科野孝蔵作品の書評/レビュー

栄光から崩壊へ―オランダ東インド会社盛衰史

大きな"なぜ"が残ったまま
評価:☆☆☆★★
 タイトルを素直に読めば、連合オランダ東インド会社(VOC)の盛衰について書かれているはずであり、実際にいくつかの点についてはその通りであるのだが、会社全体を見るのか、日本貿易に重点を置いて見るのかという視点が定まっておらず、何を書きたいのかがよく分からないという印象を受けた。
 フェリペ二世のポルトガル国王即位を一つの発端とするオランダの東インド貿易の黎明期から、衰亡の要因、特に会計制度の不備と士気の低下について説明をしている。(※)同時に、銀の産出地としての日本の重要性や、長崎商館の様子についても語っている。ただ、なぜオランダの東インド会社はつぶれ、イギリスの東インド会社は生き残れたのか、という部分について曖昧なままに放置してしまっているのが残念。
 あとがきを読む限り、そもそもの動機は長崎貿易の実態を資料から明らかにする、ということにあったと思われるので、変に話題を広げることなく、そこに注力した方が良かったのではないかと思う。


(※) 本支店会計がきちんと行われておらず(未達品勘定がない)、各商館での輸出品は一律オランダ本社の会計としてしまったため、各拠点個別の利益管理が行えていなかった。このため、市場の変化に伴って商品構成を変更すべきだったにも拘らず、どの拠点・商品の利益率が高いかを把握できなかったため、機動的に変更することができなかった。これには、各商館が中央の統制を受け付けず、既得権益の維持に走ったことも影響していると思われる。
 また、かつてオーストラリアがイギリスの流刑地だったことからも分かるように、東インド貿易に携わろうとする下級兵士の質はあまり高くなく、会社の利益よりも私利を貪ることが彼らのモチベーションを維持させていた。

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