シュテファン・ツヴァイク作品の書評/レビュー

人類の星の時間

歴史上の転換点
評価:☆☆☆☆★
 人類の星の時間とは、その後の人類の方向性を定める様な決定が、一人の人間に下りてくる、綺羅星のごとき一瞬間のことを指す著者の造語だ。本作では、そんな人類の星の時間を描いている。
 つまりは、歴史のターニングポイントになった出来事を描く訳であり、それは必ずしも成功ばかりだけではない。その点、「栄光なき天才たち(伊藤智義 / 森田信吾)」とも共通する要素があるように感じた。

■ 不滅の中への逃亡 太平洋の発見 一五一三年九月二十五日
 ヨーロッパ人で初めて太平洋を見た男パスコ・ヌニュエス・デ・バルボラは、単なるならず者の密航者だった。その密航船が漂流する男、インカ帝国の征服者フランシスコ・ピサロを拾い、たどり着いた先でやりたい放題やったあげく、最高の栄誉を手に入れ、そしてあっけなく散る。
 このあたりの歴史の偶然は何とも言えない。ほんの少し何かが変わっただけで、その後の歴史は大きく変わっていたかも知れないのだ。もっとも、人間の欲望を考えれば、結局は収斂するのかも知れないけれどね。

■ ビザンチンの都を奪い取る 一四五三年五月二十九日
 終末にあっても対面を捨て去ることの出来ない、摩耗した想像力が存在し得ると言うことは、歴史的に記憶しておいた方が良いかも知れない。過去の栄光は現在を保証するかも知れないが、未来を保証するとは限らないのだ。

■ ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの復活 一七四一年八月二十一日

■ 一と晩だけの天才 ラ・マルセイエーズの作曲 一七九二年四月二十五日

■ ウォーターローの世界的瞬間 一八一五年六月十八日のナポレオン一八二三年九月五日
 エルバ島を脱出したナポレオンが疾風怒濤の勢いで復権していく中、その趨勢を決するワーテルローを前に、三割の軍勢を貸し与えたグルシー元帥は、上官からの司令通りにしか動けない、凡庸な、加えて権威的な軍人だった。
 もし彼がもう少し決断力に富むか、あるいは謙虚であれば、歴史はナポレオンを勝者にしていたかも知れない。そんな、凡人に人類の星の時間が訪れた瞬間のエピソード。

■ マリーエンバードの悲歌 カルルスパートからヴァイマルへの途中のゲーテ

■ エルドラード(黄金郷)の発見 J.A.ズーター、カリフォルニア 一八四八年一月
 ゴールドラッシュが一人の男のそれまでの努力を無にし、一族を根絶させたという哀れな話。

■ 壮烈な瞬間 ドストイエフスキー、ペテルスブルグ、セメノフ広場 一八四九年十二月二十二日

■ 大洋を渡った最初のことば サイラス・W・フィールド 一八五八年七月二十八日

■ 神への逃走 一九一〇年十月の末 レオ・トルストイの未完成の戯曲『光闇を照らす』への一つのエピローグ

■ 南極探検の戦い スコット大佐、九〇緯度 一九一二年一月十六日

■ 封印列車 レーニン 一九一七年四月九日

ホーム
inserted by FC2 system