辻村深月作品の書評/レビュー

スロウハイツの神様 下

狂おしき愛情の擦れ違い
評価:☆☆☆☆☆
 加々美莉々亜がコーキの天使ちゃんとしてチヨダ・コーキに接近し、赤羽環には拝島司という新しい恋人ができる。一方で、森永すみれには好きな人が出来て、長野正義との関係を解消する。
 そんな変化が生じる中、これまでの前提を一変させるようなバイク便の荷物を環が受け取ってしまう。それは、スロウハイツの誰か宛に黒木から送られた、チヨダ・コーキと人気を二分する連載作品の原稿だった。

 コーキの天使ちゃんの正体は?環と妹の赤羽桃花の幼少時代の真実とは?全てが明らかにされるとき、そこには狂おしき愛情の擦れ違いが存在する。

スロウハイツの神様 上

影のある共同生活
評価:☆☆☆☆☆
 大学生の時に著名脚本家の後任としてデビューした赤羽環は、伝手で手に入れたアパート「スロウハイツ」で友人たちと共同生活を送っている。
 3階には赤羽環が、2階にはチヨダブランドを形成している売れっ子小説家のチヨダ・コーキこと千代田公輝と彼の担当編集の黒木智志、環の親友の円屋伸一が、1階には児童漫画家志望の狩野壮太、映画監督志望の長野正義、イラストレーターの卵の森永すみれが住んでいた。

 しかしこの生活は、円屋伸一がスロウハイツを飛び出し、加々美莉々亜という女性が入ってきたことで変わり始める。

ハケンアニメ!

アニメ愛の形
評価:☆☆☆☆☆
 雑誌「anan」に連載された作品の単行本化。プロデューサー、アニメ監督、アニメーターを軸に、ある1クール(3ヶ月13回)での覇権を取るためのアニメ制作のトラブルを描きつつ、派遣の様な過酷さでアニメに関わる人物の内面や、アニメに対する様々な形での愛情を描いた作品だ。
 本作は下記の4章構成になっており、各話でちょいと顔を出した人物が次の章の主人公となる。

■ 第一章「王子と猛獣使い」
 「スタジオえっじ」プロデューサーの有科香屋子は、駆け出しの頃に観て衝撃を受けたアニメ「光のヨスガ」の監督をした王子千晴を口説き脅し、9年ぶりの新作「運命戦線リデルライト」の制作に入る。ところが、人気ラノベ作家のチヨダ・コーキまで引っ張り出して書いた脚本にも納得できず、3話までしか脚本が出来上がっていない状態で、姿を消してしまう。
 社長からは監督交代を申し渡されるものの、企画に乗り気なフィギュア会社「ブルーオープントイ」企画部部長の逢里や人気造形師の鞠野カエデに失踪の事実を告げられず、また、王子監督との仕事を諦めきれない有科は、制作現場の原画マンである迫水との板挟みになりながらも、何とか時間を稼ごうとするのだが…。

■ 第二章「王女と風見鶏」
 幼少期はアニメや漫画と全く関わりなく過ごしながらも、有名大学在学中に観た野々崎努監督のアニメ「ミスター・ストーン・バタフライ」に自分の幼少期を肯定された斎藤瞳は、野々崎監督のいたトウケイ動画に入社する。そしてついに、「サウンドバック 奏の石」の監督を任されることになった。
 プロデューサーの行城理と上手くかみ合わないながらも、「運命戦線リデルライト」に勝って覇権を取るために奮闘する斎藤。しかし、アイドル声優の美朱杏樹や群野碧ともめてしまい、落ち込んでしまう。そんな時、現場にアドバイスに現れたのは王子千晴だった。

■ 第三章「軍隊アリと公務員」
 地方都市のアニメ制作会社「ファインガーデン」の原画マンである並澤和奈は、社長命令で、地元を舞台としたアニメ「サウンドバック 奏の石」の聖地巡礼コース立ち上げに関し、市役所観光課の宗森周平に協力することになる。
 当初は畑違いの仕事にモチベーションがわかず、アニメに全く興味がない宗森周平の言動にイラつく並澤和奈だったが、やがて宗森周平の熱意を知り、自分の仕事として取り組む決意をするのだった。そして、地元の祭りとのコラボレーション企画として、サバクのキャラクターをペイントした祭り用の船を制作することを思いつく。だがその実現には数々のハードルがあった。

■ 最終章「この世はサーカス」
 結末と後日談。


 王子千晴で大々的に物語を立ち上げるものの、彼が活躍するシーンはあまりない。並澤和奈が一番で、斎藤瞳が二番というところだ。これはおそらく、連載媒体が「anan」だということが大きく影響していると思われる。格好良い系のキャラクターよりも、平凡そうに見える人がハッピーエンドに向かっていく方を上位に取っているのだろう。
 大きく扱われた二人についても、ハッピーエンドの方向性がかなり違う。一人は仕事で成功して次のステップに進むし、もう一人は恋愛的に成功する。そして後者の方が大きく扱われているということは、読者がそちらの方に大きな興味を持っていると編集部が考えていると解釈すべきだろう。もしかすると連載中の反応を受けて、ストーリー構成の手直しが入っているかもしれない。

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