エリヤフ・ゴールドラット作品の書評/レビュー

ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス

常識は疑う余地がある
評価:☆☆☆☆☆
 物理学者のジョナから教わった制約条件の理論を用いて工場改革を行ってから10年が経ち、アレックス・ロゴはユニコ社の多角事業グループ担当副社長となっていた。傘下にはピートの印刷会社、ボブ・ドノバンの化粧品会社、ステーシー・ポタゼニックのボイラー会社を抱えている。
 しかし、また彼をピンチが襲う。社外取締役のジム・ダウティーとブランドン・トルーマンが、ユニコ社の財務状況改善のため、中核事業への集中と多角事業グループ傘下企業の売却を提案したのだ。

 3社いずれも赤字企業だった所を、アレックスが就任して以降、ようやく黒字になりはじめたばかり。いま売却すれば、新たなオーナーはアレックスたちのやり方を理解できず、またコスト削減重視のやり方に戻り、改革が台無しになってしまうかもしれない。何より、彼自身のポジションも危ない。
 ジムとブランドンについてヨーロッパで身売り先を探しつつ、傘下企業と自分を守るために、爆発的な利益改善を半年程度で成し遂げねばならないことになったアレックスは、ジョナから教わった思考プロセスを使って、業界の常識に埋もれている本当の解決策を見つけ出す必要に迫られる。

 今回はジョナは登場せず、アレックスの妻のジュリーが、まるでジョナの直弟子のごとく、アレックスに思考プロセスを使うことを執拗に薦める。それは会社に対してでもあり、家庭の問題に対してでもある。
 思考プロセスの概要は、例えば「米国製造業復活の秘密兵器 TOC革命―制約条件の理論」(稲垣公夫)などでも触れられているので、そちらを参照しても良いと思う。


ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

悩んで出した答えに価値がある
評価:☆☆☆☆☆
 ある製造工場の所長アレックス・ロゴは、本社副本部長のビル・ピーチから、3ヶ月以内に納品遅延の解消と利益改善がなされない場合は、工場を閉鎖すると通告される。それどころか、部門ごと身売りする危機らしい。しかし、これまでも納品遅延を改善するプロジェクトは行ってきた。工員たちも一生懸命働いている。一体どうしろというんだ。それに追い討ちをかけるように、妻のジュリーも仕事漬けのアレックスに愛想を尽かし、出て行ってしまう。
 そんなアレックスにヒントをくれたのは、恩師であり物理学者のジョナだった。空港でバッタリと出会ったわずかな時間に、ジョナはアレックスに問う。工場の目標、ゴールとは何なのかを。その問いに迷走し至った答えは、生産性の向上でもコスト削減でもなく、お金を儲けることだ。そしてジョナは再び言う。お金を儲けるとは、スループットを増やし、在庫と経費を減らすことだ、と。そのためには、依存的事象と統計的変動を考慮に入れなければならない。

 ジョナの謎めいたヒントに、息子のデイブや娘のシャロン、製造課長のボブ・ドノバン、経理課長のルー、資材マネージャーのステーシー・ポタゼニック、データ処理担当責任者のラルフ・ナカムラを巻き込み、工場を立て直すためのやり方を、アレックスは必死に考え始める。

 この作品は、エリヤフ・ゴールドラットの考えたTOC(Theory of constaraints)、制約条件の理論の内容を、小説形式にして説き明かした作品だ。この権威であるはずの作中人物ジョナは、決して主人公に答えを教えない。いくつかのキーとなる問いを放ち、それに対して主人公が答えを出すまでは、次のヒントを与えない。
 これは、著者が自身のコンサルティングの経験から、人は自分で考えて悩み、その結果として至った答えでなければ、本当に実行することはできないと悟ったからでもある。読者はアレックスと同様に悩みながら、その問いに対する答えをひとつずつ出していくのだ。

 本書のエッセンスを抽出した日本語の本も数多い。例えば「米国製造業復活の秘密兵器 TOC革命―制約条件の理論」(稲垣公夫)なども役立つと思う。

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