田母神俊雄作品の書評/レビュー

田母神塾 これが誇りある日本の教科書だ

懸賞論文?よりは著者自身の主張が分かりやすい
評価:☆☆☆☆★
 空幕長解任については言論統制するわけにもいかないのだから問題発言するかもしれない人を任官した政府に責任があると思うし、真っ当な主張だと思える意見もあるのだけれど、全面的に賛同する気になれないのはなぜだろう。
 教育勅語・修身を復活させろという意見については、100年以上も昔に明治政府が決めたことを持ち出すんだろう、と思うし、会社が株主のものではないという意見については、少なくとも上場株式会社の所有権を株主に与えないと日本が海外に投資している資本も回収できなくなるかもしれないよ、と思う。殊、軍事に関しては現代的な感覚を示すのに、政治・経済に関することになると懐古趣味が感じられることが嫌なのだと思う。こっちはこれからあんたらが作って来た負債を返さないと世界の中で再浮上も出来ないのに、何をいまさら偉そうに、とも思うのかもしれない。まあこれは著者だけに責任のあることではないけれどね。

 本書は歴史、政治、国防の三部構成になっている。歴史についてはどこかからの受け売りで、戦史に興味を持っている人なら既に知っていることばかり、政治についてはここ30年くらいの首相批判をしているだけ、という感じなのであまり面白くもないのだけれど、国防については自分の言葉で語っている印象を受けるので、読んでいてなるほどと感じることも多い。やはり経験に基づいて語られる言葉はそれなりの価値があると思う。
 歴史認識についてはお説ごもっともという感じだけれど、所詮歴史は勝者によって作られるものなので、あんまりそこにこだわってもどうかなあ、と思う。だって、広島・長崎に原爆を落とし、東京や各都市に焼夷弾をばら撒いて民間人を虐殺したアメリカが、堂々と世界のリーダー面しているんだよ?それを見て育った若い世代が、60年以上前の戦争を本気で引きずっていると思うのかな。限定的な選択肢の中で、もっとも合理的な判断をしているだけだと思うのだけれど。大体ボクなんか、高校までの歴史の授業が第二次大戦期まで進んだことないし。大概、旧石器時代とかどうでも良い時代の話に時間をかけすぎて後が詰まっちゃうんだよね。

 結局、著者の考えるような日本にするためには、これからどういう日本にしていくか、という議論が必要だと思う。仮に、アメリカの51番目の州でも良いや、と思う人が国民全員であれば、別に日本が核武装をする必要はなくなる。でも、それは絶対嫌だ、日本の存在感を出していくんだ、と思えば、(1)武力戦・(2)情報戦・(3)経済戦のどれかで一番を目指さなくてはいけないだろう。
 (1)なら核武装を目指すし、(2)なら国際機関を日本に誘致する、(3)なら金融の中枢を担う、などそれぞれ方向性が異なる。著者は軍事の専門家だから(1)か(2)を目指すだろうけれど、それ以外の選択肢も考慮してあるべき姿を考えなくてはならない。そして、これが既存のプロセスの枠内で行われることが、面倒ではあるけれど、民主主義の前提だと思う。

 政治の講義で、政権投げ出しの事例として安倍晋三元首相ではなく、細川護煕元首相を挙げているのが印象的。本書の中で彼だけは批判されていないね。なぜだろう?

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