赤城毅作品の書評/レビュー

項目 内容
氏名 赤城 毅 (あかぎ つよし)
主要な著作
  • 魔大陸の鷹 (1, 2, 3, 新版, 4, 5, 6) (完)
  • 帝都探偵物語 (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 外1)
  • 有翼騎士団 (1, 2, 3) (完)
  • ノルマルク戦史 (1, 2, 3, 4, 5) (完)
  • ノルマルク戦記 (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7) (完)
  • 遊戯シリーズ (1, 2)
  • 時の剣 (1)
  • 猫子爵冒険譚 (1, 2)
  • オフィス・ファントム (1, 2, 3)
  • 書物シリーズ (1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8)
  • 虹のつばさ
  • 薔薇とサーベル
  • 氷海のウラヌス
  • 天皇の代理人
  • 八月の残光
  • 冒険王(1, 2)

 赤城毅さんの作品の書評/レビューを掲載しています。

冒険王 (4) 日露スパイ決戦

評価:☆☆☆★★


冒険王 (3) 旅順の謎

評価:☆☆☆★★


桜守兄弟封印ノート ~あやかし筋の双子~

評価:☆☆☆★★


冒険王 (2) 北京潜入

因縁の敵手
評価:☆☆☆★★
 諜報員になってから五年が過ぎた志村一心は、北京の義和団によって包囲された列強公館を防衛する部隊に援軍を送るため、居留地内の正しい情報を探ることを命じられる。
 現地の女性と共に北京への潜入を試みる志村一心だったが、彼の前に、かつて敵対した男が再び立ちふさがる。

冒険王 (1) ビスマルクの陰謀

スパイ誕生
評価:☆☆☆★★
 日清戦争後の独露仏の三国干渉に憤る陸軍中尉の志村一心は、ドイツ外務省主催のレセプションで三国の外交官と決闘騒ぎを起こし、陸軍士官の身分を追われることになってしまう。
 しかし、身寄りもなく、英独仏の三ヵ国語を話せる彼を手放すのが惜しいと考えた陸軍参謀本部は、Sというコードネームの凄腕スパイの下で徹底した訓練を受けさせ、英独仏露清の五ヵ国語を完全にマスターした諜報員として生まれ変わらせることにするのだった。

 そしてその卒業試験において彼に命じられたのは、領地に引きこもる鉄血宰相ビスマルクから対日政策の方針を探り出すことだった。

書物紗幕

あっさり完結
評価:☆☆☆☆★
 長崎県五島市鉤砥矢島に招待された新光国際大学准教授の半井優一こと第二国際古書籍商連盟(SILAB)ナンバーワンの書物狩人ル・シャスールと、彼の助手と称して付き添うレディ・Bは、隠れキリシタンの長である御老・陣内徳太郎の命を受けた陣内沙希と出会う。
 御水方・池見邦男、耳口役・紀野正久、長男の昭一、長女の克子、次男の修吾らの紹介を受けた二人の前に現れたのは、ライデン大学名誉教授のウィレム・ファン・ドースブルフを名乗る書物偽造師ミスター・クラウンと護衛のエンリケ・アズナールだった。

 彼ら書誌学一流の人々を集めた徳太郎の目的は、伝来の呪いの書の鑑定を依頼することだ。呪い除けのお祈りを経て取り出されたその書物には「さきのおみそなわし」というタイトルと、ミシェル・ド・ ノートルダムという著者名があった。いわゆるノストラダムスの予言書の未発見版だ。
 そしてこの書物の呪いであるかのように殺人事件が発生する。

 シリーズ完結。簡潔だからこそ、もっと歴史ネタを絡めてほしかったのだが…ネタ切れかあるいは面倒だったか。

八月の残光

軍人の本懐
評価:☆☆☆☆★
 昭和二十五年五月一日、連合艦隊司令部は、各種情報源からドイツ首都ベルリンが陥落したことを知った。連合艦隊先任参謀神重徳大佐は、連合艦隊参謀桐山静雄少佐の立案した「閃作戦」に実行許可を出す。
 許可を受けた少佐は、恣意専横の誹りを恐れず、連合艦隊要求を称して第六艦隊から潜水艦を一隻、南方へと派遣し、木更津の第五飛行隊から艦爆・艦攻両用の新鋭機「流星改」を三機確保する。彼の考える作戦には、一式陸攻も九七式艦攻も不足だからだ。

 同じ頃、木野下英明大佐を旅団長とする機動第一旅団の南郷圭介大尉は、関東軍総参謀長秦彦三郎中将の密命を受け、「緋七号作戦」発動の準備を整えていた。

 ドイツ敗戦を受け、ソビエト連邦の対日参戦は既定路線となる中、敗北を前提として被害を最小限に抑えるため、その命を賭けて特攻作戦をやり遂げようとする男たちと、銃後でその身を案じる人々の姿が描かれる。

書物奏鳴

歴史の闇、現在の闇
評価:☆☆☆☆☆
 第二国際古書籍商連盟(SILAB)に所属するナンバーワンの書物狩人であるル・シャスール/半井優一と、彼が関わることになる、世に出れば歴史や政治を揺るがしかねない書物にまつわる人々の物語の第七弾だ。ナンバーワンの書物偽造師ミスター・クラウンも登場する。

「魅せられたひとびと」
 龍崎コンツェルン総帥にして著名な昆虫標本コレクターである龍崎壮太カからアーサー・ウィドマーク「ニューギニアの動物界」の探索を依頼されたル・シャスール。それは、一頭で人間すら殺す猛毒を持つ未発見の蝶の図解が掲載された自費出版本だ。
 既存の5冊の内、最後の一冊の所有者である緑川由布子博士の遺児である小学生の緑川守に会いに向かったル・シャスールは、彼の亡き父である緑川幸作が所有していたオキシニウスアゲハの標本と、今回の依頼に秘められた過去と謎を詳らかにしていく。

「旧式の陥穽」
 ド・マルシャン元中尉からジョルジュ・シムノン「ある男の首」の確保を依頼されたル・シャスールは、彼から外国・防諜文書調査機関(SDECE)、現在の対外治安総局(DGSE)と秘密軍組織(OAS)の二重スパイだった事実を告白される。そしてシャルル・ド・ゴール将軍暗殺を防ぐ助けとなった彼は、いま現在、OAS残党から報復を受けようとしていた。現場に居合わせたル・シャスールは、戦闘に巻き込まれる。

「天はみそなわす」
 祖父サー・エドウィン・マーレィ提督の遺産を継いだはずのアリシア・マーレィは、その遺産である、祖父の屋敷と蔵書に違和感を抱えて暮していた。ここは、子どもの頃の思い出が残された場所ではないという違和感。そんな彼女の前に、新光国際大学欧米文化学科西洋文化史専攻准教授の半井優一が現れ、その違和感は正しいと告げる。思い出の場所に秘す、哀しい事情とは?

「狩られた狩人」
 外国人排斥と称して大量殺人事件を起こしたナチ地下運動(NSU)の背後でドイツ国家民主党(NPD)が糸を引いていると告発した、内務省連邦憲法擁護庁(BfV)こそが、ツヴィッカウ・トリオをはじめとするスパイを送り込んで扇動し、その事実を隠蔽したという大スキャンダルに関連し、ヴァチカンの枢機卿までもが事件に関わっていたという偽書をエサにして、書物偽造師ミスター・クラウンがル・シャスールを罠にかけようとする。果たしてその罠を見破ることが出来るのか?

書物審問

見立て殺本事件
評価:☆☆☆☆☆
 スコットランドの霧深い山奥にある「書物城」に四人の紳士が招待された。彼らはいずれも稀覯本を携え、城主ゴドフリ・シャルケンにそれを見せることを約束しているらしい。ところが、指揮者エルンスト・シュタウファーが持ち込んだ、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの未発表総譜が盗まれ、直後に城と外界をつなぐ唯一の吊り橋が爆破されてしまう。
 吊り橋はこちら側から破壊されていたため、犯人は城内の誰かの可能性が高い。そして、未だ稀覯本は三冊残っている。疑心暗鬼になる人々に対し、ル・シャスールは持ち込まれた本に隠された来歴と、それぞれの共通点を見出し、犯人を追い詰めていく。

 将軍アマン・デファルが持ち込んだミハイル・ニコラエヴィチ・トゥハチェフスキーの報告、実業家ヤン・スワヴェクの持ち込んだラヴレンティー・パーヴロヴィチ・ベリヤのレイプ被害者を集めた写真集、そしてほかの二冊にも共通する、内務人民委員部枢密図書館の所蔵印。それらはいったい何を意味するのか?

 閉鎖された城内だけで物語が展開するので、ル・シャスールが世界各地を飛び回り、文献にあたって情報を集めていくというような展開ではなく、彼の知識に依存して共通項を導きだし、そこから目的と犯人をあぶり出していくという形を取っている。なので、読者が動機も含めて論理的に答えにたどりつくのは無理だ。
 個人的にはいつもの短編集っぽい作りの方が面白いとは思うが、網にかけたと思っている相手を逆に網にかける陰険さはいつも通りであり、その動機が感情的であることがいつもとは違うところという気がする。

天皇の代理人

歴史の影で奔走する人々
評価:☆☆☆☆☆
 昭和四年から昭和二十年を舞台に、外交官の津村昌雄が出会った、外務省嘱託で特命全権大使相当の権限を持つという砂谷周一郎にまつわる物語を描いている。戦争に至るまでの外交史という視点で、ポイントポイントで起きる事件を、まるでホームズとワトソンのコンビのように解き明かし、日本の進むべき道を修正しようと奮闘する人物が砂谷と津村なのだ。
 なぜ本書のタイトルが天皇の代理人なのかの真の理由は、本書の最後で明かされている。


「死神は誤射した」
 箱根富士屋ホテルで変死した、幣原喜重郎外務大臣の腹心で駐支公使の佐分利貞男の後始末のお使いに出された外交官補の津村を待ち受けていたのは、嘱託でありながら特命全権大使相当の権限を持つ若い男、砂谷だった。
 砂谷は、自殺として処理された公使の事件を掘り返し、密室殺人として解き直そうとしていた。そしてその真相には、関東軍の支那工作と、外務省の和平勢力とのせめぎ合いの履歴が隠されていたのだ。


「頑固な理由」
 英国に三等書記官として着任した津村昌雄は、大使の吉田茂に呼び出され、砂谷周一郎と再会する。日本大使館に寄宿していた白洲次郎の紹介で、英国内務省参事官のウィリアム・ヴァーノン・リアモンドに面会した砂谷は、彼にピーテル・ファン・ズーレンを解放するように告げる。
 何が何だか分からないまま、ズーレンなる人物を引き取りに向かうことになった津村は、そこでちょっとした荒事に遭遇し、今回の件が、辰巳栄一中佐が駐在武官としてやってきた理由と、クリヴィッキー機関に関係していることを知ることになるのだった。


「操り人形の計算」
 ドイツに二等書記官として着任した津村昌雄は、大使の大島浩から機密費の支給を受け、スパイを子飼いにして情報収集にあたっていた。そんなある日、海軍総司令部にタイピストとして勤務する女性から、シンガポール要塞の防衛態勢に関する文書を入手したとの連絡が入る。
 喜び勇んで日本の息のかかったカフェでその女性と密会した津村が戻って代金の手配をしようとした時、日本語で声をかけて来た男は砂谷だった。そして彼は津村に思いもよらぬ返事を先ほどの女性に返すように告げられる。


「終幕に向かう列車」
 スイス公使館に一等書記官として着任した津村昌雄は、公使の加瀬俊一からの指示で、グランドホテル・ドルダーに人に会いに向かうことになる。そこにいたのは大方の予想通り、砂谷周一郎だった。
 終戦のために奔走してボロボロになっていた砂谷は、チューリッヒからベルンまで、フリードリヒ・ハックという人物の護衛に参加して欲しいと依頼する。彼はアメリカ戦略情報部欧州総局長アレン・ダレスとのパイプを持つ人物であり、藤村義一中佐の意を受けて、終戦に向けた準備をしている人物だったのだ。

書物輪舞

歴史の闇に隠された真実、あるいは偽書
評価:☆☆☆☆☆
 世に出れば政治や経済を揺るがしかねない危険な内容が書かれた書物のみを扱うという書物狩人の中でもナンバーワンと言われるル・シャスール、半井優一の活躍を描くシリーズの第五弾。短編四本を収録している。

「死すること許されぬならば」
 防衛省消防本部の書庫から一冊の本が消えた。本部長の香取久一陸将に調査を命じられた情報官・上条龍作一佐は、容疑者のロシア人と接触した大学准教授・半井優一の話を聞きに出向く。半井をスパイとあやしむ上条は、徹底的に彼の身元を洗うのだが…。
 失われたのは、ソ連から亡命してきたリュシコフが携えていたという、編み物の教本。その本に書かれた英語のメモ書きから、ル・シャスールはロマノフ王朝の最後に関するある真実を導き出す。

 日本のインテリジェンス・オフィサーと、書物狩人の対決?というか、一方的に敵視して破れてしまったというか。上条一佐が優秀な人物であるだけに、ル・シャスールの能力が際立つ構成になっている。

「書物の復讐」
 本を万引きして売りさばくことが常習化しているサラリーマン・加納達也は、「昭和十六年帝国海軍作戦計画」と書かれた赤い本を万引きしたばかりに、荒事に慣れた白人に人質を取られ、命まで脅かされそうになってしまう。
 そこに現れた銀髪の人物・半井優一は、彼の言動を心底軽蔑しつつも、失われようとしていたその本を保全し、そして加納に事件の真相を教えるのだった。  本の万引きをする人間を徹底的に侮蔑しつつ、それと同じくらいに存在価値のない差別主義者の暴挙を食い止めるという、二種類の悪人が登場する作品となっている。

「ダイヤモンドよりも永遠に」
 ルーマニア女性のナディア・ドリメールから、チャウシェスクを批判したセルジウ・イサレスクの遺作「急行」の正誤表を入手する依頼を受けたル・シャスール。
 だが彼の前に、朝鮮労働党対外調査部のエージェントが現れ、その成果を横流しするように脅す。そこには、彼らの目をくらませる財宝の在り処が隠されているというのだ。

 何十年も経って腐っていなかった死体の理由が最もホラーな作品。しかしそのホラーには、とても美しい思いが寄り添っていたのだ。

「やんごとなき犯罪」
 ジャック・ザ・リッパーを生みだした魔術書「黒い光」を取り戻して欲しい。ロンドン警視庁のウィルボット警視正から依頼を受けたル・シャスールはシカゴに飛ぶ。そしてそこで見つける、魔術書の真実とは…。
 ル・シャスールの不倶戴天の敵である贋作者ミスター・クラウンが現れ、彼にひと泡吹かせようとまたもよからぬたくらみをする。

書物幻戯

一冊の書物が世界に混乱をもたらす
評価:☆☆☆☆☆
 ストックフォルムで発見されたアクセル・ノルベリという男性の刺殺死体。その男性には、フィロソーフェンという、書物狩人としての名前があった。第二国際古書籍商連盟、SILABの書記長から依頼を受けた半井優一ことル・シャスールは、フィロソーフェンが亡くなる直前にアルカイダに流したという書物を追うことになる。
 一方、その頃、テヘランとラングレーでは、その書物が重大な事態を招いていた。VEVAKの制止を振り切りテロを企画する黒獅子サハン・ヘダーヤトの動向をつかんだCIAが、それを阻止するために中央軍を動かす事態にまで発展していたのだ。

 刻一刻と緊迫していく情勢の中で、その事態の中心にある一冊の書物「災厄の書」の行方と真相をめぐり、ル・シャスールとミスター・クラウンが見えない火花を散らす!

 物語全体としての筋の行方も気になるけれど、随所に挟まれる公文書館などでの検索描写が妙にリアリティを高めてくれて、興味をひきたててくれる。
 今回は特に構成として、軽井沢に住むワトソン役の作者が登場する部分もあり、紙幅の関係上、様々な点で余裕があった気がする。

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氷海のウラヌス

背中で語る男達
評価:☆☆☆☆☆
 日米開戦前夜。かつては海軍の主流派でありながら、対米戦争反対を公然と唱え閑職に回されていた堀場季四郎大佐は、まさにその対米戦争を有利に進めるための布石として、ドイツへ特使として派遣される命が下される。
 ヒトラーへの手土産である九三式魚雷を管理する望月大尉と共に大佐を乗せたドイツの仮装巡洋艦ウラヌスは、北極海を経由してドイツを目指す。ソ連、そして英国海軍の勢力圏である海を渡り、彼らは任務を果たすことができるのか。

 自らの主義主張、野心など、それぞれを突き動かす根底の個を持ちながらも、帝国海軍軍人として、自らの持ち場を守るという役割からは逸脱しない強さを見せる堀場や永見。東洋人を黄色い猿と見下しながら、自らの任務を忌避しながらも、きっちりと仕事はこなすハイケン。立場の違いはあり、心に想うことはありながらも、その行動には一切の迷いがないのだ。
 戦争は無駄だと思いながらも、その戦争を有利に進めるための捨石になるかのごとき彼らの行動は、確かに馬鹿馬鹿しいと言えるかもしれない。しかし、彼らが軍人であると言う一点を考慮するならば、彼らの行動は職業倫理に適ったものといえると思うし、それに美しさを感じてしまう自分もいる。
 誰もがおかしいと思っているのに、何故か時代の流れはそのおかしなところに向かってしまう。そして、それに気づく時には、もう引き返せないところまで来てしまっているのだ。この狂った様な歴史の繰り返しは、どうして引き起こされてしまうのだろう。

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書物法廷

書物が人を躍らせる
評価:☆☆☆☆☆
 このシリーズは作者の他の作品とは少し毛色が違うのだけれど、相変わらず面白い。今回は近現代史の歴史的事実を下敷きにして、書物狩人<ル・シャスール>の仕事を描いている。近現代史なので、現在進行中の歴史もあれば、第二次世界大戦にまつわる歴史もある。
 世界中のアメリカ海軍基地に爆破テロを仕掛けるテロリストの犯行動機とミッドウェイで起こった人間以外の悲劇や、40年前にアメリカ空軍戦略航空軍団が引き起こした事故とポオの研究書との関係など、どこまでが事実でどこからが虚構なのか迷ってしまうほどだ。

 ル・シャスールは暴力行為に長けていないと言うわけではないけれど、書物に携わる人間らしくと言うべきか、直接的な暴力は用いず、事態は常に水面下で進行し、彼が相手と対するときには、全ての解決が用意されている。
 今回、書物狩人に対立する謎の人物ミスター・クラウンが登場し、次巻以降で直接対決する舞台が整った。メフィスト連載作なので順次発表されていくだろうが、ボクとしてはノベルス化される時が楽しみだ。

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薔薇とサーベル ナポレオン戦争秘史

分かりやすいヒーローの活躍
評価:☆☆☆☆★
 ウィーン会議に出席しているプロイセン国王の護衛役として赴任してきたばかりの軽騎兵大尉エドゥアルト・フォン・リスマイヤーは、仮面舞踏会の会場で出会った令嬢と馬車で移動中に、覆面の男たちの襲撃を受ける。
 自慢の馬術と剣術で彼らを撃退することには成功したものの、正体を突き止めることには失敗したリスマイヤーだったが、プロイセンの知将グナイゼナウの命により、襲撃者の背後にある組織を探ることになる。
 彼の探索を邪魔に思った敵は、リスマイヤーの唯一の弱点であり敬愛する義姉を攫い、リスマイヤーを意のままに操ろうと試みるのだが…。

 めっぽう強い色男だが義姉には逆らうことが出来ないリスマイヤーと、欧州の大国による旧体制を憎み、追放されたナポレオンを復位させようと行動する健気で気丈な少女クラウディアという、ヒーローとヒロイン。リスマイヤーのお目付け役のギュンターと、老元帥ブリュッヒャーなどの元気なおじさんたち。そして、陰謀を画策する影の組織などが、混乱期のヨーロッパという魅力的な舞台で、分かりやすい英雄譚を繰り広げます。

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書物迷宮

私は語らない。あなたが読み解け
評価:☆☆☆☆☆
 他の作品とは少し趣が違い、作者の学者的側面が強く出ている作品だと思う。ヨーロッパ史に興味があれば、かなり面白く読めると思うし、色々背景を調べてみようかな、という気になってくる。ボクは人文系の研究生活というものがどういうものか良く知らないけれど、その一端を垣間見た気分。

 このシリーズは二作目だが、政治や歴史を揺るがす可能性のある書籍を収集する諜報機関に属する東洋系の男が、政治に影響を与えるような書籍を収集する諜報の世界のプロが、その書籍にまつわる事柄を暴き、書籍関わる人々に影響を与えていく物語。諜報の世界に生きる人間なのに、暴力的シーンは一切なく、登場した瞬間には全てが解決している、という感じ。
 続編がメフィストで連載されるらしいので期待。

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書物狩人

静かなる自信
評価:☆☆☆☆☆
 すべてはフィクションなのに、地に足の着いた、リアリティを感じられる要素がそこかしこに詰め込まれている。著者は初めて自分のホームで作品を書いたのかもしれない。著者のほかの作品のように、エンターテイメント性を高めようとして生じる上滑りした感覚は感じられない。
 石版や粘土板、パピルスの時代から存在する、記録を残したい、誰かに伝えたいという人類の欲望は、本という形を持って我々のそばにいる。その記録は、幾星霜の月日を飛び越え、普通ならば知りようも無い過去の出来事を教えてくれる。
 同時に、本はただ楽しみを与えてくれるツールでもある。そんな本に魅了され、命に代えても手に入れようという人物がいたとしても、ボクは不思議には思わない。それは、本を置くスペースが無くて、文字通り泣く泣く手放したことがある人間には共感してもらえるはずだ。
 この作品は、そんな本に取り付かれた人間の物語。

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氷海の狼火―魔大陸の鷹シリーズ

荒唐無稽と呼ばないで
評価:☆☆☆☆★
 新島を目指し北極海を突き進む一隻の巡洋艦「黒姫」。かの貴婦人に襲い掛かってくる新鋭戦闘機や謎の潜水艦。ようやく辿りついた島を守る恐竜たち…。こうやって並べると胡散臭い物語のように感じなくもないが、これは正統的な冒険小説。少し異色なのが、主人公が妙に弱気なところだろうか。でも、決めるところは決める!
 いまや人工衛星からの映像でセンチ単位のものまでとらえてしまえる時代。氷海を乗り越えて探検する、なんてことは必要ないかもしれないけれど、だからこそあこがれる世界。…ボクなんかがそこにいればすぐやられちゃう端役程度かもしれないけれどね。
 オカルトやら軍事やら剣術やら美女やら。あらん限りの要素が盛り込まれています。ただ今回は、チャンバラシーンが少ないのが残念だったなぁ。飛行機に対して剣一本で立ち向かうメチャクチャさが好きなんだけど。

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ノルマルク戦記 (7) 滅びの星輝くとき

納得いなねえっす
評価:☆☆☆★★
 全てを清算してしまえば、それは綺麗に収束するでしょうよ。でも、そんなやり方でいいの?という疑問は感じる。エピローグもすごく平和な世界になっているように見えるけど、実際はそんな簡単におさまらないと思います。貴族の力だって、削られたわけじゃないし…
 完結しないまま放っておくよりは遥かにマシだけれど、無理矢理まとめるのもどうなのかな?当初からこういう予定だったのですか?

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ノルマルク戦記 (6) 挽歌の彼方へ

はじめから一騎打ちしてれば…
評価:☆☆☆★★
 この巻から新しく書き下ろされた部分が入ってきています。
 酔いどれ軍師の裏の顔が判明。本来夢は自分でかなえるもののはずなのだけれど、長い歴史の中で頂点に立とうとした野心家は出てこなかったのだろうか?分をわきまえているというべきか、覇気が無いというべきか。そのすさまじい力が引き継がれる先が見つかったのは良いが、いつまで正しく使われることか。
 広がって、様々な場所に影響を与えたものを取り込んで物語を収束させることは難しい。でも、それができるやつが本当にすごい作家だと思う。一見美しく見えるが、安易な方向に行くのはどうかと…

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ノルマルク戦記 (4) 寂寞たる栄光

その志を胸に
評価:☆☆☆☆★
 守護星がその人の人生を左右するという信仰が根深い中世欧州のような架空世界において、破蠍星という忌むべき星の下に生まれた皇子の活躍を描く第四弾。
 その身命をとしてユリアスの進む道を切り開いた重臣パッシェルダール。その代償として、自身の命とユリアスの心が失われてしまった。
 フィンレイの叱咤によって何とか立ち直ったユリアスであったが、何を思ったか、自身の軍団を構成する騎遊民に対し解散を宣言する。身一つとなったユリアスは果たして兄の勅命を果たすことができるのか?そして、周辺諸国はどう動くのか?
 新書版を読まれた人は特に読む必要はないと思います。文庫版になって挿絵がかわいらしくなったかな?文庫なので携帯には便利と思いますので、新刊が出るのを待ちきれない方は再読してみても良いのではないかと。

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ノルマルク戦記 (2) 異端者たち軍旗

尊き誓い
評価:☆☆☆☆★
 守護星がその人の人生を左右するという信仰が根深い中世欧州のような架空世界において、破蠍星という忌むべき星の下に生まれた皇子ユリアスの活躍を描く第二弾。
 トイトニア王女フィンレイと共に祖国解放の旅に出たユリアスは虐げられし民、騎遊民に出会う。かつての己の立場と彼らの姿を重ね合わせたのか、彼らの解放を心に誓うユリアスであったが、その決断は社会全体を揺るがしかねない危険なものだった。戦いの中に身をおき始めたユリアスに安らぎのときは訪れるのか?
 …デミアンについた軍師は一体何者?

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ノルマルク戦記 (1) 滅びの星の皇子

道行く仲間を得て
評価:☆☆☆☆★
 守護星がその人の人生を左右するという信仰が根深い中世欧州のような架空世界において、破蠍星という忌むべき星の下に生まれた皇子ユリアスの活躍を描く第一弾。
 ノルマルク王国は滅びに瀕していた。ユリアスの幼少期の朋友デミアン率いるパルティスカ王国の攻撃の下に。長き幽閉から脱したユリアスは、パッシェルダールと共に王国復興のために動き出す。ユリアスの行く手に待つ物語とは…
 ファンタジーの王道を進む物語。安心して読めます。

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