秋田禎信作品の書評/レビュー


魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来 下

評価:☆☆☆★★


魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来 上

評価:☆☆☆★★


巡ル結魂者 (1)

振り回されるのは周囲ばかり
評価:☆☆☆★★
 高城航斗は普通に生活していたところ、床から出てきた手につかまれ、異世界に引きずり込まれてしまった。引きずり込んだのは幽霊状態の超聖女メイマスモゴリアを名乗る少女だ。
 メイは異世界の魔法使いだったのだが、彼女が存命だった時代から二百年ほどが過ぎており、魔法使いは絶滅、代わりにメイが発明した、リンカという、異生命体と魂を繋いで超常現象を起こす技術が発達した世界となっていた。

 このリンカという技術は何故か女性にしか許可されておらず、高城航斗は治安部隊に拘束されてしまうのだが、現場に居合わせたリンカ学校生徒の火曜テイカに庇われ、教師の八鹿トアコの庇護下に置かれることになる。
 テイカが航斗に構うのを嫌う銀河アスラに邪険にされたり、あくまでも不確定材料の航斗を処分しようとする勢力に陰謀を仕組まれたり、体制に逆らうハンドレッドスレイダーズの雪王ライガに妨害されたりする。

 メイが最高にウザく、なんや訳の分からんことを叫びまくる異常なテンションで、秋田禎信的なウザキャラっぽさが遺憾なく発揮されている。ゆえに初見には不向きな気もする。ごめんなさい。

魔術士オーフェンはぐれ旅 鋏の託宣

結界の内外で
評価:☆☆☆☆★
 キエサルヒマの貴族共産会の息がかかった革命支援組織《リベレーター》により、ローグタウンはキエサルヒマ結界によって外界と隔絶されてしまった。カーロッタ・マウセンの望む、女神の再臨計画の一環だ。魔王オーフェン・フィンランディは自ら獄を脱し、戦術騎士団を率いてカーロッタ派を殲滅する覚悟を決める。
 帰還したマジク・リンは魔王術の代償により暫く魔術を喪失し戦力にならない。結界内に拘束されたラチェット・フィンランディや、フォルテ・パッキンガムとレティシャ・マクレディの息子のマヨール・マクレディやイシリーンには魔王術は使えない。ゆえに、内部からの結界破壊は不可能だ。だが、ラッツベイン・フィンランディ、エッジ・フィンランディが打開のための策に気づく。そんなとき、ベイジット・パッキンガムが戻ってくる。

 ドロシー、コンスタンス、ボニーのマギー三姉妹との政治闘争やらを繰り広げつつ、結界内ではジェイコブズの意味の分からない踊りが披露される。懐かしき自由な展開だ。
 ただ気にくわないのは、初回限定版から通常版の発売日が二十日も後ろにされたこと。こういう商売の仕方は本当に止めて欲しい。

魔術士オーフェンはぐれ旅 魔術学校攻防

やはり彼らが振り回す
評価:☆☆☆☆☆
 魔王オーフェン・フィンランディは議会に召還され、そのまま司法組織の手により拘束されることとなった。キエサルヒマよりやって来た革命支援組織《リベレーター》の介入により、それまではかろうじて均衡が取れていたかに思えた、魔術師と魔術師以外の社会、戦術騎士団とカーロッタ派、神人種族と巨人種族のバランスは崩れ、各組織内での勢力にも変動が起こり、いまや落としどころすら見えない状態だ。
 マジク・リン、ラッツベイン・フィンランディ、エッジ・フィンランディはシマス・ヴァンパイア討伐に向かい戻らず、魔王は拘禁されている状態で、戦術騎士団の主導権は新校長クレイリー・ベルムや団長エド・サンクタムに移ったかに見えた。

 一方、魔王の末娘ラチェット・フィンランディは、母のクリーオウ・フィンランディの黙認の下、フォルテ・パッキンガムとレティシャ・マクレディの息子のマヨール・マクレディやイシリーンらを手駒とし、大人たちの中にあって自身の意思を示そうと何やら奮闘をしていた。
 そして、生き残ったベイジット・パッキンガムは、愛の村という、開拓者社会から隔絶した村に拾われる。

 だんだんと昔の調子を取り戻してきましたという展開に感じられる。一人孤独に放浪していたオーフェンが今や組織の絶対的な統括者で、他人を気にかけもしなかったエドが他人を気にしなければならない立場になっているというところに、時の流れを感じざるを得ない。だがそれでも、新世代ではなく彼らが物語を動かしているというところに、安心感を覚えつつも、物足りない様な感じがしなくもない。
 巻末には短編「エド・サンクタムの生活」を収録。子供世代に振り回される彼の生活がほの見える。

魔術士オーフェンはぐれ旅 解放者の戦場

外側からやってくる崩壊
評価:☆☆☆☆☆
 死の教主カーロッタ・マウセンとの暗黙の協定に信を置き過ぎた魔王オーフェン・フィンランディは、戦機を読み間違えたことで戦術騎士団を半壊させてしまい、魔王術により封印したヴァンパイアの一部を復活させてしまう。その責任を取る形で、スウェーデンボリー魔法学院校長をクレイリー・ベルムに、戦術騎士団総司令をマジク・リンに譲り、オーフェンは市議会に自ら出頭する。
 彼に市議会対応を任せている間に、残された魔術戦士たちは、戦力の立て直しと反撃をしなければならない。マジクはラッツベイン・フィンランディとエッジ・フィンランディを連れてシマス・ヴァンパイア討伐に向かい、エド・サンクタムはキエサルヒマからタイミング良くやって来た武装船ガンズ・オブ・リベラルの対応に追われる。

 フォルテ・パッキンガムとレティシャ・マクレディの息子のマヨール・マクレディは、イザベラ・スイートハート教師を謀り、婚約者のイシリーンと共に、ヴァンパイアの仲間となって消えたベイジット・パッキンガムを追って、ヴァンパイアたちの拠点の村へと潜入する。
 一方、父親に関する醜聞が飛び交う学校でも超然と過ごすラチェット・フィンランディは、母のクリーオウ・フィンランディに、近く暴動が起きるであろうことを予言するのだった。

 長編で様々な登場人物が自分の目的のために、だがほとんど思いつきで行動していく訳だが、やはり最終的には、オーフェンがグダグダ考えるのがこのシリーズのキモという感じがする。ゆえに、最後の短編が最もシリーズらしいと考えてしまったり。

魔術士オーフェンはぐれ旅 原大陸開戦

新たなはぐれ旅
評価:☆☆☆☆☆
 フォルテ・パッキンガムとレティシャ・マクレディの長男であるマヨール・マクレディは、3年前に訪問したオーフェン・フィンランディの許を、今度は婚約者のイシリーン、そしてイザベラ・スイートハート教師と共に訪れようとしていた。キエサルヒマからヴァンパイア化を目指して旅立った人々を追跡するためだ。そしてその中には、彼の妹であるベイジット・パッキンガムの名前もあった。
 だがその頃、原大陸も大きな問題を抱えていた。ヴァンパイアの指導者でありながらオーフェンとつながりのあった、キムラックの死の教主カーロッタ・マウセンとの連絡が途絶えていたのだ。これは何の予兆なのか?戦術騎士団の魔術戦士となったラッツベイン・フィンランディやエッジ・フィンランディ、そして主戦力であるマジク・リンらを投入し、状況を探るオーフェン。そして事態は、それを打開しようとする様々な手もすり抜けて、最悪の状況へと向かっていく。

 魔術士オーフェンのシリーズは、キリランシェロが姉であるアザリーを追いかけて牙の塔を出奔するところから始まった。いわば始まりは家族の問題だったのだ。そしてその問題は、キエサルヒマ全体の行く末を左右するところまで発展した。
 この新シリーズも同様に、妹のベイジットを追うマヨールから始まる。そして、オーフェーンやクリーオウ、ラッツベイン、エッジ、ラチェットの三姉妹を含む家族の問題だ。だが彼らは既に普通の家族ではなく、魔王と呼ばれる存在であることが、当初シリーズとは大きく違うところかもしれない。初めから彼らの動向は誰も無視できないのだ。

 短編「魔術戦士の師弟」では、ラッツベインからダメ人間扱いされる悲しい生き様が描かれる。どんなに格好良いところを見せてもダメなんだ…。
 そして初回限定版では、オーフェン・クリーオウ・マジクのラフ画、作者へのインタビューが収録された小冊子が付属している。

魔術士オーフェンはぐれ旅 約束の地で

新時代の若者たち
評価:☆☆☆☆☆
 「秋田禎信BOX」から抜粋しての出版。

 牙の塔の教師フォルテ・パッキンガムとレティシャ・マクレディの長男であるマヨール・マクレディは妹のベイジット・パッキンガムの付き添いで、原大陸へと赴くことになった。それもこれも、三年前にキエサルヒマにやって来たスウェーデンボリー魔術学校校長のオーフェン・フィンランディの影響だ。しかし父は彼に、魔王オーフェンが伝えたかった本当のことを見て来るように告げる。
 原大陸へやって来たマヨールは、魔王の娘ラッツベイン・フィンランディとエッジ・フィンランディに出会う。彼女たちの案内で原大陸の情報を探っているうちに、彼はここには世界を揺るがす大きな秘密が隠されていることに気づいていく。

 オーフェンたちの子どもの世界が、原大陸とキエサルヒマ島、世界全てに関わる秘密を少しずつ知って行く。魔王たちが戦っているヴァンパイアの正体とは?

魔術士オーフェンはぐれ旅 キエサルヒマの終端

あれからオーフェンは…
評価:☆☆☆☆☆
 「秋田禎信BOX」から抜粋しての出版。

 キエサルヒマ大陸とアイルマンカー結界に関する全ての戦いが終わり、第二世界図塔で魔王としての力を得たキリランシェロことオーフェンは、キエサルヒマ大陸を出て、新大陸を目指そうとしていた。キエサルヒマ大陸に彼の居場所はなかったからだ。
 それを知ったクリーオウは、直ぐにでもオーフェンを追おうとしたのだが、レティシャ・マクレディに止められる。代わりにクリーオウはレティシャに、戦うための訓練の指導を求めるのだった。

 それから一年、タフレム市魔術師同盟と貴族連盟の抗争は激化し、教会都市キムラックはその犠牲となった。多くの難民はアーバンラマへと流れていく。貴族連盟から"サンクタム"という刺客を送られるまでになった魔王オーフェンは、全ての問題を解決するため、開拓船を仕立て、自分と難民の居場所を作ろうと、仲間を集めるのだった。
 かつての友人たちが集まり、仲間となり、あるいは敵となり襲い掛かる。やがて明らかになる"サンクタム"の正体とは?

 全てと決別し、あるいは決別できず、新たな旅が始まる。

魔術士オーフェンはぐれ旅 新装版 (1)

新装版の刊行スタート
評価:☆☆☆☆☆
 富士見ファンタジア文庫より出版されたシリーズの新装版。1巻に旧版の2巻分を収録し、全10巻のシリーズとする構想らしい。
 この巻に収録されるのは、以下の2巻分だ。


「我が呼び声に応えよ獣」

 トトカンタ市に暮らすモグリの金貸し・オーフェンは、大陸魔術師同盟の本拠が構えられた牙の塔の紋章を持つ魔術師だ。これは彼が一流の黒魔術師であることを証明しているのだが、牙の塔にオーフェンという人物が在籍していたという事実はない。
 モグリの金貸しは一見するともうかりそうではあるが、彼が貸しているのは地人の兄弟など、不良債権化しているやつらばかり。その利息代わりという名目で、ボルカンとドーチンが持ってきた儲け話に乗ったばかりに、クリーオウという厄介な少女と知り合いになり、かつ、彼が牙の塔を出奔する原因となった人間に出会ってしまう。ただしその人間・アザリーは、天人種族の作り出した魔術・バルトアンデルスの剣によって、怪物の姿となっていた!

 鋼の後継(サクセサー・オブ・レザーエッジ)とか、チャイルドマン・パウダーフィールド教師という最強の黒魔術師にして暗殺者とか、妙に心をくすぐる設定がたくさん練りこまれた作品だ。


「我が命にしたがえ機械(ドール)」

 バルトアンデルスの剣を持ち逃げしたボルカンとドーチンを追い、アレンハタムへと向かうオーフェン。そんな彼には、クリーオウと、弟子となったマジクが付いて行くというデコボコ道中だ。
 そんな道中で、彼らは天人種族の遺産である殺人人形との戦いを強いられることになる。その過程で彼らが触れることになる、キエサルヒマ大陸の過去、女神とドラゴン種族たち、そして魔王との関係とは?

ハンターダーク

闇の中に光を求めてうごめく人々
評価:☆☆☆☆★
 オイルの雨が降る地下世界で目覚めた機械人がひとり。彼が理解しているのは、自らの名、ハンターと、自分が持つ機能のみ。
 オイル切れを起こしかけたところをディバイダーというサムライ型の機械人に助けられたハンターは、ディバイダーの仲間である早撃ちネイラー、鬼子のハンナ、無言のミュンヒハウゼンと共に、地下世界の争いを鎮める戦いを繰り広げることにする。その先に自分の求めるものがあることを信じて。

 地上世界の目的を知っていることを仄めかす、ハンターの宿敵となるミラージュ、地下世界に王国をもたらすという女神ビューティグレイス、機械人たちを支配する機能を持つルーラー。そんな機械人たちとの出会いと戦いが、ハンターたちに自らのあり方を自覚させていく。
 地下世界はなぜ存在するのか。地上世界の目的は何か。機械人は何のために作られたのか。彼らは人間なのか。ハンターたちの脳裏に渦巻く疑問の嵐は、現代に生きる人々の疑問にも共通する部分がある。

 解説によると、「5 Shadows」というアニメ作品のシノプシスとして書かれたものらしい。

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機械の仮病

機械が象徴するもの
評価:☆☆☆☆☆
 10年ほど前から機械化病が知られるようになった。きっかけは、事故死した女性の心臓にネジがついていたこと。同じ様な事件が頻発し、猟奇殺人かとワイドショーでもてはやされたが、時期にそれが病気であることが分かる。自覚症状もない、少し調べたくらいでは分からない、機能的には全く変わらないし、病気自体は伝染するわけでもない。いつの間にか、中身だけが機械に入れ替わっているのだ。
 この作品は、そんな世界で生きる人たちの、機械化病にまつわるオムニバス・ストーリーとなっている。

 機械化病というのは何の暗喩なのだろうか?はじめは、人と人は表面的には分かりあえても、その内側までは完全に理解することはできない、というような精神的なコミュニケーションのことかと思った。確かにそういう面もあるかもしれない。しかし、特に最後のエピソードを読むと、それ以外のことの方が大きいのではないかと感じた。
 いまとむかしでは、表面的には何も変わっていない。社会インフラだって整備されているし、食料も供給されている。むしろ良くなったくらいだ。でも、知らず知らずのうちに失っているものはないだろうか。そんな問いかけがある気がする。

 機械というのは論理性の象徴だろう。しかし、社会には論理だけで割り切れるものばかりではない。論理を超えた倫理とか、人情とか、義理とか、いろいろなもので社会は成り立っている。それらの機能は論理や金銭で交換できるかもしれない。でも、それをしてしまっても大丈夫なのか。そういうことを言っている気がした。
 だが、中身が入れ替われば、入れ替わったなりのやり方が、ある程度の期間の思考錯誤を経た上、で、生み出されていくのだろう。それが新しい世代、新しい社会というものだという考え方もあるかもしれない。

 タイトルは言葉遊びなのだろうか。少なくとも内容的に説明はなかったように思う。

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ベティ・ザ・キッド (下)

望む世界の違い
評価:☆☆☆☆★
 ベティ・ザ・キッドとして父親ゲイルの仇ロングストライドを追う少女、エリザベス・スタリーヘヴンは、伝説の賞金稼ぎだったウィリアム・ブレイクや半シヤマニのフラニー・ベリーズと共に、南部との境であるグレートリバーにたどり着く。そこはへヴン秘密が隠された場所だった。
 同じ頃、ヘヴンが実際に存在することを知ったロングボトムは、自分を使役する組織を裏切り、ヘヴンに到る方法を探り始める。しかし、組織も彼の独走を簡単には許さなかった。

 ウィリアム・ブレイクとベティの出会いの物語や、ロングボトムの生い立ちを語りながら、シヤマニ最大の謎であるヘヴンの秘密に迫っていく。
 彼らの文明よりも遥かに進んでいたシヤマニの文明が地上から消え去った理由は何だったのか?マニトウとは何を為すものなのか?そしてなぜ、ゲイルたちは誰もが目指したヘヴンから戻ってきたのか?
 永遠の世界と、一瞬でありながら永遠の価値を持つ世界、何に価値を見出すかが問われている気がする。

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ベティ・ザ・キッド (上)

少女の復讐劇と世界の秘密
評価:☆☆☆☆★
 父殺しの汚名を着せられたエリザベス・スタリーヘブンは、処刑寸前に逃げ出し、男装してベティ・ザ・キッドと呼ばれる賞金稼ぎとなり、戦車に乗って父の仇であるロングストライドを追う。
 彼女の復讐の旅に同行するのは、かつては砂漠中で伝説となりながら名を捨てウィリアム・ブレイクと、先住民と入植者のハーフであるフラニー・ベリーズ。素人同然の銃の腕しか持たないベティは、彼らのサポートを受けながらロングストライドに決闘を迫り、そして寸前で逃げられる。
 ロングストライドが殺しをする目的、ベティたちが乗る戦車など、様々な要素がつながる時、砂漠に隠された秘密が明らかになる。

 一度は文明が発展しながらも、どこかのタイミングで西部劇レベルの科学力に退化している世界。砂漠に点在するレインスポットに入植者たちは集まり、砂漠を渡る亀や鮫を交通手段として利用し、各市にいる保安官が治安を守っているものの、基本的には力があるものが支配している。
 そんな世界における正義とは、個人個人を守るルールではなく、集団全体に最大利益をもたらす圧倒的な力だ。その正義の前では、個人の幸福は必ずしも尊重されない。そんな正義の犠牲になったベティは、彼女なりの正義を貫くため、銃を手に取り仇を追いかける。
 一方で、そんな世界観とは一線を画するのが、先住民のシヤマニだ。彼らは入植者のペオポルスに住む場所を追いやられて砂漠で暮らしながら、マニトウという何かを信じ、その導くままに生きる。彼らの正義はマニトウが決めるのだ。

 上巻ではメインキャラクターたちの紹介がなされる。下巻では背景にある世界の秘密が明らかにされるのだろう。

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誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない

このくらいのスタンスでちょうど良い?
評価:☆☆☆★★
 大学四年生の二人組が卒業を前にして就職しなければならないことに気づき、様々な会社を訪問したりしながら就職を目指す。
 もちろん普通の就職体験記ではなく、登場する会社に対する視線はシュールで、現実に対する諧謔がいっぱいつまっている。そういう意味では面白い部分もあるのだけれど、どこか新聞の4コマ漫画的な面白さで、最後のオチが個人的にイマイチなので、全体の評価は低めになってしまう。

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秋田禎信BOX

書き下ろしが多く読み応えがある
評価:☆☆☆☆★
 完結した作品の事後談や単行本化されていない作品などを収録したもの。書下ろしが半分以上あるのではないだろうか。なので、内容を列挙しておく。

【第一巻】魔術師オーフェンはぐれ旅
●キエサルヒマの終端:
 作者のウェブサイトでキャラ名を隠して公開されていた作品の、キャラ名を復元したもの。本編完結直後のお話で、新天地を目指して旅立とうとするオーフェンと、彼を追いかけようとするクリーオウの姿を描いた作品。
●約束の地で:
 本編完結の二十年後くらいのお話。レティシャの子供たちが魔王と呼ばれるようになったオーフェンの元を訪ねて秘密を探ろうとするお話。オーフェンの娘たちやプールトーなどが登場する。
●魔王の娘の師匠:
 同じく本編完結の二十年後くらいのお話。オーフェンの娘ラッツベインの師匠であるマジクについて補足する短編。

 一本目はクリーオウが再び進みだすまでのお話という側面が強いけれど、二本目からは本編中では明らかにされることの無かった設定などを開示するという側面が強いかも。ギャグっぽく登場していたケシオン・ヴァンパイアやマジクの母親なども、物語の背景に深く関わっていたことが分かる。

【第二巻】エンジェル・ハウリング
●from the aspect of MIZU サーヴィル・キングス(眠る王権)
 帝都消滅半年後くらいの出来事。アスカラナンに向かおうとするミズーとジュディアが森の中で出会った、帝国に滅ぼされた王国の王女とその従者に関する物語。
●from the aspect of FURIU ガールズ・ハンティング(託す幕間)
 前述と同じ頃、おそらく近くの場所。野生化した有形精霊を捕獲しようとするフリウとマリオたちの物語。
●スィリーズ・アワーズ(どうでもいい時間)
 ドラマガ増刊収録。フリウと出会う十年くらい前のスィリーに関する短編。

 第一巻よりも、突然の別れや無力感に伴う、登場人物たちの心理的な変化を描いた作品という側面が強いように思う。

【第三巻】未収録短編集
●魔術師オーフェンまわり道@悪逆の森
 角川mini文庫収録。オーフェン、クリーオウ、マジクたちのドタバタ劇。
●魔術師オーフェンまわり道Aゼロの交点
 角川mini文庫収録。前述の三人に加えて、地人兄弟が登場するドタバタ劇。
●魔術師オーフェン往時編 怪人、再び
 チャイルドマン教室の七人が全員登場する作品。今までで一番コミクロンのセリフが多い短編ではなかろうか。マリア・フウォンを完膚なきまでに叩きのめしたあの怪人が再登場して牙の塔を蹂躙するドタバタなのだが、結構物語の深いところにまで関わっていることが仄めかされる。
 他のところにチャイルドマンの昔の名前って出てきたっけ?
●リングのカタマリ
 ザ・スニーカー収録。プロレス好きなのかな?
●パノのもっとみに冒険(1)〜(4)
 (4)以外はドラマガ増刊収録。魔女の見習いであるパノという少女が登場する、童話チックなお話。

 全体的に、書下ろしがいっぱいあってファンなら読みたいと思うだろうけれど、やはり値段が高い。色々と事情があり仕方のないことは分からなくも無いけれど、せめて分冊で出版してもらった方が、読者は嬉しかったんじゃないかな?
 内容的には大部分が面白いだけに、そこが残念。

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魔術士オーフェン はぐれ旅/無謀編

ともかく登場人物たちはよく悩む
評価:☆☆☆☆☆
 読んでいたのは12年くらい前ですかね。当時は学部生で、大学の最寄り駅のそばにラノベやコミックの専門店があって、発売日前には日参していたことを思い出します。(早売りがあった)

 キエサルヒマ大陸の商業都市トトカンタに住む黒魔術士オーフェンは、もぐりで金貸しを営みながら、これまたもぐりで魔術士としての能力を使い便利屋の様なこともやっていた。ある日、地人の兄弟から紹介された仕事先で出会ったのは、恐ろしい姿の怪物。しかし、彼にはそれに見覚えがあった。かつて、魔術都市タフレムの<牙の塔>でキリランシェロと呼ばれていた頃、彼の姉のアザリーが魔術制御に失敗して変じた姿だった。
 当時、師匠であるチャイルドマンからのアザリー抹殺指令を拒否して<塔>を出奔し、姉を救うために大陸を彷徨うオーフェン。手がかりがなく5年の月日が過ぎ、既に目的も失った生活をしていた時、ようやく手がかりが現れたわけだ。

 実際は、5年前の事件には裏があり、彼が思っていた通りの事件ではなかったわけで、そのことは1巻で明らかになる。それからは、弟子になった少年マジクと、なぜかついてきた少女クリーオウと共に大陸を旅することになる。
 初めは<塔>を目指す旅。もう一人の姉レティシャや当時の友人たちが登場して、彼を元に戻そうとしたりもする。いわば、鋼の後継キリランシェロという、過去の虚名と決別するたびといえよう。それからは、魔術と大陸の秘密に迫る旅。王都や教会、魔術の秘儀を神より盗んだとされるドラゴン種族などが登場し、その争いに彼らが巻き込まれる。

 それぞれの種族が使う魔術には異なる特徴があり、人間種族は声を媒介とする音声魔術、ディープドラゴン種族は視線を媒介とする沈黙魔術など、独創的な設定がなされている。あと個人的には、それぞれの人物についている二つ名が格好よくて好きだった。

 無謀編は、基本的にギャグ。書き下ろしも同時収録され、そこではキリランシェロ時代の物語が描かれる。コレも結構好きだった。

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