太陽のあくび(有間カオル)作品の書評/レビュー


 太陽のあくび(有間カオル)の書評/レビューを掲載しています。

太陽のあくび

燦々と照り注ぐ太陽の光、はじける果汁
評価:☆☆☆☆★
 高校生たちが祖父の遺志を継いで新品種の夏みかんを開発する。これを全国に広めるため、通販番組を活用するのだけれど、生産者の想いとバイヤーの想いが上手くかみ合わず、番組は大失敗に終わる。
 収穫時期を目前に控える、売り先の当てもない夏みかん。全く売上が立てられず、社内で立場をなくしていくバイヤー。どん底から一発逆転を目指すまでのあれこれを、周囲の人々との人間関係を交えながら展開していく作品だと思う。


 後半は夏みかんの瑞々しさ美味しさが紙面から伝わってくる様で、気分がとてもすっきりするのだけれど、その分、前半が重く感じる。
 とにかく失敗から始まるから重々しいのは当然なのだけれど、生産者である風間陽一郎がなぜ沈黙したのか、バイヤーの柿崎照美はいくらなんでも素人の生産者と意思疎通をしなさ過ぎではないか、という疑問があり、かつ、どれだけ夏みかんに思い入れがあるのかを読者が共有する部分がないので、夏みかんを売り込もうとする風間陽介の行動が上滑りしているように感じてしまった。
 また、生産者側とバイヤー側の両方で物語が展開していくから、紙幅に対してエピソードが盛り込まれ過ぎのようにも感じた。特に後半は、バイヤー側での意識の転換がメインになっていくので、生産者側の高校生たちをフォローしきれず、途中までは結構重要な役どころに思えた少年が、最後には何となくフェードアウトしてしまった様な感も否めない。

 ただ、この様に感じたのは、ボクに農業に関する本格的な経験がなく、どちらかというとバイヤー側に共感しやすいためなのかも知れない。でも、最初のチグハグ感を乗り越えれば、最後には爽やかな気分になれる物語だと思います。

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