新井円侍作品の書評/レビュー


巡幸の半女神

人類の敵は神々
評価:☆☆☆☆☆
 2155年12月16日、後に崩壊の日(ドゥームズデイ)と名付けられたその日、受肉した女神アンテァメネアが降臨し、七つの都市を灰燼に帰した。その御業から<灰の女帝冠>と称されることになる女神は、神々が放った巨大昆虫(マンハンター)、蟲精(ヤーム)が駆逐しもらした人類を自らの手で灰とし、その痕跡の一切を消し去ろうとしていた。
 2232年現在、残された人類は、巨大鎧(デミ・ギガント)により構成された害虫駆除部隊(バグスイーパーズ)を派遣し、マンハンターの駆除に当たっていたが、女神の力にはまるで届かず、劣勢に陥っている。

 女神に挑み敗れた巨大鎧ランレッドを操るレウレッド・ハウンドは、瀕死のところを花畑の少女エウトリーネに助けられる。だが彼女は、人類が憎むべき神の座すテッセニア宮より逃げ出して来た、半神半人の少女だったのだ。

 時系列がとびとびの構成になっているため分かりにくい部分も多いが、混乱する主人公の施行を象徴する描写だと思えば良いのだろう。今回こそは、完結まで物語を紡いでほしいものだ。

シュガーダーク 埋められた闇と少女

暗い墓地の中にあっても明るい希望を失わない話
評価:☆☆☆☆★
 上官殺しの罪を着せられ、ムオル・リードという生来の名前を奪われた囚人五七七二号の少年は、世間から隔絶された共同墓地に連行される。そこで彼が科せられた労役は、墓穴掘り。しかしその穴は、人の死体を埋めるにはあまりにも大きい。
 この場所に連れられてきてから三日目。脱走を試みるために真夜中の墓地を探索していたムオルは、濃紺のフードを被った美しい少女に遭遇する。メリア・マス・グレイブと名乗った少女との出会いは、彼にザ・ダークという怪物がこの世に存在することを理解させるのだった。

 舞台は共同墓地の敷地内、主人公の昼のお仕事は墓穴掘り、と並べると地味な印象はぬぐえないが、それを補うのは、外の世界のことを何も知らないメリアとの交流や、カラスと名乗るおしゃべりな事情通の存在、そしてスコップやヘルメットなどの地味な道具へのムオルの愛着などの描写だろう。  舞台や状況を考えれば落ち込んだ雰囲気になるのが自然だが、彼が生き続ける活力にあふれているため、不思議と明るい雰囲気になっている。希望を失わないというか、周囲の状況を自分にとってより良いものにしようという努力を絶やさないのだ。

 人は生きていれば充ち足りないことも多くある。無知により不利益をこうむることもある。自然災害や病気で理不尽に命を奪われることもある。でも、充ち足りない中でも選択する自由はあるし、知らないことは知る努力をすればよい。そして困難を乗り越える工夫をすることで、人は繁栄を享受してきた。
 それは、ムオルとメリアが住む世界でも同じであろう。

 これはこれで完結してもきれいだと思うけれど、どうやら続巻が出版される模様。明かされ切っていない部分はたくさんあるので、二人の今後の展開もあわせて、楽しみに待ちたい。

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