細野康弘作品の書評/レビュー

小説 会計監査

読み取るべきものは別にある
評価:☆☆☆★★
 決して小説として出来が良いというわけではない。正直なところ、初めの内は、なぜこの作品が出版されたのか、と言うことが全く理解できなかった。しかし、この作品には一読の価値がある。

 情報化社会で最も重要な能力は、目の前にある情報の信憑性を判断する能力だと思う。
 ネットワークが発達し、容易に情報を手に入れられるようになった反面、伝達スピードの速まりは、チェック機能の低下を生み出した。世間が望む情報をいち早く伝えること。それがメディアの目的となり、正確な情報を伝えることは二の次になってしまった。結果として、高度に専門的な内容については安易な解釈(自分が理解できる内容)に流されがちとなり、この傾向は、メディア(国民)だけではなく、行政や司法の場にも広まりつつある。この行き着く先が、いわゆる国策捜査なのだろう。  本書は小説の体をなしているが、実際はドキュメンタリーである。巨大監査法人に身を置いていた著者が、自らの経験・見解を文章化したと解釈すべきものである。
 政治的思惑の下、恣意的な判断を重ねる行政・司法。大きな流れの中に巻き込まれ、翻弄される監査法人。分かりやすい悪を生み出し、それを叩くマスコミ。大々的に取り上げられた数々の不正会計事件を監査法人の側面から描いている。
 所詮は言い訳、と言う解釈も成り立つだろう。いや、これが真実だ、と考える人もいるだろう。一体何が正しいのか。公正に情報を収集し、判断する能力がいま求められていると痛感させられた作品。

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