三崎亜記作品の書評/レビュー
失われた町
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数十年に一度、ある日忽然と町から人が消滅してしまう。そこに住んでいる人は、それが自然なことだと思い、そこから逃げ出そうとはしない。そんな世界の常識に対して、それぞれが様々な悲しみを抱えながらも、それぞれの方法で向き合っていく人々を描いている。
1冊のそれほど厚くない単行本の割に、メインとなるキャラクターが多すぎるのではないか?という印象を抱いた。そのために、誰の視点で世界を見たらよいかが分からない。ある人の視点から見れば今の日本と変わらない世界のようにも見えるし、別の人の視点から見るとまったく違う、華僑風の、地球外に移住したような世界にも見える。
そういうよく分からない世界観を受け入れて、気にせず読める人で、しっとりと繰り広げられる物語が好きな方ならば、気に入るかもしれない。
となり町戦争
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この本の中の「戦争」という単語を、別の単語、例えば町合併事業に置き換えたとしてもお話が成立してしまうかもしれない。
地方自治体が対立解消手段として、あるいは公共事業として、交戦権を行使する世界。主人公である僕のもとに、となり町との戦争のお知らせが届く。そして僕は、となり町を通って通勤しているという理由により偵察要員に選ばれる。こうして戦争に参加することになった僕であるが、最後の最後まで、彼は戦争の影しか見ることができない。彼が戦争を感じるのは、広報誌に掲載された戦死者数と、役場の担当者である香西さんからの情報のみ。
読み手にとっても、この戦争の存在感が希薄に感じられるのは、何のために戦争を行っているのかがまったく見えないせいかも知れない。業務として、淡々と処理をする香西さん。慣例に従って、全てを外部委託して自分たちでは何も分かっていないのに、生死の判断だけはしながら戦争を遂行する。
これは、お役所仕事に対する痛烈な批判であるとともに、そういうものに黙って従って生きている人々への批判をこめたお話なのかもしれないと思った。
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