ビジャイ・ゴビンダラジャン作品の書評/レビュー

リバース・イノベーション

未来の敵を事前に潰す戦略
評価:☆☆☆☆☆
 新興国市場におけるシェア争いに全く勝てない。日本家電メーカーなどが、これ以上無いほど明確に新興国市場で苦境に立たされていることは、ニュースに取り上げられない日はないと言っても良いくらいだ。本書を読めば、日本家電メーカーの戦略に何が欠けていたのかを知ることが出来るだろう。
 読者も大まかには気づいていることではあろうが、新興国市場においては高機能高価格の製品は求められていない。ゆえに日本家電メーカーは、先進国市場に投入している製品をダウングレードした製品を新興国市場に投入してきた。

 本書では上記のような戦略をグローカリゼーションと呼ぶ。この戦略の楽なところは、新興国市場を知らなくとも、よく知っている先進国市場で売れる製品を開発し、それを新興国市場でも売れる程度の価格になるよう、適当に機能を減らすだけでよいと言うことだ。しかしこの戦略では、新興国市場に十分なシェアを得ることが出来ないのは現実が示している。
 そこで本書が提唱する戦略がリバース・イノベーションだ。まず、新興国市場は先進国市場とは全く異なると言うことを、明確に認識することからこの戦略は始まる。新興国市場は、価格帯が異なるだけではなく、社会基盤や環境の違いにより、先進国の事情に合わせた製品のカスタマイズでは対応できないという前提に立たなければならない。

 ゆえに、新興国市場に向けた製品を一から開発することが求められるわけだが、それはグローバル企業の内部論理では、先進国向け市場にリソースを投入することが優先されがちなため、放って置いてはそのようなことは達成できない。
 そこで、トップ直属で新興国向け市場に対応する部門を現地に設置する。そして先進国とは異なる指標で経営状況をマネジメントすることが求められるのだ。

 このとき、リバース・イノベーションを対岸の火事と思い込み、グローカリゼーションに固執するのは愚かであると本書は解く。なぜなら、先進国市場の未開拓な領域はリバース・イノベーションにマッチする領域である可能性もたかく、新興国市場で立ち上がった企業がグローバル化し、圧倒的な優位性で先進国市場を席巻する可能性も考慮しなければならないからだ。
 ゆえに本書を裏読みすれば、先進国のグローバル企業は、圧倒的な資金力にものを言わせて新興国に独立した企業を設置し、自らを脅かす芽を事前に潰すという戦略が求められると言うことだろう。

ホーム
inserted by FC2 system