梶山季之作品の書評/レビュー

せどり男爵数奇譚

人を狂わす紙の本
評価:☆☆☆☆★
 せどり男爵とあだ名される笠井菊哉が出会った、本に人生を狂わされたかのようなビブリオマニアたちの生態を描いた連作短編集だ。もちろん創作のはずだが、実際にこんな人がいてもおかしくはない。それほど本は魅力的で魔的な側面も持っているのだ。それは本好きならば、少なからず共感できるところもあるはず。

「色模様一気通貫」
 笠井菊哉がせどり男爵となるきっかけとなったエピソード。中学生の彼は、師匠ともいうべき人物に出会い、そして彼の人生を狂わす本に出会うことになったのだ。そんな話を、セドリーカクテルをちびりちびりやりながら語る。

「半狂乱三色同順」
 せどり男爵の手元にやってきた「ふらんす物語」。それ刊行前に発禁となった永井荷風の著作なのだが、その幻の本があと三冊もあるらしい。そしてそこには、内務官僚のとある秘密が隠されていた。 「春朧夜嶺上開花」  韓国に古書を探しに出かけたせどり男爵は、とある妓生が身につけていたコインに目を奪われる。それにまつわる行動が、思わぬものを彼にもたらすことになるのだが…。

「桜満開十三不塔」
 シェークスピア「フォリオ」の初版本を手にしていた笠井菊哉は、それを占領軍とつながるユダヤ人の婦人に見せたばかりに、とてつもない災難に見舞われることになる。

「五月晴九連宝燈」
 バチカンの神父たちの周辺で連続して起きる殺人事件。それには密輸と、「コンペンジューム・スピリチュアリス・ドチェリーネン」という本が絡んでいる様に見えるのだが…その真相は意外な狂気に彩られていた。

「水無月十三公九牌」
 笠井に紹介された装丁家の佐渡は、一冊の本に人生を変えられた。それは「姦淫聖書」と呼ばれる誤植のある聖書。それを手に入れた中国人が佐渡に依頼したのは、少女の皮膚でそれを装丁することだった。

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