ジョシュア・ギルダー作品の書評/レビュー

ケプラー疑惑―ティコ・ブラーエの死の謎と盗まれた観測記録 (共著:アン−リー・ギルダー )

その栄光にかげりなし
評価:☆☆☆☆★
 ケプラーの三法則をご存知でしょうか。
1.惑星は太陽を一つの焦点とする楕円軌道を描く
2.一定時間に太陽と惑星を結ぶ線分が掃く面積は常に一定
3.惑星の公転周期の2乗は軌道の半長径の3乗に比例する
いまではただの物理法則ですが、近代物理学の発展においてこの法則は、天上世界を地上世界と変わらない、物理法則の世界に貶める役割を果たしました。この発見をした人物が、本書の主役の一人、ヨハネス・ケプラーです。
 この法則があらわになるには、もう一人の人物の存在が必要でした。それが、もう一人の主役、ティコ・ブラーエです。いまだ天体望遠鏡の発明されないその時代に、肉眼で、40年にもわたって精密な天体観測の記録を残し続けた人物です。この記録のうち、特に火星の記録がケプラーの法則の発見に欠かせないデータだったわけですが、ここに、本書で取り上げられている火種があります。
 この本はかなりショッキングな話題を中心としています。それは、ブラーエがケプラーによって毒殺された、というものです。物理学の英雄の一人であるケプラーが殺人者であったなんて信じたくはありません。しかし、無常にも著者は、ケプラーの異常な精神を資料から明らかにしつつ、その状況証拠を固めていきます。
 ケプラーの名は物理学史に燦然と輝いていますが、ブラーエの名は脚注に載る程度です。そう考えれば、目の前にチャンスがあり、自分の才能に確信を持っていれば、データの簒奪という行動に出たことは、絶対に理解できないということではありません。
 しかし、全ては400年も昔のこと、いくら毒殺の証拠が挙がったといっても、ケプラーが犯人だなどと断定できるものではありません。著者もそう考えてか、最終的には弾劾するトーンが落ちていきます。
 著者の功績は、ケプラーの性格を自己分析や所管を元に明らかにしたこと、ブラーエの業績を表に出したことだと思います。だからこそ、25章で用いているような選択的思考によるケプラー殺人者説の状況証拠固めは、やって欲しくなかったと思いますが…

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