伊坂幸太郎作品の書評/レビュー

モダンタイムス 下

ぼんやりとした絶望
評価:☆☆☆☆★
 井坂好太郎から安藤商会の所在を聞いた渡辺拓海は、何が起きているのかを知るためにその場所へと向かう。これまでに起きたことから、そこには厳しい事態が待っていると思い込んでいたものの、安藤商会とは意外な場所だった。
 安藤商会から東京へ戻り、井坂好太郎から託された小説を妻の佳代子と共に分析した拓海は、そこで彼が込めた思いのいくたりかを知る。そして、事態の中心と思われる人物に話を聞くため、永嶋丈にアポなしで接触を試みるのだった。

 拓海が妻に抗えないように、どれほどの権力者でも抗い得ないシステムの存在が語られる。誰かを悪に任じることもできず、中心すら見えないまま、何もできないということを受け入れるか、抗って志半ばに倒れるかの二択を迫られる、ぼんやりとした絶望が描かれているように思う。

モダンタイムス 上

偶然に込められた作為
評価:☆☆☆☆★
 システムエンジニアである渡辺拓海の妻の佳代子は、非常に嫉妬深い。結婚してから知った事実によると、彼女には二度の結婚歴があり、夫の一人は死亡、もうひとりは失踪したらしい。その原因は彼らの浮気だという。
 四年前にも浮気を疑われた拓海は、妻が雇った謎の男に拉致され、腕を骨折した。そして今、残業から帰宅した彼の前にいる髭の男、岡本猛も、妻に雇われたらしい。彼に生爪を質に取られ、浮気相手の桜井ゆかりの名前を漏らしてしまう。それは、拓海がネットの占いに基づいて勧めた海外旅行で、彼女が日本にいないのを見越してのことだった。

 帰国までの一週間の猶予を得た拓海に降りかかってきたのは、先輩の五反田正臣の投げ出した、出会い系サイトの改修案件だった。後輩の大石倉之助と共に開発場所に向かった拓海は、その案件におかしなことがあることに気づく。
 そして、五反田の残したヒントに基づき、システムの不審点を暴くことに成功した拓海は、そのサイトが、とある単語の組み合わせでアクセスした相手を調べる機能を持っていることに気づくのだった。やがて、その単語の組み合わせを検索した後輩や上司に、不幸が襲いかかる。

 友人の作家、井坂好太郎らと共に、その情報を調べていく拓海は、国会議員の永嶋丈や、元首相の犬飼舜二、大富豪の安藤潤也という名前に突き当たっていく。

グラスホッパー

死者の言葉
評価:☆☆☆☆★
 「魔王」を読んでから「グラスホッパー」を読んだのだが、舞台装置は全く違うけれども、内容はかなり似ていると感じた。そもそも読もうと思ったきっかけは、週刊少年サンデーの連載なのだが、あちらでは2作品が再構成されている感じなので、そもそも言いたいことは同じだったのかもしれない。
 最後まで救いはないし、結局は自分たちの知らない所で事件は収束してしまうわけだけれども、実際の世界もそんなものかもしれない。

   bk1
   
   amazon
   

魔王

人は言葉に縛られている
評価:☆☆☆☆★
 超能力という要素が含まれているが、それはこの作品をノンフィクションからフィクションにするための手法に過ぎない。そんな気がした。
 頭が良いの定義は難しい。人が知らないことを多く知っている人も頭が良いように見えるが、それは知識が豊富なだけだ。本当に頭が良い人は、何もないところから価値あるものを生み出せる人のことを指すのだろう。しかし、この知識がすさまじい量だったらどうだろう。生み出すまでもなく、ただ持って来れば十分に価値あるものに見えるかもしれない。つまり、通常は、情報を入手し、考察し、判断するというプロセスを経なければ行動できないのに、考察するというプロセスをアウトソーシングすることで、考察結果を入手し、判断するということでよしとする世界になりつつあるのではないだろうか。この結果として、人々は誰かの言葉を自分の考えであるかのように錯覚して行動することになる。
 安藤は、考えろ、考えろ、マクガイバー、と言う。彼は、考え、行動することによって、世の中の流れを押しとどめようとするが、結局は濁流に飲み込まれてしまう。潤也は、濁流の外にあって、流れを変えようとする。そして犬養は、流れを作り出していた側だったはずなのに、おそらくは、いつの間にか自分も流されてしまっていることに気づいたのだろう。
 彼らは自分の考えで行動し、発言しているはずだった。しかし、本当にそれは彼らの言葉だったのか。かつて存在した誰かの言葉だったのではないか。本当に彼らは考えて行動しているのか。そして自分は…
 おそらくそこに魔王はいる。

   bk1
   
   amazon
   
ホーム
inserted by FC2 system