フリーター、家を買う。(有川浩)の書評/レビュー


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フリーター、家を買う。

ズキッと思い当たる節が無きにしも非ず
評価:☆☆☆☆☆
 物語は序盤からズシッと重いものをくらわせてくれる。

 主人公である武誠治は、大学卒業後に就職はしたのだけれど、会社の体質が自分には合わないと思い3ヶ月で退職、フリーターで職を転々としながら居心地の良い実家に引きこもり、ネトゲ廃人と化す。
 まだ本気を出していないだけと言い訳して1年半が過ぎた頃、部屋に運ばれてくる三食がカップメンになったことに憤慨してダイニングに行くと、そこにいたのは名古屋に嫁いだはずの姉で、母親は重度の精神病に罹って言動がおかしくなっていた。

 姉により初めて気付かされる、母親が近所の住民から受けて来たいやがらせの数々。父親の失態と精神病への理解のなさ。自分のちょっとした言動が母親を追い詰めていたという事実。これ以上ないというほどの現実と嫌々ながら直面させられ、何とか社会復帰しようともがき始めるのだけれど、一度失ってしまった信用を取り戻すのは大変なこと。加えて、これまでは癒しの場だった実家も、常に自分の罪と向き合わなければならない場と化している。
 これはかなりつらい。

 初めに落とすだけ落としておいても、地道な努力が認められて再就職すると、段々と物事がうまく回り始めることは救いだ。自分が駄目だったことを認め、それを生かして仕事につなげていく部分では、痛快な気分にもさせてくれる。特に、人材募集のキャッチコピーは秀逸。こういうアイデアが出てくるところはすごいと思う。

 前半がダウナー系の展開なので恋愛要素はいつもに比べて少なめだが、後半から登場する東工大卒中途採用の千葉真奈美との実直なやり取りでは、おなじみ有川節が炸裂する。また、書き下ろされた後日談では、豊川視点で二人のやり取りが描かれていて面白い。

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