湊かなえ作品の書評/レビュー

告白

きれいごとでは済まされない
評価:☆☆☆☆☆
 ベストセラーは基本的に寝かせてから読む主義なので、こんな時期になってしまった。すでに映画化もされているため、内容についてはよく知っている方が多いかもしれない。
「第一章 聖職者」「第二章 殉教者」「第三章 慈愛者」「第四章 求道者」「第五章 信奉者」「第六章 伝道者」という六章は、全て事件に関わった人々の独白で語られる。娘を殺された教師、犯人の級友、少年Bの母親、少年B、少年A、そしてまた教師と、独白する人は移り変わっていく。

 物語は、事故でプールに転落ししたと思われていた幼児が、実は中学生によって殺されていたのであり、その母親である教師が終業式後の教室で犯人を指摘するシーンから始まる。第一章〜第六章で一連の事件と、それに関わる人々の心境を語りながら、各章がひとつの短編として成立している。

 娘を殺された怒りを聖職者という枠で押し殺したと見せながら、犯人の恐怖を喚起する復讐を成し遂げていく教師。教師の復讐後に発生するいじめから、悲劇のヒロインの様な役を演じ始める女子生徒。ひきこもりやニートなどと名付けて正当化する姿勢を嫌う公正な人間であると思いこみながら、子どもが殺人者という枠に納まった途端に自分の行動を正当化してしまう母親。自己を確立しようとして自分を見失っていく少年。自分を母親に認めて欲しいばかりに、自分が馬鹿にする様な人間になってしまう少年。
 自分がなりたくない人間像を否定しながら、結局、自ら選んだかのように自分が否定するような人間に堕ちていく過程が描かれる。

 終わり方に救いがないという人も多いだろう。しかし、自分の大切な人を失うという怒りと悲しみは、きれい事では済まされない。普段は物分かりの良い様な事を言っていても、実際に自分がその立場に落とされれば、自分が否定していた様な行動をとる。もしくは自分が信じたいように自分で信じ込む。
 そういう人間の心理を描いている作品だと思う。もっとも、こんな文章もきれいごとなのかもしれないが。

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