり、後家として摂関家の財産を管理するなどして、莫大な富を得ることとなった。
 だがそれは一方で、彼の権力ラインから外れた天皇家や摂関家の恨みを得ることにもなる訳だ。

 武力の視点で見れば、平清盛は貴族化した武士として、惰弱な存在と思われているだろう。だがそれは必ずしも真実とは限らず、彼の敵手であった源義朝からも称賛される武士団を持っていたと考えられる。
 これらのことを併せて考えれば、平清盛というのは武家の政治支配の端緒をつけた人物であり、中世の扉を開いた人物と解釈するのが適切だというのが、現在の評価なのだという。

 ここまでくれば、冒頭の世代ギャップの理由も分かってくる。ある一定以上の年代には、平家とは繁栄の象徴であり、貴族的な煌びやかな生活と、そこからの没落という華々しいイメージがつきものなのだろう。しかし実際は、鎌倉幕府に先駆けて中世の扉を開いた、実直な、平衡感覚に長けた武家政治家と解釈すべきだと思われる。その認識の差が「画面が暗い」に象徴される様なズレを生むのだろう。

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