日日日作品の書評/レビュー

ささみさん@がんばらない (11)

神々の黄昏
評価:☆☆☆☆★
 世界中の神々を取り込み世界を破滅させようとする月読日留女に対抗するために月読呪々が残した月読るるなの成長は間に合わなかった。人々の日常、月読鎖々美や蝦怒川情雨、櫛名田希美らの日常を守るため、邪神つるぎ、邪神かがみ、邪神たまや月読神臣ら残された神々は、こっそりと日留女に対抗するための準備を整える。
 何か変化が起きつつあることを感じながらも、無力感を感じる月読鎖々美は、月読るるならとの日常を過ごしていた。そして全てが終わり、5年の月日が流れる。そこにあの愛しい神々はいない。

 このまま終わりそうだけれど、あと少し、どんでん返しがあるそうな。

ささみさん@がんばらない (10)

女子小学生もがんばる
評価:☆☆☆☆★
 世界中の神々を取り込み世界を破滅させようとする月読日留女に対抗するために月読呪々が残した月読るるなを育てる月読鎖々美だが、最近はるるなの反抗期に手を焼いている。しかし鎖々美にできることはるるなを甘やかせることだけであるため、どうしようもない。
 そんなとき、るるなが学校に通いたいと言い出した。鎖々美はるるなを小学校に転入させ、邪神たまと櫛名田希美に任せて自分も学校へと向かう。だが、るるなの転入初日から、彼女たちの通う学校は北欧神話の影響下におかれ、その事態の背後にはたまがいることが明らかになるのだった。

 遅ればせながら事態に気づいた鎖々美だが、邪神かがみは霊力を低下させていて活動できず、蝦怒川情雨と共にるるなちゃん監視ツールで見守るしかないのだった。

 今回は幼少メンバーががんばる回。生まれたばかりのるるなと、期待されながら日本神話から見捨てられてしまったたま、そして普通の小学生女子に過ぎない希美が主役だ。頑張って体制を整えて、最強の日留女に立ち向かう準備をする。

ささみさん@がんばらない (9)

頑張りすぎたら疲れます
評価:☆☆☆☆★
 アラハバキの首領が仕組んだ月読日留女事件の結果、月読呪々は黄泉の国へと去り、月読鎖々美のもとには月読るるなが残され、日本神話は辛うじて独立を保った。しかし、印度神話の最高神・ヴィシュヌが汚染された破壊神・シヴァとなり、何らかの目的を持って歴史改変を始める。具体的には、鎖々美をがんばるリア充へと改変する試みだ。
 ガルーダの導きによって、そのことに気づいた蝦怒川情雨と玉藻前は、シヴァの目論見を阻止するために過去に飛ぶ。その行き先は、情雨と出会う前の鎖々美のところだ。二人は懸命に妨害活動をしようとするのだが、神格の差が凄まじく、極めて劣勢に追い込まれる。

 今回は徹底的に鎖々美さんは頑張らない。いや、過去の鎖々美が頑張ってしまったことでもたらされる改変なので、頑張っていないというのにも語弊がある。だが最も頑張るのは、シヴァと玉藻前、そして情雨とガルーダなのだ。
 身の丈に合わない力を持ってしまったばかりに頑張らない道を選んだ鎖々美さんの同質でしかし対極にある存在としてヴィシュヌが描かれている。

 玉藻前が暖を取るために紙を燃やすシーンがあるけれど、そのときに「本」ではなく「落丁乱丁本」を燃やすという描写に、作者の細やかさを感じる。

ささみさん@がんばらない (8)

失っても楽をしたいわけじゃない
評価:☆☆☆☆★
 月読日留女の脅威に対抗するため、出雲で行われる神々の緊急会議に出席するため、邪神つるぎは布津野弥火を連れて旅立った。残された月読鎖々美は母の月読呪々から妹だという月読るるなを託され可愛がる。
 そんなある日、邪神かがみと共に部室にいると、蝦怒川情雨がツンツンしながら相談にやってきた。最近奇妙な神々に襲われ退治したのだが、正体が分からないという。悩むかがみだったが、ネットに詳しいささみさんは知っていた。それが宇宙人だと言うことを。

 今回は近年尤も多くの信者を獲得しているだろう科学神話を扱う。最高神という存在はいないはずの科学神話だが、誰かに全てを任せて楽をしたいという心はそれを生み出し、個を失わせてしまう。
 頼るべき存在をなくし、しかし再びがんばることを決めたささみさんの、ちょっとダメで一生懸命さを応援したい。

ささみさん@がんばらない (7)

平穏の中の悲しみ
評価:☆☆☆☆☆
 兄の神臣を復活させるため、印度神話の最高神・ヴィシュヌと契約し、全ての人の望みを叶える代わりに自分自身の存在を明け渡してしまった月読鎖々美。彼女のポジションには、月読日留女がおさまった。
 ほとんどの人が鎖々美さんの存在を忘れてしまった中、邪神かがみや蝦怒川情雨は彼女の存在を忘れていない。鎖々美さんは兎の体を借りて、彼女たちのところに入り浸っている。そんなとき、邪神たまがクトゥルー神話を利用したテーブルトークRPGを立ち上げ、学園の生徒たちを取り込んでしまった。その影にはアラハバキの首領の姿が見え隠れ。そして、同じ様に取り込まれた鎖々美さんの前に、布津野弥火という女子生徒が現れる。

 自分の存在を失った鎖々美さんは神々となってあたりを漂い、みんなが平和に暮らしている様子を眺めている。一方、彼女の代わりに神臣の妹ポジションを手に入れた日留女は、その暮らしに満足しながらも、どこか違和感を感じていた。そしてその違和感に付け込み、アラハバキが陰謀を逞しくする。
 その陰謀の中心に据えられたのは、鎖々美さんとの仲を深めて来た情雨。彼女は悪として立派になり父親に褒められることと、鎖々美さんとの仲で育んだ心の間で揺れ動くことになる。彼女はどちらを選ぶのか?

 そして今回の神話は、クトゥルー神話。一人の作家が生み出した物語が神々を生み、古来からの神話も巻き込んでグチャグチャになる。その至る先に訪れる世界は…。

ささみさん@がんばらない (6)

魔法少女になって頑張る!
評価:☆☆☆☆★
 現代のトロイア戦争により、蝦怒川情雨は母・玉藻前を、月読鎖々美は兄・神臣を失ってしまった。それを取り戻す方法を探すために、世界各地の神々に出会う旅を始めたふたりは、混乱する中国神話では打ち払われ、印度神話へとたどり着く。
 そこで出会った最高神・ヴィシュヌだという幼女から、願いを叶えるためには神に成るしかないと言われたふたりは、魔法少女になって人助けをし、願いを叶えるための徳を積み上げることになる。吾と契約して神仏に成ってよ。

 徳を積むために戻ってきた日常は、何かおかしい。邪神三姉妹はささみさんのことを忘れてしまっているし、櫛名田希美に求婚するためにスサノオは小学校に入学するし、何より、黄泉返った月読呪々の娘のポジションには、日瑠女というささみさんそっくりの少女がいる。
 自分の居場所がなくなったような絶望に打ちひしがれながらも、情雨の励ましを受けながら何とか頑張るささみさん。頑張るのを止めてしまったら、何もかも失ってしまうから。

 そうしてついにたどり着いた場所、明らかになるヴィシュヌの目的。そのとき、ささみさんが選ぶのは…。
 次回はクトゥルー神話がテーマになるそうだ。

ささみさん@がんばらない (5)

トロイア戦争に組み込まれるささみさん
評価:☆☆☆☆☆
 日本へ侵攻してきたギリシア神話の神々により、ネットゲームの形式を取った現代版トロイア戦争の世界へ、日本を丸ごと取り込まれてしまった。
 邪神三姉妹を筆頭とする神々や人間たちは、きれいにゲームの中へ取り込まれ、その霊格に依拠して様々な役割を振られることになったのだが、なぜか月読ささみと蝦怒川情雨は完全に取り込まれず、情雨の部屋で二人きりで、ネットゲームに興じる形となってしまう。

 変態としての才能を開花しつつあるささみさんにより、情雨は貞操の危機や理性崩壊の危機にさらされてしまったりして、なんか楽しそうではあるのだが、その外側ではアカイア勢力とトロイア勢力に分かれた戦争という形態をとり、日本の神々がギリシアの神々に取り込まれつつあった。
 最も重要な役割を課せられながら、事態の進行からは切り離されてしまっているささみさんと情雨が事情を理解するのは、全てのことが手遅れになってしまってからのことだった。

 情雨という宿敵を手に入れて、学校の外へと飛び出したささみさん。次に向かうのは日本国外だ。

 今巻は他作品のタイトルのパロディが章題や文中に多く登場している気がする。そもそも、他国の神話の神々と日本神話の神々の同一化という考え方自体が、川上稔作品「終わりのクロニクル」のパロディみたいな気もしなくもないけど。

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ささみさん@がんばらない (4)

実家の歴史に翻弄される少女がまた一人
評価:☆☆☆☆★
 最高神の力を復活した母の月読呪々に預けて、ふつうの女子高生として生きようとするささみさん。しかしこれまでの引きこもり生活のせいもあり、二年生になってクラスがリセットされても、頼りになるのは邪神三姉妹の次女・かがみのみ。
 そんなとき、とあるきっかけで蝦怒川情雨と関われそうなきっかけをつかんだささみさんは、携帯番号を交換したりして、珍しくアプローチをかけるのだが、彼女は月読神社に敵対するアラハバキの中心人物だったのだ。

 蝦怒川情雨が企画する懇親旅行を楽しみにしていたささみさんだったが、タイミング悪くかぜをひいてしまい、クラスメイトの中でただ一人取り残されるハメになる。このままじゃクラスで浮いちゃう!ということで、たまを使って裏技を駆使するのだが、旅先ではとんでもない事件が起きるのだった。

 もうひとりのささみさんみたいな立場の少女が登場し、神々の世界での勢力争いが活発化します。次の戦場は世界になっちゃうかもしれない。

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ピーターパン・エンドロール

理想を投影される現実の存在の憐れ
評価:☆☆☆★★
 香奈菱高校に通う御前江真央には、他人の区別がぼんやりとしかできない。同じクラスで良く話しかけてくれる小島さんですら、全く知らない人の様にも思えてしまう。そんな彼女が唯一はっきり見ることが出来るのが、旅人さんだ。
 旅人さんとは家に帰る途中の道で偶然出会った。おそらく同じ学校の生徒なのだと思うが、そんなことは詳しく知りたくはない。真央の前にいて話をしてくれることが全てで良い。彼女と話している時だけが心休まるときなのだ。

 自分の生きる意味や他人の存在に悩む多感な時期を生きる少女と、彼女が理想像として崇めながらも、実際は肉の存在としての悩みを持つ少女の交流を描く。そして、どこかへ行ってしまいそうな不安定さがある時代を今に留めておける存在もまた人間だけなのだということを伝えてくれるのだ。

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ささみさん@がんばらない (3)

呪縛から逃れる解答
評価:☆☆☆☆★
 自分の身にとある現象が起きてしまったため、本気で引きこもったささみさん。天の岩戸を無理やりこじ開けようと、邪神三姉妹と神臣が突撃をします。行き着いた先で繰り広げられる不思議ワールド。そこで知る、ささみさんの覚悟とは?
 ささみさんの母が再登場。そして新たに、ささみさんに敵対する組織が現れます。特別編として、たまとお友達の物語も収録されています。

 一瞬、初めの引きこもり状態に舞い戻ってしまったかに思えたささみさん。でも、母との交流の中で、月臣神社の呪縛から逃れる解答にたどり着く。
 しかし、そうはさせじとばかりに、最高神のちからを狙う人たちが登場する。彼らは次巻から暴れまわりそう。

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ささみさん@がんばらない (2)

がんばった結果の苦しさ
評価:☆☆☆☆★
 「最高神のちから」を持ったまま、ふつうの女子高生として生きようとがんばるささみさん。でも、それは彼女の願いをかなえる方向で、周辺を勝手に改変するように動くので、思うようになるがゆえに思うままになりません。
 そして、何となくうまくいっていたささみさんの生活を一気に覆す人物が登場。がんばった結果の苦しさに、ささみさんは何を選ぶのでしょう。

 あとがきには作品のねらいや構成が説明されているので、先に読むと面白さが減ってしまうかもしれません。

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ささみさん@がんばらない

がんばらないのには理由がある
評価:☆☆☆☆★
 小説において三人称の描写を"神の視点"と表現することもあるけれど、まさにそれを意識した作品に思える。月読神臣という兄を中心に物語は進むのだけれど、兄を監視している妹の月読鎖々美の視点で描写される。日本神話を下敷きにした、ラブコメの雰囲気を持つ作品なのだけれど、後半に進むに従って、内容的にも人物的にも中心がシフトしていく。
 "お約束"を楽しむという意味では、どこから読み始めてもどこで止めても違和感がない。逆に言うと強いストーリー性はない。あまり深いことを考えず気軽に楽しむ作品だと思うが、"お約束"に興味がない人には全く意味のない作品かもしれない。

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