貴志祐介作品の書評/レビュー

新世界より (下)

醜悪な真実
評価:☆☆☆☆☆
 26歳となった渡辺早季は、町立保健所の異類管理課に就職していた。異類とはすなわちバケネズミのことだ。そんなある日、妙法農場に就職した朝比奈覚が、奇妙な話を持ち込んでくる。大雀蜂系のコロニーの兵士たちが、塩屋虻系コロニーのバケネズミに奇襲されたというのだ。
 倫理委員会議長の朝比奈富子、安全保障会議顧問の鏑木肆星、職能会議代表の日野光風が出席した保健所の月例会議に召喚された奇狼丸と野狐丸は、互いに平行線の議論を展開し、いかにも野狐丸が怪しいと思えるものの、決定的な証拠がない。そのまま散開となったものの、それは神栖66町存亡の危機につながる第一歩だった。

 良くも悪くも、10年以上前の5人の少年少女の行動がきっかけをうみ、千年前に生じた歪みが反動をもたらす社会の末路が描かれる。極めて道徳性の高い人々が発揮する残虐性に、人間の原罪を見る思いがする。神栖66町を追い詰める存在の解決も、基本ルールの裏技っぽくて皮肉だ。

新世界より (中)

無邪気な実験動物
評価:☆☆☆☆☆
 外来のバケネズミ土蜘蛛に封殺されていた塩屋虻コロニーを結果的に救った朝比奈覚と渡辺早季だったが、スクィーラが町に状況を報告したため、倫理委員会や教育委員会により二人が処分される可能性は高まった。生き残りを賭けて脱出したところで青沼瞬、秋月真理亜、伊東守と合流することが出来たものの、大雀蜂コロニー軍を率いる奇狼丸将軍が彼らを追跡する気配をひたひたと感じる。

 奇跡的に大人たちを騙しきり、日常に復帰したと思い込んでいた渡辺早季だったが、青沼瞬に変化が起き始めたことで、それは錯覚であったことを知ることとなるのだった。
 大人たちが隠していた事実。そして彼らが子供に感じている恐怖。なぜ彼女たちだったのか。多大な犠牲を払いながら、その秘密が明かされていく。

新世界より (上)

新しい点はどこか?
評価:☆☆☆☆☆
 渡辺早季は、神栖66町の町長である杉浦敬と図書館司書の渡辺瑞穂の娘として生まれた。八丁標という注連縄で囲まれた神栖66町の外には悪鬼や業魔というまつろわぬ存在がいるものの、内側では人々は慈しみ合い、貨幣に依らぬ安定した社会を築き上げていた。その礎となっているのは呪力だ。
 呪力に目覚めぬ子供たちは、八丁標の外に出ることは出来ない。だが、祝霊と呼ばれる現象が起きれば、子供たちは和貴園などの小学校を卒業し、全人学級に進学して呪力の使い方を学ぶ。そして、祝霊が来ない子供の存在を、子供たちが知ることはない。

 全人学級に進学した渡辺早季は、朝比奈覚、青沼瞬、秋月真理亜、伊東守と共に、利根川水系を遡り、霞ヶ浦にカヌーで向かうキャンプに出かけた。そして太陽王の戒めを破り、禁じられた上流域に踏み込んでしまう。そしてそこで彼らは、悪魔のミノシロモドキと呼ばれる存在と出会い、彼らの社会に埋め込まれた欺瞞を知ることになる。

 現代社会と連続した時間軸にありながら、現代から断絶した社会基盤と生態系を持っている世界において生まれた子供たちの当たり前と思っていた常識が、本来の人間の性質から考えると極端に調整されたものであることを暴いていく。
 当然、読者はその違いに気づいているわけではあるが、歴史的人物の存在などから彼らの世界が今の延長線上にあることは明らかでありながら、その差異が具体的に何であるのか、そしてそれがなぜ起きたのかという謎を抱えつつ、読み進めることになる。

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