有間カオル作品の書評/レビュー

魔法使いのハーブティー

無条件の居場所
評価:☆☆☆☆★
 シングルマザーの母親に先立たれ、親戚中をたらい回しにされてきた中学三年生の藤原勇希は、預けられた親戚が旅行に行く間、別の親戚の許に追いやられることになった。
 そうして山口からやってきた横浜でたどり着いたのが、「魔法使いのハーブカフェ」だ。これまでも訪ねた先で受け入れてもらえず、街を彷徨い歩いた経験もある勇希は、戦々恐々としながら相手を伺うのだが、彼は3つのルールを守りさえすれば居ても良いと言ってくれた。その3つのルールとは、エコを心がけること、畑とカフェの手伝いをすること、そして魔法の修行にはげむことだ。

 魔法という言葉に戸惑いながらも、初めて自分を笑顔で受け入れてくれた他人に嬉しさと落ち着かない想いを感じながら、勇希は中学生最後の夏休みを過ごす。
 ところがカフェにはほとんどお客がやって来ず、いつもいるのは常連のマダムだけ。そして稀にやってくるお客様は、大抵、イラついていたり怒っていたりする。そんなお客様に対して、先生はハーブティを供し、魔法のように心を癒すのだった。

 設定からして陰鬱な感じかなと思ったのだが、実際に虐げられる場面が冒頭に描かれなかったところが良かった。穏やかな気持ちで傷ついた心を十分癒し、立ちあがるための力を手に入れた頃に災難が襲いかかる。こんな無条件に安らげる場所が世界にあればよいのに。

サムシング・フォー 4人の花嫁、4つの謎

様々なものを引きずる女性たち
評価:☆☆☆☆★
 とある事情で退職した元の職場であるス・ルガルデ・グループのアンジェリス迎賓館にウェディングプランナーとして復帰した真宮菫子。かって知ったる昔の職場で、先輩の新庄玲奈や後輩の雛川真由、バンケットスタッフの世津良友明など、気のいい仲間に囲まれた良い職場だ。唯一、少し苦手なのがキャプテンの伊月悠斗。仕事は信頼できるのだが、万事細かく若干煙たい存在だ。
 そんな中で復帰初めてのカップルは、新庄玲奈をチェンジした新郎新婦。新郎は披露宴の打ち合わせにも積極的に参加しやりやすいのだが、新婦の様子が少しおかしい。そんな疑問を抱えたまま、結婚式当日を迎えた菫子は、とんでもないハプニングに遭遇してしまう。

 サムシング・ニュー、サムシング・オールド、サムシング・ボロウ、サムシング・ブルー。それぞれの章に登場する花嫁は、それぞれの章題に関連した秘密を抱えていて、それを事前に解消できない菫子は、周囲の人間にも迷惑をかけ、しかし最後には解決していく。
 そもそもの仕掛けをした人物がチグハグな思いで仕掛けをしたせいなのかもしれないが、キャラクター同士が上手くかみ合わない印象を受けてしまった。特に主人公と他の人間との関係性にそんな印象を受けてしまうので、個人的に何かスッキリしない。

 はっきり言って、主人公に変な因縁を持たせず、普通にウェディングプランナーの物語とした方が、ずっと面白いように感じた。

めげないくんとスパイシー女上司 女神たちのいる職場

自分の部下には欲しくないけれど、実は大成するタイプなのかも
評価:☆☆☆☆★
 テレビ通販番組制作会社に初めての新卒として就職した数馬瞬は、アパレル部門のADとして配属されたものの、勝手に番組の進行表を書き換えてバイヤーの怒りを買い、人手不足のコスメ部門に雑用係として拾われる。
 しかし、拾われた先でも景表法に抵触するようなミスをして、バイヤーの早乙女美歩にはお荷物扱いされてしまう。いまや彼の心の支えは、美歩のアシスタントをする桜木八重の笑顔を見ることのみ。
 そんなこんなで、ミスをしながらも少しずつ仕事を覚えてきた頃、部門の運命をかけた新企画の情報がライバル企業に漏洩する事件が起きる。企画に関わった八重の仇を討つために、またまた数馬は突っ走るわけだが…。

 やる気だけは一流の新人社員が、思いっきり空回りしながら猪突猛進して、実績的にはアレだけれど、キャラクターと熱意だけは周囲に認められていくという感じのお話。
 でも、漏洩事件解決のアプローチはいただけない。確かにキャラクター的にスマートな解決ができないのは仕方ないけれど、犯罪は良くない。普通の社会人的にNGだ。
 読んで自分の恥ずかしい過去を思い出すというよりは、どちらかというとメチャクチャな主人公にイラつくところもあるが、面白いところもある作品だと思う。

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死神と桜ドライブ

遺体ブローカーの世界
評価:☆☆☆★★
 男に騙され裏切られヤクザに売り飛ばされ、美咲は車に飛び込んで死のうとする。その車に乗っていたのが遺体ブローカーの黒木と正塚で、事故車の弁済をするために仕事の手伝いをさせられることになる。売り飛ばされた先のヤクザからは逃げられたけれど、別の闇に飛び込んだというわけだ。

 そういうわけで、遺体ブローカーの世界を紹介する感じのお話…だったんだけれど、最後の方で少し風向きが変わって来て美談ぽくなった。でも、物語の入りの重々しさを鑑みると、当初予定の暗いストーリーにした方が一貫性があった気がする。
 そして、黒木と正塚のファンタジー設定についても、生かし切れていたのかどうかが良く分からない。遺体ブローカーというリアル中のリアルの存在にファンタジーを重ねたのが、どちらも中途半端な感じにしてしまった気がする。
 逆に、これによってリアル過ぎず鬱々とし過ぎない効果をもたらしたという見方も出来るのかも知れない。しかし、元々のテーマが軽いものではないのだから、変に軽くすればその本質を見失わせてしまうのではないのかな、と個人的には思った。
 じっくり緻密に描けば、すごく面白くなるテーマだと思うのだけれど。。。

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太陽のあくび

燦々と照り注ぐ太陽の光、はじける果汁
評価:☆☆☆☆★
 高校生たちが祖父の遺志を継いで新品種の夏みかんを開発する。これを全国に広めるため、通販番組を活用するのだけれど、生産者の想いとバイヤーの想いが上手くかみ合わず、番組は大失敗に終わる。
 収穫時期を目前に控える、売り先の当てもない夏みかん。全く売上が立てられず、社内で立場をなくしていくバイヤー。どん底から一発逆転を目指すまでのあれこれを、周囲の人々との人間関係を交えながら展開していく作品だと思う。


 後半は夏みかんの瑞々しさ美味しさが紙面から伝わってくる様で、気分がとてもすっきりするのだけれど、その分、前半が重く感じる。
 とにかく失敗から始まるから重々しいのは当然なのだけれど、生産者である風間陽一郎がなぜ沈黙したのか、バイヤーの柿崎照美はいくらなんでも素人の生産者と意思疎通をしなさ過ぎではないか、という疑問があり、かつ、どれだけ夏みかんに思い入れがあるのかを読者が共有する部分がないので、夏みかんを売り込もうとする風間陽介の行動が上滑りしているように感じてしまった。
 また、生産者側とバイヤー側の両方で物語が展開していくから、紙幅に対してエピソードが盛り込まれ過ぎのようにも感じた。特に後半は、バイヤー側での意識の転換がメインになっていくので、生産者側の高校生たちをフォローしきれず、途中までは結構重要な役どころに思えた少年が、最後には何となくフェードアウトしてしまった様な感も否めない。

 ただ、この様に感じたのは、ボクに農業に関する本格的な経験がなく、どちらかというとバイヤー側に共感しやすいためなのかも知れない。でも、最初のチグハグ感を乗り越えれば、最後には爽やかな気分になれる物語だと思います。

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