盛山和夫作品の書評/レビュー

社会階層 豊かさの中の不平等 (共著:原純輔)

歴史は繰り返す
評価:☆☆☆★★
 "格差社会"が一つのキーワードになっている現代において、まさに時代に即したタイトルのように思えるけれど、実は初版は1999年。小泉構造改革が実施されるよりも前に出版されている本。「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)」に基づき、人々が中流意識を持っていた時代にあっても、実は社会には不平等=格差があったのだということを分析している。
 そもそも、階級とか階層が研究主体になったのは、マルクス思想の影響らしい。労働者階級と資本家階級の二項対立の中で、それが何によって生まれたのか、ということを研究したのが始まりらしい。しかし、1960年代になると、マルクス思想に対する幻想は破れる。高度経済成長期に入ると農村部と都市部の格差は縮まり、ほとんどの人が享受する豊かさの前に、それまで感じていた格差は見えなくなってしまう。しかし実際には、学歴による格差や、父親の職業に子供が引きずられる格差など、厳然として格差は存在していたことがデータから読み取れるのだ。特に、女性の主婦化に至る話などは、現在の状況にも通じる部分があるだろう。

 これを読み、かつても存在した格差を自覚すると、現在の"格差社会"はその延長に過ぎない気がしてくる。では何故いまそれが問題になるのか。ボクが思うに、二つの理由があるのではないか。  一つは、バブル期を経験して日本人の感覚が底上げされたこと。貧しい時代には白いご飯が食べられれば満足だった人も、洗濯機を買い、冷蔵庫を買い、テレビを買うと、今度は車が欲しくなる。客観的に見れば、現在貧しいといっている人も、昭和30年代の庶民から見れば十分贅沢な生活だろう。みんなが幸せと思える基準値が上昇してしまったのだ。
 もう一つは、情報公開、特に給与情報が公開され始めたこと。ある時期になると、各企業の平均年収が雑誌で特集されるのはおなじみ。昔は他人の給料なんて知らなかったからなんとも思わなかったけれども、同業他社の給料が高いことを知れば、心中穏やかではないだろう。そしてこれは、物事の価値が金銭という指標で統一的に評価されてしまうことを示してもいる。例えば、マスコミと製造業のどっちが偉いかなんて比較しようがないが、年収では比較できてしまうのだ。

 このように、過去を知ることで現在を考えるネタには良い本だと思うが、いかんせん、データ解析に慣れていないと読むのが辛い。ボクはすぐにデータを見ながら読むのを諦め、もっぱら文章に集中してしまった。この本は、社会学とかある程度の基礎知識がある人が読むモノのような気がする。

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