マクロ経済学 第3版(ジョセフ・E.スティグリッツ)の書評/レビュー


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スティグリッツ マクロ経済学 第3版 (共著:カール・E.ウォルシュ)

マクロ経済"学"の実在性
評価:☆☆☆☆★
 完全雇用モデルから始めて、現実の経済とのギャップの源泉であろう、経済成長や経済変動の理論のさわりまで読み進めていたところで、急に忙しくなり2ヶ月ほど放置していたのだが、残されていたインフレーションと失業や金融・財政政策についてもようやく読了した。
 終盤の第二次大戦後の復興やグローバリゼーションについては、これまで読んだマクロ経済学の教科書では触れられていなかったので興味深く読むことができた。また、この本の特徴として、英単語の対訳が掲載されているので、専門的に学ぶ際には役立つと思う。

 読了までに間があいたことで、雰囲気に流されずに冷静になって本を見つめなおせた気がする。その結果として感じたのが、ミクロ経済学の理論に比べると、マクロ経済学の理論はどうにも手探りの部分が多いというか、"学"として確立しきっていないのではないか、ということだ。
 例えば、ミクロ経済学では価格と生産量で議論していたものが、マクロ経済学では物価とGDPで議論される。ある製品の"価格"という概念が、経済全体の"物価"という概念に抽象化される訳だ。このような抽象化は物事の本質を分析するのには有効な手法で、科学的な分野でも利用されている。しかし、抽象化が許されるのは、それをしても物事の本質が損なわれないことが必要だ。
 物理の場合で考えてみよう。熱力学はその名の通り、温度や圧力など熱に関する現象を取り扱う学問だ。熱の源泉は物体を構成する分子の運動エネルギーであるが、全体の熱現象を説明するのにひとつひとつの分子の運動を考慮する必要はない。これは、それぞれの分子に区別がなく、ある分子に未来で起きるまたは過去に起きた現象は、たくさんある分子のどれかに対し現在起きている現象と同じである、という仮定が成立しているためである。そしてこれを確認できるのは、分子の状態を的確に表現することができるツール(座標やエネルギーなど)が存在するおかげなのだ。

 マクロ経済を考えた場合、まずプレイヤーには明確な優劣がある。労働者と一口に言うが、その能力は千差万別であり数値化することもできないから、失業率を計測したり摩擦的失業などの概念を考えることはできても、労働者の能力値から失業率を計算するようなことはできない。一人当たりのGDPが1万ドルということは分かるけれど、それにより人々が幸せかどうかを判断する基準はない。
 このように考えると、経済学が本当の意味での科学になるためには、経済に影響を与えるパラメーターを全て洗い出し、その関係を明確に定義する必要があると思うのだが、GDP・利子率・物価・為替レートなどのパラメーターの複雑な関係を見る限りにおいて、定式化を行うのは難しそうだ。

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