荻原規子作品の書評/レビュー

これは王国のかぎ

無駄なことなんてない
評価:☆☆☆☆☆
 涙はきっと無駄じゃない。泣いたことがあるから、その気持ちを知っているから、人を泣かせない生き方だってできる。そして、悲しみを乗り越えるということは、内から外へ、新しい世界へ飛び出すということなんだろうなあ。
 全ての登場人物には役割がある。外に飛び出したハールーン、帰る場所を守るラシード、誰もがその役割を果たした。長い旅を終えて元の世界に戻ってきたひろみに待っている物語はどんなものなのだろうか?

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樹上のゆりかご

ささえてくれるその手があれば
評価:☆☆☆☆☆
 ふわふわとした白い雲のような物語。それが第一印象だった。本当はもっとトゲトゲしていて、荒々しい物語のはずなのだけれど、それを強く感じられない。まるで夏の終わりの積乱雲のような…
 学校というのは結構特殊な環境だったといまになって思う。年齢の幅はせいぜい3、4年程度。同じような環境で育ってきた人間が入っているハコ。自然とワクのようなものができる。これは校則とか、そういうつまらない話をしているわけではない。先輩から後輩に伝えられる伝統とか、ファッションのお約束とか、そういうもの。そういったハコの中で、はじめは縮こまっていた手足を少しずつ、少しずつ、他人にぶつからないように伸ばしていく。それが学校生活なのではないかと思う。
 多くの人がいれば、手足を伸ばしすぎて他人やワクにぶつかってしまう人が出てしまうかもしれない。この作品は、そんな過程を学校行事という形で表しているのではないかとボクは思うのです。
 「名前のない顔のないもの」の存在を訴える近衛有理。いましか本音を言えないんだという奔放な江藤夏郎。それぞれが色々な思いを抱えながら、反撥したり、妥協したりしながら日々を過ごす…
 樹上で揺れるゆりかごは落ちそうで落ちない。見えるところで、見えないところで誰かが支えていてくれる。だから、暴れられる時には暴れてもいいんじゃないかな?いずれ自分が支える側に回れるのならば。そんなことを考えた作品。…サロメ、読んでみようかな。

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