許成準作品の書評/レビュー

ヒトラーの大衆扇動術

引きこもりニートからトップへの道
評価:☆☆☆★★
 引きこもりニートの青年だったヒトラーが、なぜ圧倒的なドイツ国民の支持を得てナチス総統という地位に上り詰めることが出来たのかを、ヒトラーがとった行動を列挙しそれにどんな意味があったかを解説している本だ。
 分かりやすさを重視してか、我田引水的にヒトラーの行動を引用している感があり、また、系統的ではなく列挙しているため、各所に重複も見られる。トリビアとして読む分には良いが、きちんと学ぶには適さない印象を受けた。
 ヒトラーの行動原理の根本にあるのは、大衆は愚昧だという考え方だ。孤立している個々人は冷静であったとしても、それが集団になった途端に熱狂しやすく、雰囲気に流されやすくなる。
 人は信じたいものを信じたがる傾向がある。例えば、現在危険な事態が進行中な雰囲気があるという認識があれば、その感覚を補強する情報を選択的に信じてしまう。これが、どれだけ注意しても流言飛語が絶えない理由だろう。

 ゆえにヒトラーは、当時のドイツ国民が信じたかったこと、なってほしいと思っていた未来を演台で説いた。ドイツ国民は優秀だ、ユダヤ人がドイツ人の仕事を奪っている、自分について来れば生活は向上する。そんな演説をぶち上げ、それを実行して見せることで、熱狂的な支持を集めることに成功したらしい。
 国民の熱狂を傍目に見ながら、少なくとも初期のヒトラーは冷静だった。自分が国民からどの様に見えるかを研究し、よりよく見える演説方法を研究した。資本家には彼らの資産を守るために必要な政策を提示し、資金を集めた。部下に権限を渡し、効率的な実務実行を推進した。相手・状況における選択が、彼をトップに押し上げたのだという。

 日本が現在直面している原発の状況と、事故発生からの推移を見ていくと、ここに書かれているようなことを行政・東電が実施できていないことも多くあるのではないかと思う。それは例えば、メッセージの出し方であったり、同時多元的に対応が必要な事象へ対処するチームのあり方だったり、枚挙に暇がない。
 ヒトラーは長い時間をかけて準備をし、どうすべきかを事前に検討していたゆえに、数々の事象に適切に対応し、国のトップに立つことに成功した。しかしトップにたった後では、それまで成功した方法論から逸脱し、場当たり的・感情に対応したために没落した。

 歴史上には、現代の状況の参考になる事例が数多くある。それを生かす方法をいつまでも学ぶことができないならば、人間の生きてきた意味が薄れてしまう気がして仕方が無い。

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