綾里けいし作品の書評/レビュー

B.A.D. (11) 繭墨は紅い花を散らす

不可避の死
評価:☆☆☆★★
 未来視の目を持つ御影粒良が、繭墨あざかの死を予言した。その予言を回避するため、小田切勤は二人と共に闇の宴が開かれる孤島へと向かう。そこで待ち受けていたのは、夕闇戸羽という少女だった。
 島から戻ってきた小田切勤は、水無瀬白雪を観光に送り出し、自室で繭墨あさとが七瀬七海に踏みつけられている光景を目撃する。嵯峨雄介が絶句する中、白木綾に暴言を吐く繭墨あさとに対し、七瀬七海はぶち切れてこんにゃく往復ビンタをかますのだった。

 だが、そんな日常は、矢賀早小鳥の来訪と共に崩れ去る。異界にいる繭墨の零代の意を受けた彼女は、小田切勤に選択を迫る。

アリストクライシ I for Elise

復讐の旅路
評価:☆☆☆★★
 エリーゼ・ベローという少女には、エレイン・フォン・アリストクライシという名前がある。それは彼女が穴蔵の悪魔(アリストクライシ)の血を受けているという証明だ。だが彼女は、同族であるはずのアリストクライシを殺すために旅をしている。その道連れは、グランという、全身に縫い傷がある死なない怪物、名前のない化け物(グラウェン)である。
 共通の仇であるユージーン・フォン・アリストクライシを探し求めて旅をする二人が辿り着いた街では、七人もの人間が消えるという怪現象が起きていた。そしてその犯人にされている料理人が暴れているところに乱入し、結果としてケンジー・ハワードというおしゃべりな青年を助けることになる。

 舞台をファンタジー世界に移してはいるが、「B.A.D.」シリーズと引き出しが共通しており、新味は感じられないのが残念に思う。

B.A.D. (10) 繭墨は夢と現の境にたたずむ

胡蝶の夢
評価:☆☆☆★★
 退屈する繭墨あざかの面倒を見る小田切勤だったが、チョコレートを提供するだけでは根本的な解決にならない。彼女の望む事件が必要なのだ。
 水槽の中に浮かぶ手首の謎の情報が持ち込まれたり、土を掘り埋め戻す音を聞くという森本結奈からの依頼が持ち込まれたり、矢賀早小鳥の許に訪ねることになったりする中で、小田切勤は自分に起きている奇妙な現象に気づいていく。

B.A.D. (9) 繭墨は人間の慟哭をただ眺める

復讐の結末
評価:☆☆☆☆★
 唐操舞姫に復讐を果たした嵯峨雄介は、死ぬために小田切勤の前から姿を消した。昏睡から目を覚ました小田切勤は、唐操舞姫の手術結果を待つ久々津の前に行き、復讐に狂う久々津によって拉致される。
 雨香の力によって脱出に成功した小田切勤は、どうしても付いてくると言い張る水無瀬白雪の助けを借り、嵯峨雄介の行方を突き止める。しかし、彼を説得している内に、繭墨あざかが久々津の手により拉致されてしまった。彼らは落としどころをどこに求めるのか?

 今回は小田切がおたおたしている内に、周囲の間でいつの間にか決着がついてしまった気がする。何だかよく分からないまま、他の登場人物たちが動き回った結果として、勝手に終わっていたと言うところだ。彼にとって意味があったのは、自分以外の手を借りるという方法を覚えたところだろう。
 失ったものがあっさりと取り戻される奇蹟が連続する中で、その帳尻はいかにして合わせられるのか。その辺りの構造は、次から語られることになるのだろう。

B.A.D. チョコレートデイズ (3)

色合いがバラバラの短編集
評価:☆☆☆★★
 FBOnline掲載の短編を収録した短編集。

「繭墨あざかと小田切勤の休日」
 5巻の後のエピソード。休日と言うことでバラバラに行動することになった繭墨あざかと小田切勤は、互いにそれぞれの日常で苦労を強いられる。だけどその苦労は、決して相手には伝わらないのだった。

「クッキング・オブ・ヘル」
 互いに小田切勤の妻になると言い張る七瀬七海と水無瀬白雪が接近遭遇!小田切勤は何とか宥めようとするのだが手出しが出来ず、水無瀬幸仁は膝を抱えて震え、白木綾は何も分からず乗っかって来るばかり。そこに繭墨あざかが登場し、火種に燃料を投下する。

「さよならの時計塔」
 嵯峨雄介に助けられ彼を慕うようになった立花梓は再び怪異の世界に触れることになる。それは、時計塔に閉じ込められた人間が異界に消えるという怪異だ。彼女に幸せな学園生活は訪れるのか?

「僕が彼女を理解できない不条理」
 繭墨あざかがまだ家から出られない頃のエピソード。繭墨あさとからの嫌がらせにつき合わされ、面倒ながら処理しなければならない彼女は、人ではなく神として崇められていた。

B.A.D. (8) 繭墨は髑髏に花を手向けない

中身がダメな主人公
評価:☆☆☆★★
 嵯峨雄介が引き取ったヒルガオが記憶を取り戻し、首をつってしまった。それを見た嵯峨雄介はかつての体験を重ね合わせ、またもや狂ってしまう。小田切勤は復讐はむなしいと説いてやめさせようとするのだが、その小田切をぶちのめし、雄介は去って行ってしまった。
 アパートに帰り、白木綾や七瀬七海に背中を押された小田切は、繭墨あざかから繭墨あさとが牢から脱出したという情報を聞き、雄介にあさとや唐操舞姫を殺させないために飛び出すのだった。

 小田切の思考はボクには到底理解できない支離滅裂なものなので、全く共感も納得もできない。雄介の行動の方が、人間的にはまだ理解できる。こう思うと、小田切は元々の資質もあったのかもしれないが、既に人間の理想的な情動を模倣する鬼の様な人外に成り果てている気がしなくもない。まあ、そんな意図はないのだろうけれど。
 どれだけ犠牲を払っても少しも学習しないというのは、これはこれで才能と呼ぶしかないのかもしれない。普通はもう少し賢い対処方法を学ぶよな。

B.A.D. (7) 繭墨は人形の悲しみをかえりみない

新たな出会いと再会
評価:☆☆☆★★
 繭墨探偵事務所に潜り込んできた少女は、骸骨を抱えていた。それにまつわる事件の真相を明らかにした後、行き場所がなくなった少女は、ヒルガオと名付けられ、嵯峨雄介に引き取られることになった。
 そして、小田切勤の許に届けられた、繭墨あさとが目を覚ましたという連絡。そのあさとを買い取る申し出をして来た唐操舞姫と、その犬となった久々津。新たな出会いと再会が、また新たな崩壊を導いていく。

B.A.D. チョコレートデイズ (2)

本編補完の短編集
評価:☆☆☆☆★
「白雪は「びきに」を知らない」
 3巻の途中のエピソード。小田切勤の好みが「びきに」だと繭墨あざかに教えられた水無瀬白雪がボケを連発しつつ、残された兄の思いと最後のお別れをする話。

「テディベアへ願うこと」
 4巻と5巻の間のエピソード。小田切のもとに白雪の手紙を届けに来た水無瀬幸仁が、嵯峨雄介と出合って絡まれる話。小田切から白雪へ送られる、告白に対する答えの手紙が登場する。

「七海と雄介の危険な一日」
 5巻ラストに関わるエピソード。嵯峨雄介が小田切の家へたかりに行く途中、七瀬七海と遭遇し、かつ、彼女がひったくりに会ってしまう話。純粋に対人間のアクションは珍しいかも。

「わたしと異分子な彼と彼女と狐」
 本編の前日談。繭墨あさとの高校時代の暗躍を描いた話。彼が所属していた部活の部長が、過去にまつわる過ちを犯してしまい、それを取り返しのつかないところまで持っていってしまう。

B.A.D. (6) 繭墨はいつまでも退屈に眠る

本質は変わらない
評価:☆☆☆☆★
 今回は連作短編の形式になっており、定番の繭墨あざかと小田切勤は当然として、七瀬七海や嵯峨雄介が登場する日常の中のエピソード、水無瀬白雪が小田切に寄せる思いと対比される様な異能者の存在が語られるエピソードなど、4編が収録されている。
 今回は異能自身に重点を置くよりも、異能を持った人間たちの歪みに重点を置いた構成になっていて、異能者を人間サイドに寄せるような効果があるかもしれない。びっくり要素よりも人間的要素に着目したという点で、個人的にはこれまでの話よりも読みやすくて良かった。

B.A.D. (5) 繭墨は猫の狂言を笑う

事件に潜む狐の気配
評価:☆☆☆★★
 繭墨あさとを異界に置き去りにした結果、狐と繭墨あざか、小田切勤の因縁は断ち切られたはずだった。しかし、繭墨家を通じた依頼で訪れた山奥の寄宿制女子学園で起きている怪異には、狐の面影があった。
 そして、消えた生徒、自殺した生徒の謎を追う小田切の前に現れたのは、猫の面をかぶった少女、神宮ゆうりだった。

 怪異の謎に隠された秘密とは、そして、狐は復活しているのか?その問いが小田切をまた苛む。

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B.A.D.チョコレートデイズ (1)

はじまりのエピソード集
評価:☆☆☆★★
 小田切勤と繭墨あざかが出会ったばかりの頃に起きた事件を描く「僕が繭さんと呼ぶ理由」、嵯峨雄介の学園生活に紛れ込んだ一人の少女・立花梓の物語「私が先輩に恋した非日常」、繭墨あさとがあざかに殺意を感じた始まりの物語「狐の生まれた日」を収録。
 なお最後の一編のみが書き下ろしとなっている。

 僕が繭さんと呼ぶ理由は彼らが今の関係を築くきっかけとなった事件を扱っており、かつ、小田切勤が繭墨あさとの起こした事件の呪縛から脱却しようとする物語でもある。狐の生まれた日も同じテイストのお話。
 一方、私が先輩に恋した非日常には、ふつうの高校生が登場するという意味で、一味違う物語になっており、とっつきやすいところもあると思う。結末はかなりヘヴィーだとは思うけれど。

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B.A.D. (4) 繭墨はさしだされた手を握らない

最後のステージへ立つ決意
評価:☆☆☆☆★
 自らが行動したことで多くの人間が不幸になったと繭墨あさとに断罪された小田切勤は、茫然自失の状態で自室に籠ってしまう。繭墨あざかの手も振り払った彼の前に現れたのは、彼が唯一助け出すことに成功した水無瀬家当主の白雪だった。彼の恩義に報いるため水無瀬白雪はあさとのもとに赴き、逆に虜となってしまう。
 彼女を助けるために再び立ち上がる力を取り戻し、繭墨あざかの協力を取り付けることに成功した小田切だったが、あさとへ至るための鍵を手に入れた小田切があざかの部屋で目にしたのは、意外な光景だった。

 あさと編のクライマックス。あさとの見せる偽りの希望に縋ることを拒否し、その虚言に惑わされることを辞めた小田切がただ一人でも立ち向かうことを決意したとき、あさとを生み出した背景と、彼を打ち破る力の源泉が明らかになる。
 今回は小田切がメインで繭墨あざかの登場する場面は多くない。代わりと言っては何だが、大家さんの孫の七瀬七海が活躍する場面が少しある。

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B.A.D. (3) 繭墨はおとぎ話の結末を知っている

ありもしない希望にすがりたい気持ち
評価:☆☆☆☆★
 無聊を託つ繭墨あざかと小田切勤の下に、他の異能力者から仕事の依頼が舞い込んでくる。自分たちの手には負えないと泣きついて来たのは、日傘と名乗る青年と、雁屋灯という影使いの少女。
 彼らの導くまま赴いた先には、白い肉の化物と、無くしたものを何としても取り戻そうとする人間たちの姿があった。
 またしても感じる狐面の影。そして今回は、彼も一人ではなかった。

 狐の甘言に縋るしかなかった人間たちが引き起こした現象と、その裏面にある二つの事件。そして、それを触媒として、最後の罠が発動する。
 今回登場した人々は、小田切の後悔と表裏一体の想いを抱えている。いまも直後悔し続ける小田切と、後悔を取り戻そうと、ありもしない希望に縋る人々。どちらの選択が正しいか、それとも他に正解があるのかは誰も知らない。

 新キャラクターとして繭墨の白バージョンが登場。水無瀬の面々も少しだけ再登場する。

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B.A.D. (2) 繭墨はけっして神に祈らない

繭墨との天秤は釣り合うか?
評価:☆☆☆☆★
 またしても繭墨あざかを狙う者が現れる。襲撃者の一族の当主水無瀬白雪は、繭墨の身を守ることを申し出るが、その背景に何があるかは黙して語らない。まあ、白扇に墨蹟を表すことで意思疎通をする人なので、どちらにしろしゃべらないけどね。
 白雪は繭墨の黒に対して、真っ白い衣装を着ている。そして、繭墨が一族の束縛から抜け出している存在であるのに対し、白雪は一族に縛られているという点でも対称的だ。

 1巻にも見られたが、強制的に奪われた何かを取り返す、ということがテーマになっていることが多い。普通の方法では取り戻せないことは明らかだから、異能や禁忌の手法に頼るわけだ。このとき、奪った側が嫌な奴だったりすると、襲撃者に対する同情の余地が生まれる。
 そしてこの同情を抱かせるのが小田桐勤の能力だ。腹の中に鬼を抱える小田桐は、意図せず周囲の者が心に抱える想いを読む。これを利用することで、読者に敵方の想いが伝わる。だから、小田桐視点の描写でも全体像が描けるのだ。

 新キャラが何名か登場。そしてラストで次への布石が明らかになる。

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B.A.D. (1) 繭墨は今日もチョコレートを食べる

自己を規定するものを奪われた時
評価:☆☆☆☆★
 旧家をその異能により代々支配してきた繭墨あざかを継ぐ十四歳の少女は、実家を出て霊能探偵事務所を開いている。紅い唐傘にゴシックロリータが特徴である彼女は、腹に鬼を孕んでいる青年を助手として雇い、奇妙な出来事ばかりを選んで関わらせるのだが、その背後には彼女の兄、繭墨あさとの影が見え隠れしている。彼らの間にある確執の原因はどこにあるのか?

 事件を引き起こすのは、見た目は普通でも心が壊れてしまっている人々だ。彼らは他者との関係性を適度にとどめることができず、その結果として歪みが生じる。その歪みは、他者も、そして自分すらも呑み込んでしまうのだ。
 事件現場のイラストがついたら、相当にスプラッタな作品でもある。だが、主人公たちが浮世離れしているせいか、妙に現実感がなく、気持ち悪さはあまり感じなかった。

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