ダニエル・ケールマン作品の書評/レビュー

世界の測量 ガウスとフンボルトの物語(訳:瀬川裕司)

世界を測るアプローチ
評価:☆☆☆☆★
 地理学者アレクサンダー・フォン・フンボルトと数学者カール・フリードリヒ・ガウスの半生を交互に描きながら、ついには出会うまでの軌跡を描いている。あくまで物語であるため、事実と虚構が入り交じっており、また、間接話法をそのまま日本語訳しているため、妙に途切れなく会話文が続いていて、個人的には読みにくい。
 実地で世界中を歩き回り世界を測量したフンボルトと、あくまで国内にとどまり、主には頭の中で世界を測量したガウスは、そのスタンスが大きく異なる。個人的には物事の本質は雑味を削り抽象化することで見えてくる部分もあると思うので、単に観測しただけでは物足りないと感じてしまう。はっきり言ってしまうと、主観はいらない。

 フンボルトは世界の様々な事象を異常な集中力で観察しながら、しかし人間、特に女性にはその洞察力が全く働かない鈍感な人物として描かれている。一方でガウスは、世界の姿を一瞬に察する明敏な頭脳をもち、他者を愚鈍と蔑みながらも、魅力的な女性に対しては興味津々な人物として描かれている。
 だがこの設定から作者が何を語りたいのかは、ついぞはっきりしなかったように思う。もちろん、読者が察せられることは多々あるのだが、作者が首尾一貫して通したい主張のようなものは見受けられなかった。結局この本は、誰をターゲットに、何を目的として書かれたものだったのだろう?

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