植草徹也作品の書評/レビュー

BCG流病院経営戦略 DPC時代の医療機関経営

強固な壁を壊すパワーが必要
評価:☆☆☆☆★
 日本に於ける病院経営は規模の経済が働く領域らしい。猫も杓子も総合病院の看板を掲げる現状にあっては、病床数に拘わらず、一定数の幅広い専門分野にわたる医療従事者が必要となる。この固定費の比率が病床数の少ない病院にあっては非常に大きく、経営上の負担になっている。
 しかし、人件費を削ることは現実的なオプションではない。勤務医および看護師らの負荷の高さは周知の通りであり、経営改善のためにここに手をつけるのは、良質な医療の提供という本旨から外れる。ゆえに、後発薬を推進したり、事務関連の経費を削減したり、変動費の涙ぐましい削減努力をしているのが現状らしい。

 だが、先に述べたとおり、中小規模の総合病院における固定費の比率は非常に高い。ゆえに、変動費をちまちま削減したところで、抜本的な経営改善にはつながらないのだ。
 そこで本書で提言している経営改善の方向性は、売上贈である。DPCコードごとの医療フローの標準化、医局を跨いだ施設の有効利用、地域医療を考慮した総合病院から専門病院への移行、在院日数削減と病床利用率向上などが、売上増の勘所だという主張だ。

 ボクのイメージだと、病院というのはなるべく入院患者を早く追い出そうとしていると思っていたので、本書で前提となっている事実がそれとは真逆だったので、結構驚いた。本書のデータは赤十字病院系列に限ったものなので、どの程度一般化されているかは自明ではないが、やはりボクのイメージとは異なるのが日本の病院の現状なのだろう。
 そうだとすれば、本書に於ける提言は、一般的な範囲で合理的な内容であると感じた。しかし、これを実際に、古い因習や固定観念に凝り固まっている業界に実施していくためには、相当なリーダーシップが必要だろうとも感じた。

 本書を読んだ病院の院長たちが“病院の常識”に捕らわれることなく、謙虚に内容を咀嚼できるか否かが、まず最初のハードルになりそうだ。

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