庵田定夏作品の書評/レビュー

ココロコネクト アスランダム 下

通じない想い
評価:☆☆☆★★
 山星高校文研部顧問の後藤龍善の体を利用していた「ふうせんかずら」から、「三人目」が文研部とつながりが深い生徒たちを巻き込んで大規模な現象を起こしていることを聞かされた八重樫太一、稲葉姫子、桐山唯、青木義文、永瀬伊織、円城寺紫乃、宇和千尋は、その舞台である「孤立空間」へと踏み込むことを決意した。「強制終了」によって、親しい人との記憶が消されてしまうリスクを覚悟しての行動だ。
 そうしてやって来た「孤立空間」には、100名以上の生徒たちが取り込まれ、親しいグループに分かれて様々な現象に見舞われていた。中山真理子、石川大輝、瀬戸内薫、渡瀬伸吾、栗原雪菜、大沢美咲など、友人が現象に翻弄され、仲間との関係に傷が生じていくのを見つつ、なんとか「強制終了」を避けようと奮闘し始める文研部だったが、生徒会長の香取譲二率いる生徒会と、彼に従う藤島麻衣子率いる生徒会執行部に掣肘され、事は思うように進まない。それどころか、文研部が共通の敵に仕立て上げられてしまう。

 現実世界のあれこれの経験を取り込んで、長い話になってしまったのかなと邪推しなくもない。本編は完結で、短編集を残すのみとなった。

ココロコネクト アスランダム 上

慢心過信傲慢
評価:☆☆☆☆★
 山星高校文研部顧問の後藤龍善の体を利用していた「ふうせんかずら」が撤退を宣言し、四ヶ月が過ぎた。辛いこともたくさんあったけれど、そのおかげもあって八重樫太一は稲葉姫子と、桐山唯は青木義文とつき合うことになり、永瀬伊織も自分の居場所を見つけることが出来た。後輩の円城寺紫乃や宇和千尋との距離も縮まり、良い感じになってきたと思っていた。
 しかし、ある日、クラスメイトの栗原雪菜や大沢美咲から桐山唯は避けられるようになってしまい、文研部部員たちの記憶に突然、空白が生まれる現象が発生し始める。校内の雰囲気も急速に悪化し、藤島麻衣子ですら実力を認める生徒会長の香取譲二は、文研部が事態の中核にいると当たりをつけ、彼らを問い詰めてくる。

 友人間の不仲に中山真理子や石川大輝、瀬戸内薫、渡瀬伸吾らも太一たちを問い詰め始めた頃、「二番目」が数学教師の平田涼子の体を借りて現れ、学校を巻き込んで起き始めた事態の原因が、文研部にあることを告げるのだった。

 自分たちのせいで友人たちが奇妙な現象に囚われ始めたことに憤りを感じ、専門家気取りで介入してはみるものの、実は自分たちも流されるまま、何となく切り抜けていたゆえに何も有効な手段を持っていないと言うことを忘れていたため、かえって事態を悪化させてしまうという体たらく。過去の恨みに縛られて最も有効な手段を持っているはずの存在を味方につけることも出来ず、中途半端に引っかき回すことしか出来ない。
 しかし、失敗して初めて、自分たちの基盤がどこにあるのかを思い知った部員たちは、やられっぱなしの状況に一矢報いるため、敵の敵は味方の精神で事態打開に乗り出すのだった。

 合理的に考えるのを常とする稲葉姫子ならば、本来は多少の犠牲は許容して切り抜けるタイプの作戦を採用するはずなのだが、なぜか今回は完全に感情に流されて判断している気がする。太一に毒されたか?

ココロコネクト ユメランダム

他人との距離に名前をつける
評価:☆☆☆☆★
 山星高校文研部の初期の頃のエピソードや、部活を離れた部員たちのプライベートをウオッチする企画、後輩たちが先輩を見習う話など、短編4本を収録している。

「ファーストエンカウンター」
 山星高校文研部発足時のこぼれ話。顧問となる後藤龍善のいい加減さで、必要部員不足の部活に入部した八重樫太一、稲葉姫子、永瀬伊織、桐山唯、青木義文は、文化研究部なる目的のない部活に押し込められた。
 それぞれにやりたいことがあって別々の部活に入ろうとしたのだが、それがかなわず、既存の部活ではない、目的のない部活を続ける意味はあるのか?それぞれがぼんやりとした疑問を抱えていたある日、二日後までに活動目的を決めなければ、文研部は廃部という通達を受けてしまう。…いい加減だ。

 友人に誘われ、既存の部活に入るのも良いかもと思い始めたとき、5人の心にそれぞれ去来する思いとは…?


「ふたりぼっちの友情」
 とにかく文研部は続くことになり、他の部員も悪いやつではないことは分かってきた。しかしその中で一人、稲葉姫子は、クラスメイトでもある永瀬伊織の性格がつかめない。華やかなグループではっちゃけているかと思えば、自分といるときは一言も話さなかったりする。
 そんなある日、稲葉姫子は永瀬伊織がストーカーらしき影におびえている姿を目撃する。行くべきか引くべきか。他人との距離を測る稲葉姫子が下す決断とは?


「デート×デート×デート」
 栗原雪菜は思った。こいつらは放っておくとダメだ。野球部の石川とつきあい始めた中山真理子。青木義文とつき合うことになった桐山唯。それから約一ヶ月。どっちもまだデートすらしていないとは!
 恋愛話に燃える栗原雪菜は、八重樫太一と稲葉姫子のカップルも含めた、トリプルデートを企画する。永瀬伊織と共に監視する、三組のデートの行方とは?


「この我が道を行く疾走」
 リア充になりたい。円城寺紫乃のつぶやきを聞いた藤島麻衣子は、近くにいた宇和千尋も巻き込み、リア充とは何かを追求することにする。
 リア充の典型例とは文研部の部員たちだ。そんな結論に達した彼女たちは、文研部の何がリア充かを考察し、検証するために実践することにする。その行動力が巻き起こす騒動とは…?

 そして次巻への導入が語られる。

ココロコネクト ユメランダム

振り回されてきた力を振り回す
評価:☆☆☆☆★
 山星高校文研部は「ふうせんかずら」という超常存在が引き起こす、人間関係をグチャグチャにするような超常現象に引っかきまわされながら、逆にそれをきっかけとして、それぞれのつながりをあらためて確認して来た。新入生の宇和千尋や円城寺紫乃との関係もそれなりに深まり、二年生の八重樫太一や稲葉姫子、永瀬伊織、桐山唯、青木義文らが北海道への修学旅行を控えるころ、顧問の後藤龍善が部室へやってくる。
 そうして「ふうせんかずら」はこれが最後だと宣言し、彼らに「夢中透視」の能力を与えて去っていく。それは、これまでとは異なり、文研部以外の人々の願望を一方的に夢で見るだけという、無視すればそれで事足りるような、切迫感のない能力だった。

 しかし、青木義文の父にピンチが訪れ、それをこの能力で助けられるかもしれないと知った時、八重樫太一と桐山唯が、理不尽な力で未来を捻じ曲げるのには理がないという稲葉姫子や青木義文の反対を無視して、暴走してしまう。
 その結果やって来たのは、際限のない願いと、それを反射的に叶えてしまう異常な状態でしかなかった。名探偵と化した藤島麻衣子は「ふうせんかずら」の秘密に気づきかけ、クラスメイトの中山真理子や瀬戸内薫、栗原雪菜などの人生にも影響を与える。みんなを助けるという美名の下、自分を放棄した太一の至る結末とは…。

 これまではみんなを助けるヒーロー役を演じて来た太一ではあったが、それは体制に無条件で反発する主義者の様な行動であり、アンチ巨人が巨人ファンである如く、自分より上位の存在を前提とした上での、それに寄りかかった生き方でしかなかったことを、他人を傷つけるという形で目にする展開となっている。そして、暴力という意味では一番の力を持っているはずの唯ですら、新たに得た力はコントロールできず、振り回されてしまうのだ。
 それに対して、力を得ても振り回さず、自らの分を知り、最も利用したい状況にありながらも利用しないという選択肢を選べる青木義文や稲葉姫子に、太一は理解できないものを感じてしまう。そして、理解するという行為を放棄し、誰かの求めるままに行動してしまうのだ。

 自分の行為は全て自分の選択の延長線上にある。そう弁えて生きなければ、真の個人は永遠に見えては来ないだろう。

ココロコネクト ニセランダム

ほんの少しの違いだけ
評価:☆☆☆☆★
 山星高校文研部は、宇和千尋と円城寺紫乃という新入生を加えて、7人となった。しかし、創立メンバーである5人が遭遇してきた、「ふうせんかずら」が起こす怪現象がなくなった訳ではない。それどころか、新メンバーを事件の中核に据え、安定してきた5人の関係を切り崩すような、「幻想投影」という、見た目が他人に成り代わる現象が起きることとなる。

 今巻で起きる現象は、やはり八重樫太一や稲葉姫子、永瀬伊織や桐山唯らに降りかかってくるわけだが、彼らの視点で事件が描かれるわけではない。「ふうせんかずら」とは無縁であるはずの新メンバーである、宇和千尋や円城寺紫乃の視点で描かれるのだ。
 「ふうせんかずら」のもたらす現象は、普通の人間では再現ができないもの。それは自分のみに降りかかれば脅威であるけれども、それを自由に出来るのならば魅力でもある。今度はそういう揺るがしを人間に仕掛けてみるというのが狙いなのだろう。

 一瞬だけ生まれる優越感。だが、それが何も相手に影響を及ぼしていないと分かった瞬間、一転して惨めになる自分。あの環の中に自分はいられないという疎外感。期待が大きければ大きいほど、ダメだった時の負の感情も大きくならざるを得ない。
 そこで立ち止まり、自分以外の何かに言い訳を押し付けるのか。あるいは全てを飲み込んで、それでも何かを変えるために努力をするのか。仮にそれが上手くいかないとしても、その努力を笑える人間はどこにもいない。

ココロコネクト クリップタイム

稲葉姫子が壊れていく過程を楽しむ
評価:☆☆☆☆★
「スクープ写真の正しい使い方」
 文化祭の出し物として、文研新聞増刊号を作成することになった部員たち。目玉記事は教師のプライベートにおけるツーショット写真だ。
 でも普通にやれば差し止められてしまう。いかに効率よく大量にばら撒くか?その方法として考え出されたのが、永瀬伊織をミスコンで優勝させることだった!そして、このスクープで稲葉姫子が目論んでいたこととは?


「桐山唯の初体験」
 人格入れ替わり現象が終結した頃。桐山唯がラブレターをもらった。ただし、差出人は大沢美咲という陸上部の女の子。男性恐怖症気味なところがあった唯は、これもひとつの方法かも知れないと思い、とりあえずデートをしてみることにする。
 それを知った文研部員たちは、こっそりとそのデートを尾行。彼女の本心を探り出そうとする。だがこのデートには、あの委員長・藤島麻衣子も関わっていたのだ!


「稲葉姫子の孤軍奮闘」
 欲望解放現象も収まった頃。八重樫太一に告白してふられ、永瀬伊織にライバル宣言して励まされた稲葉姫子は、彼らとの距離のとり方に戸惑っていた。
 何とかより良い関係を築こうとして策を練り、それが裏目に出てしまったりする。元の普通の雰囲気がどうだったかも思い出せない。そんな風にネガティブな気分になっていたとき、彼女以外の文研部員たちが彼女に秘密で何かをやっていることに気づく。


「ペンタゴン++」
 新学期に入りクラス替えがあった。文研部員たちもこれまでとは違う組み合わせになり、クラス内では政権交代が起きる。
 そして新学期といえば新入部員。ふうせんかずらの件が片付いていない文研部は、積極的に部員集めをしていないものの、何となくやはり後輩は欲しい。そんなとき、宇和千尋と円城寺紫乃というふたりが見学に訪れる。
 普段は適当に過ごしている部員たちも、先輩らしいところを見せるべく、まともな部活動を行おうとするのだが…それは本心なのか?

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ココロコネクト ミチランダム

ようやく破綻する仮面の姿
評価:☆☆☆☆★
 バレンタインデー前日。永瀬伊織とお互いの気持ちを確認したところに、稲葉姫子からも好意を伝えられ、このままずるずるとバレンタインデーをむかえる訳にはいかないと一念発起した八重樫太一は、永瀬伊織に告白し、そしてあっけなく振られてしまう。
 そのときに起きていた不思議現象は、感情伝導、自分の想いがランダムに他の4人の誰かに伝わってしまう現象だ。そのせいもあり、ただでさえ現実を受け入れられない太一は何もできず、稲葉姫子と永瀬伊織の間で感情のいざこざが起き、伊織はどんどん孤立する方向へ向かってしまう。

 その孤立は、文研部内にとどまらず、クラスでの彼女の立場も悪くなっていく。これまでの彼女の性格とのあまりのギャップにみんなは戸惑い、それを救おうと動く太一も拒絶され何もできなくなってしまう。
 加えて、文研部に訪れる、顧問交代の危機。何とかそれを回避しようと彼らは努力するのだが、伊織の孤立が意外な形で破滅的な危機を招いてしまう。このまま文研部はバラバラになってしまうのか?そして彼らの恋の行方は?

 ほとんどシリーズ最初の方から永瀬伊織は自分で限界を告げていたので、ようやく破局的危機を迎えることが正直意外だった。もう何となく解決したことになっているものかと思っていた。しかしさにあらず。ようやくここで本当の伊織が姿を現すのだった。
 彼らの人間模様にも色々な変化が生じてきたようで、これからこのシリーズはどこに向かうのだろう?

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ココロコネクト カコランダム

過去の上に築かれる現在、いまここにある自分
評価:☆☆☆☆★
 人格入れ替り、欲望解放と来て、今度は時間退行現象がメンバーを襲う。外見と共に精神も幼い自分になったり元に戻ったりする4人に対し、何故か変わらないままの太一。
 冬休み中であることを利用して、何とか周囲にばれない様に廃ビルで退行現象をやり過ごすのだが、長引くに従って家族や友人たちの不審を招いていく。そして、鮮明になる過去の自分の記憶は、現在の自分の行動にも影響を与えはじめる。

 過去の自分に戻るという、物理的にも外見的にも非常に大きな現象なのだけれど、やはりポイントになるのは自分の心。特に、時間の流れによって忘却したその時の気持ちが鮮明になることが大きい。どうにかやり過ごしたはずの失敗が、恐怖が、またあらためて突きつけられる。
 また、今回は文研部のメンバー以外にも、彼らに重大な影響を与える登場人物がいることが特徴的だと思う。例えば桐山唯の空手時代のライバルだった三橋千夏や、青木義文の元カノ西野菜々、永瀬伊織の母や、太一の妹などだ。そして彼らは今回の現象にもそれなりに関わって来る。

 今ここにある自分の判断は本当に自分のものなのか。あるいは過去の自分や他の誰かからの影響下にあるのか。それも含めて自分と呼ぶべきなのか。過去と向き合うことで、彼らの頭の中をそんな考えがグルグルと回る。
 現象が収まったところで彼らの関係は元のままなのか。あるいは…。まだ彼らの物語は続きます。

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ココロコネクト キズランダム

本音で語られる言葉の威力
評価:☆☆☆☆★
 前巻と同じく文研部の5人が、今度は「欲望解放」という意識・無意識に抱いている欲望が表出してしまう現象に巻き込まれる。

 普段はあーしたい、こーしたいと思っていても、社会常識や理性によるフィルタがかかって実際にやらないこと、いわないことがいっぱいある。もしそのフィルタがなくなったら?そんな状況に陥った5人。本音だけで語ると言えば聞こえは良いけれど、全力で放たれるマイナスの本音は、それが本音だと言うことが確実な時には、致命傷を与える凶器になる。
 しかし、もしプラスで語られる言葉がまぎれもない本音であることが確かならどうだろう。それは壊れかけたものにとって、これ以上ない福音として響くかもしれない。

 前巻は八重樫太一が明確な主人公だったけれど、今回はかなり役割分担がなされていると思う。

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ココロコネクト ヒトランダム

いかにもファミ通文庫らしい
評価:☆☆☆☆★
 文研部に所属する、八重樫太一、永瀬伊織、稲葉姫子、桐山唯、青木義文の5人は、ある日突然、「ふうせんかずら」を名乗る正体不明の存在から、しばらくの間、アトランダムに人格入れ替わりが起きるという事実を告げられる。
 目的は不明、入れ替わり終了条件も不明の中、当初は大混乱をしていた太一たちだが、徐々に落ち着いてきたかに見えたころ、本当の問題が明らかになり始める。

 性別が入れ替わったことによる肉体的な側面から生じるトラブルよりも、その器に入っていた精神のあり方と入れ替わりにより生じる互いの心理の変化にスポットを当てているのは、いかにもファミ通文庫らしい。
 基本は、八重樫太一が入れ替わり現象の(自覚のない)中心となって、女子メンバー一人ひとりの心の闇を明らかにしていく。

 ベースとなるそれぞれの身体的特徴や性格が読み手に定着しないうちに入れ替わりが発生してしまうので、しばらくの間は誰が誰だっけ?という感じで、口絵と見比べながら読んでいた。  それぞれが抱く悩みはおそらく誰もが感じたことのあるような悩みだけれど、長じれば大概折り合いをつけて、いつの間にか気にならなくなっちゃう性質のものなんだと思う。あれ、何で悩んでいたんだっけ?という感じで。今回は、それがまだ気になるうちに、そこを利用して何者かが引き起こした事件なのだ。

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