ブリア・サヴァラン作品の書評/レビュー
美味礼讃 (下) (訳:関根秀雄、戸部松実)
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下巻は主にサヴァランの経験談が語られる。美味しいものを食べるという視点から行われる人間観察という意味で面白い。若干、独善的で、そこが鼻につくといえなくも無いのだが、下品というレベルには落ちないところでとどまっている。
これを読んだあとでは、美味しいものに命を賭けるのが決して恥ずかしいことではないと思えるに違いない。
美味礼讃 (上) (訳:関根秀雄、戸部松実)
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生きるために欠かせないもののひとつ。それは食べ物。この”食べる”ということに無常の楽しみを見出す人々が、本書の言う、グルマンディーズである。
生物の歴史の中で、こういった存在が現れたのは一つの奇跡だと思う。本来はそれが自分にとって危険であるか否かを識別するものであった道具としての味覚を、それを楽しませるための手段を追求するというのだから。生きるためには無駄なことにエネルギーを注げるだけの段階に、人間が到達したということなのだろう。上巻では、サヴァランの味覚理論とグルマン礼賛にほとんどのページが割かれている。
本文中からは軽い印象を受けるサヴァランだが、解説によれば、波乱万丈の人生を送っているらしい。そういった長い流転生活が、彼に祖国の料理に対する畏敬の念を生じさせ、グルマン礼賛へとつながって行ったのだと思う。
彼の理論はほとんど彼の経験にのみ依存しているため、その科学的正当性にはかなり疑問が持たれるが、当時の時代背景を探るには格好の作品だと思う。
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