アダム・ペネンバーグ作品の書評/レビュー

バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある(訳:中山宥)

提示される二つの道
評価:☆☆☆☆★
 タイトルのバイラル・ループとは、ウィルスの様に爆発的に伝染していく連鎖のことらしい。ネットスケープ、ホットメール、イーベイ、ペイパル、フェイスブック、マイスペース、ビーボ、ユーチューブ、ニングなど、爆発的に成長した企業の創業時の出来事を取材して取りまとめている。
 これらの企業に共通しているのは、ユーザーに対してコミュニケーション・ツールを提供し、そこに人を集めるコンテンツ自体は、一握りのヘビー・ユーザーと数多くのライト・ユーザーが、彼ら自身の時間と能力を使って作り上げていることだと思う。要するに、そうしたいという欲求があるユーザーの要望にピッタリとはまるツールを提供することに成功した企業なのだ。

 各章ごとに様々な企業の事例を紹介しているので、これまで成功した企業がどの様な波を捉えて成功したのか、ということを知ることはできるが、この現象がどういう心理的な動きに基づくのか、どのような経済理論に従うのか、実際のビジネスにどの様に応用できるのか、までには深く踏み込めていないように思う。あくまで調査レポートで、学術的分析はこれからなのかも知れない。
 特に、ビジネスへの応用についての著者の考えはまだまとまっていないようだ。なぜなら、バイラル・ループ企業の草分けとして登場するタッパーウェアは、ホームパーティを利用した口コミ販売で製品を販売する企業だ。この企業は、タッパーという優良製品があって初めて、ホームパーティ販売という口コミのバイラル・ループが意味を持つ。しかし、本書で取り上げられる企業の多くは、自社コンテンツを持っているわけではなく、コンテンツを持つ人々を集める仕組みを持っているだけだ。

 このように考えると、タッパーウェアとその他のバイラル・ループ企業例では、結果的に同じバイラル現象が起きていることは間違いないが、その起源と利益の仕組みは全く違う。前者は製品の売上が利益の源泉だが、後者は広告収入をメインとしている。
 つまり、ここで紹介される企業は、他のスポンサー企業やコンテンツをつくるユーザーがあって初めてビジネスが成立する。バイラル・ループ企業が高い評価を受けるのは、彼らが数多くのユーザーを囲い込んでいるからだ。

 バイラル・ループ企業はインターネットにコミュニティを形成する。彼らよりも優れたコミュニティを形成する方法を探究するのか、あるいは囲い込まれたユーザーに提供する優れたコンテンツを開発するのか。ここには二つの道が提示されているのだろう。
 ただ、ビジネスの多くは後者に属するという事実が、本書に対するビジネス的な物足りなさを感じさせる原因となっている気がする。

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