デイヴィッド・ルイス作品の書評/レビュー

大統領任命の政治学 政治任用の実態と行政への影響(監訳:稲継裕昭/訳:浅尾久美子)

政治任用問題の一般化への試み
評価:☆☆☆☆★
 本書では、米国の官僚組織に対する政治任用に関して2つの問いを設定している。1つは、組織によって政治任用の多寡があるのはなぜか、であり、もう一つは、政治任用は組織のパフォーマンスにどのような影響を与えるか、である。

 民主党政権に交代する直前まではよく取り上げられていたので周知のことかも知れないが、政治任用とは、官僚組織の管理職に、組織生え抜きの公務員ではなく、政治家が推薦した人材を主に外部から任命することを指す。これにより、官僚組織内部に政治的影響力を浸透させるのが目的だ。
 米国ではこの政治任用が盛んに行われており、大統領交代の際には官僚組織のトップがごっそりと入れ替わるらしい。1、2章では、この政治任用の歴史と、人事的にどのようなパターンで前政権に近い人物を排除するのか、などが書かれている。

 しかしこの政治任用、全ての組織に対して一様に行われているわけではないらしい。とある組織には多くの政治任用がなされているかと思えば、別の組織では全くいないということもある。
 これは、大統領や議会と対立する組織に対しては政治任用を増やして影響力を増す、政治的に価値はないけれど論功行賞としてポストを与える、専門性が高い組織(NASAなど)では職業公務員に任す、など、で説明できるらしい。3〜5章では、この辺りの議論が計量分析に基づいて行われている。

 感覚的に言うと、政治任用には選挙の功績に報いるという側面もあるから、政治任用が増えれば素人がトップについたりして、組織のパフォーマンスが落ちる気がする。でも、役所仕事という言葉がある様に、完全に職業公務員に任せると、サービスが低下する気もする。この辺りについて議論しているのが6、7章だ。
 ここでは、政治任用が増えるとパフォーマンスが低下する傾向がある、という結論が、官僚組織に対する事業評価格付け指標と連邦職員意識調査の回帰分析から得られるのだが、この結論に至る分析結果の解釈には疑問が残る。事業評価格付け指標の回帰分析では、決定係数が0.09であるにも拘らず政治任用とパフォーマンスには負の相関があると結論しているし、連邦職員意識調査に至っては、職業公務員が政治任用を否定的に見るのは当たり前なのだから、そういう結論に至るのは当然である気がする。

 では、この結論を完全に否定するかというと、そういうわけでもない。事実として、素人をトップにつける事で、ひどいパフォーマンスの低下を示した事例があることは間違いない。おそらくは、分析するモデルを単純化しすぎてしまっているのではないか。
 定性的に見た場合、政治的価値が高いポストには適材適所で任命するが、低いポストには選挙で功績があった人間を任命する、という傾向がある。他にもおそらく、単純に統計的に扱ったのでは取りこぼしてしまう要素が多くあるだろう。素人考えだが、単純化した統計モデルに頼るだけではなく、この様な複雑な要素も考慮した上で結論しなければいけない問題なのだろう。ただ、本書が、そこに至るまでの第一歩であることは間違いない。

 あとは日本の研究者が、日本の官僚組織にはどの様な政治任用の形態が適切か、を提言してくれれば良いのだが…。

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