宮部みゆき作品の書評/レビュー

ブレイブ・ストーリー (下)

さよならは言わない
評価:☆☆☆☆★
 ジョゾにのって訪れた凍てつく大地。そこで滅びようとしていたのは、巨大な自尊心と空虚な心を持ったかつての”旅人”のなれの果てだった。望みを捨ててしまっても、それを受け入れてしまえば、人間は普通に生きて行ける。しかし、それはとても悲しい。
 滅びに瀕した”幻界”を救うために自分の望みを犠牲にするのか、それともその逆か。迷うことをやめてしまったものと、迷い続けて自分を失いかけたもの。それぞれの想いは北の帝国をも巻き込み、収束していく。
 一体どんな結末になってしまうのかと心配したが、落ち着いた先はとても現実的で快い。一度過ぎ去ってしまった時間は巻き戻ることは無いのかもしれないが、新たに流れる時間を変えることはきっとできる。

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ブレイブ・ストーリー (中)

後悔しない選択
評価:☆☆☆☆★
 キ・キーマ、ミーナら旅の仲間に恵まれ、旅を進めて行く一行。しかし、良いところばかりではない。現実の世界で起こった心の痛みを抉り出すような試練がワタルを襲う。そして、ミツルに見え出す変化…。”幻界”に入り込んできて本来の目的を失いつつあるワタル。全てのしがらみを断ち切って、自分の目的のためだけに進み続けるミツル。それぞれの道を進む。
 世界が気まぐれに選んだ二人の”旅人”に課される過酷な運命と、自分と仲間の幸せの両天秤にかけられながら惑うワタルの姿はとても人間らしい。全てを断ち切るというのは難しいと思うかもしれないが、実は意外に簡単だ。全てを無視すればよいのだから。
 ワタルにとって後悔しない選択とは何なのか?彼の選んだ答えは、次巻で明らかにされるのだろう。

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ブレイブ・ストーリー (上)

扉の向こう
評価:☆☆☆☆★
 昨日の次は今日、今日の次は明日。いつまでも続くかに見える毎日は、ちょっとしたきっかけで、その軌跡からずれてしまう。平凡な小学五年生のワタルに訪れた、二つの出会いと一つの別れは、彼を”幻界”と呼ばれる世界へと導く。
 出会う人、出会う人が自分をもてはやしてくれた時代はすでに去った。誰かに対して優越感を感じたり、逆に劣等感を感じたり、ほのかな恋心を抱いてみたり、自分だけの世界から社会の入口へと飛び込み始めた少年に突然訪れた両親の離婚…。この運命を変えられるという”幻界”への旅は、現実からの逃避に見えなくもない。
 これが現実からの逃避に終わるのか、それとも何かを得て帰還するのか、あるいはただの夢なのか。”幻界”での旅がワタルに何をもたらすのか楽しみだ。

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