綿矢りさ作品の書評/レビュー

夢を与える

感じたことの素直な発露
評価:☆☆☆☆★
 約三年放置していた本を読んだので、今更の感はあるけれど感想を書いておく。同じ様に放置していた桜庭一樹「ファミリー・ポートレート」も最近読んだのだけれど、突然大きな文学賞を取って有名になった人は、受賞後第一作としてそのときに感じたことを題材に選びやすいのかな、と感じた。本作はチャイルドモデルから芸能界に入りブレイクした高校生夕子の物語だ。
 フランス人の父親と日本人の母親を持つ夕子は、幼い頃にあるメーカーと半永久的なCM契約を結ぶ。彼女の成長を追う様に製作されるCMは、彼女に視聴者が求める姿を保ち続けることを要請する。どこにでもいる様で、いつまでもかわいい少女。
 生まれた時から愛をつなぎとめる役割を負わされ、視聴者に夢を与える役割を淡々とこなしてきた彼女は、17歳で初めて恋をする。誰かが求める姿を演じるのではなく、自分が求める愛のために、これまで切り捨ててきたものを慌てて回収する様に行動する彼女だが…。
 ドキュメンタリーではなくドラマ、夢を与える側は夢を見ることは出来ない、かしこく簡単に笑わなくなった女の子をテレビで見たいとは思わない。物語の随所随所にちりばめられたセリフが、おそらくは作者の感じたことを伝えてくれている気がした。

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