門倉貴史作品の書評/レビュー

派遣のリアル-300万人の悲鳴が聞こえる

ピンハネが本当の問題ではない
評価:☆☆☆☆☆
 派遣労働者からのインタビューも含め、派遣ビジネスと派遣労働の歴史と現状についての概要。派遣労働者を半ば騙して派遣会社が契約を結んだりすることや、弱みに付け込んで違法な契約プロセスを要求する企業の存在など、派遣ビジネスの問題を提起している。
 個人的には問題が矮小化されていることと、何が問題の根本なのか、解決のために何をすればよいかについての考察が薄いことが不満。
 一番良く出てくる記述が、派遣会社が派遣労働者の給料をピンハネしているということ。しかし、派遣契約ではない、通常の業務委託契約であっても、社員の給与分は契約金額の3割程度であろう。そのことを考えれば、派遣労働者の給与が契約金額の半分程度であるということは特に異常ではないと思う。この問題の本質はここではないのだ。
 この問題を解決するためには、なぜ企業は派遣労働者を雇うのか、という疑問に対する解を見つけるところからはじめる必要があると思う。経費が安く済む。確かにそれはもっともな理由に思える。でも本当にそれだけなのか?企業経営者の視点から派遣ビジネスの問題点に斬りこむ視点が欠けているのは残念に思う。
 自助努力で負のスパイラルから抜け出す努力をしようといっても、それが簡単にできるようなら苦労はしない。やっぱり企業のサポートだって必要だ。派遣労働者をやとうことと新入社員を育てること。それぞれにどういうメリット・デメリットがあるのか。この点を明らかにし、人に投資をしない限り企業には未来がないということを示さなければ、企業は決してお金を出しはしないと思う。

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