それでも、日本人は「戦争」を選んだ(加藤陽子)の書評/レビュー


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それでも、日本人は「戦争」を選んだ

ひとつひとつは妥当でも、つなげると不適当
評価:☆☆☆☆★
 2007年末から翌年に、中高校の歴史研究部員向けに実施された集中講義の講義録。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変・日中戦争、第二次世界大戦と、明治維新以降になぜ戦争が立て続けに起きたのかという問いに対して、日本の安全保障政策、他国の情勢、日本の国内事情を関連付けて説明している。高校生を対象とした講義なのだけれど、受講する高校生の知識レベルも高いので、内容的にはかなり専門的だと思う。さらに口語調なので、個人的には文章の論理性が理解しにくい部分もあった。

 当時の日本の安全保障上無視し得ない国は、ロシアと清だったらしい。特に、シベリア鉄道を敷き、不凍港を獲得すべく南下圧力を強めるロシアは脅威だった。もしロシアが朝鮮半島を勢力下におけば、日本の死命は制されてしまう。シュタインの指南を受けた山形有朋は、朝鮮半島を日本の影響下におくことを目指して策動する。そのためには、過去の経緯から周辺国と朝貢関係にあった清の影響力をも減らさなければならない。このような論理によって、日本は清との戦争に突入した。
 日清戦争は、日本の国内政治にも意外な影響をもたらす。三国干渉の結果、遼東半島を清に返還することになった政府を弱腰と見た世論は、自由民権運動を活発化させ、国政の行方が選挙により定まる方向へと向かうことになる。

 日清戦争で朝鮮半島に足がかりを作り、ロシアに対する防壁を構築することに成功したかに見えた日本だったが、清がロシアに近づく結果を招き、ロシアは満州を勢力下において、朝鮮半島にも手を伸ばしてくることになる。ロシアの強硬姿勢もあり、外交による解決が望めなくなった日本は、満州の巨大な市場を列強諸国に開放するという名目で列強諸国を味方につけ、朝鮮半島支配による日本の安定化を目指してロシアとの戦争に突入する。
 日露戦争に勝利することはできたものの、賠償金を取ることもできない政府に世論は憤る。当時の有権者は直接税15円以上を納める男子に限られていたが、戦費負担の増大により納税負担が増えた結果、有権者の多様化を引き起こし、これは国政の行方にも影響を与えていくことになる。

 このような議論が3章以降も展開されることになる。日本の安全保障という基本的な政策を実現しようとして、最善と思われる手を打っていったにも拘らず、それが次の戦争にもつながり、さらに内政にも有権者の多様化という形で影響を与えていくという、これまで自分がはっきりと自覚していなかった歴史のつながりが明らかになり、面白かった。

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