ドナ・ローゼンタール作品の書評/レビュー

イスラエル人とは何か ユダヤ人を含み超える真実(監修:中丸薫監)

一つの国なのが不思議なくらいの状態
評価:☆☆☆☆☆
 本書の最後の方にあるイスラエル建国の父の一人の子孫のコメントを引用しよう。「僕らはしょっちゅうニュースになりますよね。(中略)それに、いつもテレビや新聞の一面に出てるもんだから、みんな僕らのことを分かっているつもりになっています。」これは、この本を読む前のボクの気分をかなり的確に表している。何千年も昔から時の権力者たちと対立し、世界中に離散しながらもユダヤ教を核として民族性を失わない人々。アラブ人との宗教対立。パレスチナとの常時戦争状態。イスラエルという国の問題は外交に集約されると勝手に思っていたけれど、実は内政にも問題を多く抱えた国なのだということをこの本で再認識させられた。
 本書では、初めに、戦争という緊張状態の中に生きるイスラエル国民の現代の考え方を、多くの若者のインタビューを通じて明らかにしていく。戦争やテロを生き抜き、イスラエルという国を守るため国民は一丸となっている。まずはそう思わせておいて、次には、同じユダヤ教を信奉しながらも、ヨーロッパ系、アラブ系、ロシア系、エチオピア系など、全く異なる人種の集合によりイスラエルが構成されていることを明らかにする。じゃあ、人種は異なるけれど宗教が同じだから一つの民族なんだな、と理解しようとすると、同じユダヤ教でも、超正統派、正統派、非正統派という宗派対立があり、それどころか、キリスト教徒やイスラム教徒の人々も住んでいるという事実を突きつけられる。ほら、分っていたつもりの国が、まったく理解できない存在になってしまった!

 しかし、この様な事実を知ると、なぜパレスチナ問題が解決に向かわないのかは理解できてしまう。何よりも、イスラエル国内が一つにまとまらないのだ。超正統派から見れば元々ユダヤ人の土地なのだから譲歩する必要などないが、非正統派やアラブ系イスラエル人は何とか仲良くやっていけないかと思っていたりする。ほとんどの国民が徴兵され戦場に赴くのに、ユダヤ教の勉強をするからという理由で超正統派は兵役を免除される。そんな内外へのいろんな思惑が渦巻き過ぎて過半数を取れる政党などなく、常に連立政権(しかも内部でかなり考え方がずれている)では、統一的な見解など取れるはずもない。
(あげく、宗教的使命感と極度の緊張状態が合わさって、子宮戦争と呼ばれる勢力間の子作り合戦が始まってしまう。)

 翻って日本を見てみると、現在、政権をとるのは民主党か自民党か、みたいな政争が繰り広げられているが、多くの日本人は、どっちが政権をとっても同じじゃないの、と思っていると思う。実際にその通りだろう。何せ二つの政党には、文化的・人種的・民族的背景の違いなどないのだから、決定的な断絶は生まれようがない。
 政治的には遥かにまとまりやすい土壌を持った日本。対して政治的な弱点を抱えるイスラエル。それでも世界における存在感は、イスラエルの方が大きいような気がする。これは何故なんだろうということをしっかり考えないと、日本国内でちっちゃな争いをしている間に、世界からおいてけぼりをくらっちゃうのがオチだろう。

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