大前研一作品の書評/レビュー

大前流心理経済学 貯めるな使え!

あなたは行動する?、それともしない?
評価:☆☆☆☆★
 著者から日本人への最後の助言。そんな印象を受けた。

 世界経済に対する日本の存在感が薄れて久しい。かつて世界を席巻したジャパンマネーは鳴りをひそめ、東京の株式市場は米国の住宅ローン問題で右往左往する始末。
 今は昔、日本を目指していたアジアの国々も、急速に経済発展の足を速め、日本を追い抜きつつある。だが、少子高齢化、学力低下に悩まされる日本には、それらの国々に対抗する術もない。暗澹たる未来しか描けない国、日本。おそらく国民の多くはそんな印象を抱いているのではないか。
 しかし、果たしてそれは真実なのか。著者はこの展望に疑問を呈する。確かに、日本には資源はない。人口も減少に向かっている。企業は、外国との戦いの前に、内国企業との競争で疲弊してしまっている。だが、日本国民には、1,550兆円もの個人資産があるではないか。それを有効に使わずどうするのかと。
 この個人資産の数パーセントでも良い。統一された意思の下、この資金が運用されれば、市場を席巻することも可能だ。日本は金融国家として世界経済に存在感を示すことができる。

 現在は、日本の未来を方向付ける分水嶺だ。いかに眠れる個人資産を起こすのか。それにより、このまま沈んでいくのか、再び浮かび上がれるのかが決まる。
 仮に判断を誤るとすれば、日本人は2種類に分かれることだろう。日本と一緒に沈まざるを得ない者と、他国に活躍の場を求められる者。どう考えても、著者は後者だ。だからこそ、日本人への最後の助言と感じてしまう。
 さあ、今こそ決断の時。

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大前研一 新・経済原論 (訳:吉良直人)

非常識が新常識
評価:☆☆☆☆☆
 英語版の日本語訳だが文章は非常に読みやすく、書いてあることも明快なので結構分量があるが一気に読み通せてしまう。原著の初版が2004年なので現状についてのコメントは若干古くなっているのかもしれないが、そこで挙げられる”思想”は決して古くなっていないと思う。
 新「経済原論」を謳っている本書では、現在の世界が旧来の世界とは経済構造において全く異なるものになってしまったと主張する。一つには、ケインズに端を発する経済理論”信仰”の崩壊。もう一つは、国民国家の崩壊である。これらは全て、技術革新による新たな経済プラットフォームの誕生に起因している、という。
 これまでは、地理的環境というものが経済発展の大きなポイントになっていた。資源があること、市場があることなどである。しかし、ネットワークの普及により、現代では地点間の距離がほとんど0になってしまったといって良い。逆に、時差の存在が24×7のサービスを実現し、そのことが利点になってしまうことすらままある。
 また、いかに活用できる資産を大量に自分で持っているかが競争優位性の一つのポイントであったが、豊かな地域が増えた結果、余剰資産をいかに自分の地域に投資させるかが経済発展の重大要素になった。これまでの経済理論では、金利を上げれば資金供給が減るというのが常識であったが、国内の資金供給が減る以上に、金利差による利益を求めて海外から資金が流入するのである。利益を得るチャンスがあれば資金が投下される。この成功例が中国である。
 中国は本来共産主義国であり、資本主義はなじまないはずであった。だが、賢明な指導者は、国土の広大さを利用して、資本主義地域を共産主義で統合するという政策を、多少の矛盾には目をつぶって実行した。おかげで、中国のいくつかの地域は未曾有の経済発展を遂げている。代わりに共産主義国家中国は、事実上消滅したといっても過言ではないだろう。
 直感的には理解できている経済観を言葉にした一冊。

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