イアン・ケリー作品の書評/レビュー

宮廷料理人アントナン・カレーム (訳:村上彩)

生き急いだ人生
評価:☆☆☆☆★
 タレーランをはじめ、ナポレオン、ロマノフ王朝のアレクサンドル1世など、時代を代表する人物に料理を提供し、フランス料理を世界に冠たるものにした料理人、アントナン・カレーム。その人生は正に人生を象徴するものだった。
 フランス革命直前の時代、財政難が引き起こした時代の混乱は、一人の放浪児を生み出した。それがアントナンである。場末の料理人に拾われたアントナンは、たちまち実力を表し、十代でタレーランの料理人となり、世界の舞台に踊り出た。その後は、莫大な報酬とともに多くの権力者の下を渡り歩き、一方で執筆によって料理の真髄を広めた。偉大な功績といえよう。
 しかし、華麗な文体に騙されそうになるが、内容をよく読めば、幼少期に金銭に不自由したせいか、お金にはうるさい。報酬が気に入らなければどんな権力者の下にも行かないし、同時は下積み料理人の重要な収入源だったあまりものの横流しも、自ら行い利益を得ることで彼らの収入を奪ってしまう。
 だが、決してお金だけが彼の目的だったはずは無い。自分のつくる料理に誇りを持っていたはずだし、料理人という仕事にも誇りを持っていたことだろう。その証拠に、料理人の服装にも気を使い、現在のシェフの服装の原型を作った。
 料理を愛したがゆえに料理に殺されてしまった人生は残念だと思う。現代に生きていれば長生きして、様々な伝説を作ってくれたかもしれないのに…

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