明月千里作品の書評/レビュー

最弱無敗の神装機竜《バハムート》

革命の真相
評価:☆☆☆★★
 アティスマータ新王国に滅ぼされたアーカディア旧帝国の第七皇子だったルクス・アーカディアは、恩赦を受けて国民の雑用係として生き延びていた。その雑用の途中、城塞都市クロスフィードの王立士官学園の女子風呂へと侵入してしまったルクスは、第一王女リーズシャルテ・アティスマータの全裸を目撃してしまう。
 ノクト・リーフレットらに追跡され、クルルシファー・エインフォルクによって捕縛されたルクスは、装甲機竜(ドラグライド)と機攻殻剣(ソード・デバイス)を使った戦闘でリーズシャルテ・アティスマータに勝利すれば無罪放免、負ければ通報という処罰が決められた。

 途中まで進んだ勝負は、人類の敵である幻神獣(アビス)の乱入でうやむやになり、学園長レリィ・アイングラムの裁定で、ルクスは女子学園に仮入学することになってしまった。
 学生である幼馴染のフィルフィ・アイングラムにフォローされ、妹のアイリ・アーカディアに罵倒されながら、彼の存在に興味を持った女子生徒たちの雑用係として働くルクスだったが、彼にはひた隠しにしている秘密があったのだ。

妹様による、俺ルート攻略・ラブコメ理論 (2)

女装王子の正体
評価:☆☆☆★★
 周囲からはリア充だと思われているが、生徒会長が生徒会顧問の教師と付き合う隠れ蓑に使われているに過ぎないため、実際は非リア充な生徒会副会長の上倉景太が楽しめるのは、オンラインゲーム「ラヴァーズ・コミュニケーション・オンライン」通称LCOの中だけだ。しかし、LCO内人気二位の「妹姫」枢院アリスの正体が風紀委員の片瀬透子だと知ってしまったばかりに、秘密の暴露を恐れる片瀬透子に付きまとわれることになってしまう。
 だが今回は、人気一位の女装王子に誘われた海辺でのオフ会のため、参加しない片瀬透子とはリアルでは離れられるはずだった。それなのに、やはり暴露を恐れる片瀬透子は正体を隠してオフ会に参加し、あれやこれやと口出ししてくる。それに加えて、妙に親しんでくる神代ナユタや、妹を奪われたと憤慨して絡んでくる「自治会長」椎堂由衣、アリスのライバルを自称する才ノ宮ひかりに付きまとわれ、さんざんな目にあうことになる。

 実はリアル女子であることが彼女の実兄によって知らされた女装王子と同室で過ごすことになる景太には、誘惑がいっぱいです。

妹様による、俺ルート攻略・ラブコメ理論

リアルでフラグを立てヴァーチャルで落とす
評価:☆☆☆★★
 上倉景太は生徒会副会長を務め、成績優秀で、生徒会長とも付き合っていると噂されている高校生だ。しかし実際は、生徒会長は生徒会顧問の新任教諭とつき合っていて、成績優秀なのも流されるままに至っているだけで、自分で手に入れた何かはない。
 そんな景太が楽しみにしているのは、オンラインゲーム「ラヴァーズ・コミュニケーション・オンライン」通称LCOでのプレイだ。特に目的もなく、リアルの煩わしさを排除した日常のコミュニケーションを楽しめるLCOは、彼にとっての癒やしである。ところが、その日常が脅かされる事態が発生する。

 LCOで人気の「妹姫」枢院アリスの招待が、風紀委員の片瀬透子であることを偶然知ってしまい、景太の口止めをするために、透子から恋愛クエストの勝負を申し込まれたのだ。もし負ければ、LCO内で絶対服従の命令にひとつ従わなければならない。
 困った景太は、LCOの友人である女装王子や神代ナユタに相談し、アドバイスを受ける。

眠らない魔王とクロノのセカイ (3)

悔いを雪ぐチャンス
評価:☆☆☆☆☆
 禍刻クロノの眷属となった神木凪夜は、星令学園に編入し、柊カナカや御堂ハル、レファリート・クロッセルと知り合うこととなった。
 グランドクロス問題を話し合う、七つの並行世界の魔王同士による会談を開催するとセルツ・ファム・イグリーズから聞かされていた神木凪夜は、それに反対する一族の次期党首である祀桜イチナと再開する。彼女は、かつて夜が親友リルを救おうとして失敗したときに出会った少女だった。

 そんなとき、タイミングも良く夜の前に現れる、リルの魂。彼女の姿はクロノにそっくりでもある。そしてイチナは夜を誘惑する。リルの魂を、彼女の本来の身体に入れることが出来れば、リルを生き返らせることが出来るかも知れない、と。
 正義の味方になりたくてなれなかった夜に訪れる失敗を取り戻すチャンスと、新たに結んだ約束との葛藤。その果てに選び取る結末は?

 残念ながら打ち切りらしい。正直、まだ続いてもおかしくない終わり方だと思うけれどね。

眠らない魔王とクロノのセカイ (2)

それぞれの世界事情
評価:☆☆☆☆☆
 異能力を発揮するための次元を展開することが出来る人々を「世界使い(ルーラー)」と呼ぶ。《聖罰の規約(コード・ブレイク)》という「世界」を持つ高校生の神木凪夜は、吸血鬼の並行世界《狂月の常夜(ルナティック)》の魔王である禍刻クロノと知り合い、彼女の眷属となる。そして、配下に殺されそうになっていた彼女を助け、彼女に仕えるという決断をした。
 そんなクロノと夜が転校した星令学園(ワイズ・アカデミー)は、セルツ・ファム・イグリーズが主催する世界和平協会(アライエンス)が設立した「世界使い」を訓練するための学校だ。夜とクロノは、柊ミナミが大家を務める神月館に間借りしつつ、柊カナカや御堂ハルと共に学園に通っている。非常勤講師となった九那切白羽は、性格はダメながら腕だけは立つ、かつての夜の師匠でもある。

 そんなある日、夜は学園の芝生に寝転んでいる《統制の機構(ギアズ・フォートレス)》レファリート・クロッセルと出会う。彼女に誘われ、ランクによってお金がもらえるミッションにホイホイついて行った貧乏な夜は、並行世界の入り口であるクロス・ゲートを護る祀桜イチイらに遭遇し、《統制の機構》の世界に入ってしまった。
 二転三転する状況。身近な人々が抱える意外な秘密。そしてクロノと、夜の決断は、一つの並行世界の命運に大きく関わっていく。

 生徒会長の一剱桜華、セルツの護衛役の六条月見、《統制の機構》王族のファルフィニエルなど、新キャラが登場したり立場が明らかになったりする展開となっている。  登場するヒロインが毒舌か変態に偏り気味なので、もう少しバリエーションがあっても良いかと思ったり。でも、これも特徴なのかも知れないな。

眠らない魔王とクロノのセカイ

諦めた自分を拾いに行く
評価:☆☆☆☆☆
 正義の味方の家系に生まれた神木凪夜は、両親を悪との戦いで失い、そして自分も助けたかった少女を助けられなかったことで、正義を見失ってしまう。彼を人柱にしようとする人々から逃れるために相続を放棄し、「世界使い」という特別な力を封印した彼は、普通の高校生として暮らしているつもりだった。
 しかしある日、彼は「世界使い」の争いに巻き込まれ、魔王を自称する少女・禍刻クロノと出会ったことで、彼の世界は日常とはかけ離れていたことを自覚する。

 「世界使い」の有力組織のひとつである世界和平協会を主宰するセルツ・ファム・イグリーズから、正義の味方として力を貸して欲しいと誘われるものの、過去に対する自責が彼に正義を名乗ることを許さない。だが選択を先延ばしにするうちに、友人の柊カナカや御堂ハルもその戦いに関わるようになり、かつての許嫁の七罪コトが現れるに至り、彼は自らの道を選択することになる。

 正義の味方になり損ねた少年が、昔の自分と同じ様な少女に出会い、彼女の真っ直ぐさをまぶしく思いながらも、本来の自分らしさを取り戻してくような異能ファンタジーだ。主人公はクールを貫くので、コメディはあってもラブはあんまりない。
 ところで、主人公の能力はあまりにも強力すぎないかな?使い方によっては無敵な気がするけど。

月見月理解の探偵殺人 (5)

嘘の果てに見つける確かなもの
評価:☆☆☆☆☆
 自宅から拉致された都築初が目を覚ましたのは、月見月家の所有する豪華客船ナグルファル。彼の前に現れた果無連理は言う。ここが探偵殺人ゲーム・黒の箱庭の決勝戦の舞台だと。同様に招待された星霧交喙と共にゲームに臨む初の前に久しぶりに現れたのは、月見月理解だった。かくして最後の戦いの幕が開ける。

 月見月理解の能力であるフリズスキャルヴをコピーし、それを高めた上で理解を叩きのめそうとする果無連理と、彼女と組むグラウンド・ゼロの戦術の前に、一方的に押し込まれていく理解。彼女を支える唯一の柱であるフリズスキャルヴも破壊され、全てを諦めたようにボロボロになっていく。
 だがそれを決して受け入れることができない都築初は、理解を助けるために、助けたいものすら騙す大きな嘘をつく。

 そんなゲームの過程で、都築初が気にかけるもうひとりの存在、星霧交喙と、その姉の花鶏に関わる確執にもひとつの決着がつく。
 嘘つきたちがその果てに見つける確かなものを描く物語は、ここに完結した。

月見月理解の探偵殺人 (4)

状況を仕組む敵の影
評価:☆☆☆☆★
 妹の遥香が探偵殺人ゲームに関わっているという話を星霧交喙から聞いた都築初は、宮越明里と一緒に、遥香の動向を探っていた。そんな彼らに近づいて来たのは、グラウンド・ゼロと名乗る、黒の箱庭というゲームコミュニティの創設者だった。遥香を実質的な人質にされ、探偵殺人ゲームへの参加を強制される初は、ゲーム会場で月見月理解と再会する。
 リアルな世界で繰り広げられる、探偵殺人ゲーム。そこでの失格は現実の参加者にも危害をもたらしかねない。そんなプレッシャーの中、妹を、仲間を護りつつ、理解と初を狙って来る何者かとの息詰まる神経戦が続くのだった。

 3巻までは初を嫌悪し恐怖して近づこうとしなかった遥香が、彼らの家族を襲った事件の真相をエサとして、舞台に引き込まれる。そしてその事実をエサに初が誘い出されるという構造がある。そんな、誰かに対する感情の結果として集められた人々が、騙して言いくるめてハメるという心理戦ゲームに参加して勝たなければならないという所に皮肉がある。
 いよいよ物語の中心は、月見月家の秘密に挑むことになりそうだ。

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月見月理解の探偵殺人 (3)

理解がダウンすると交喙じゃちょっと弱い
評価:☆☆☆☆★
 星霧交喙と一緒に月見月の別荘に拉致された都築初。その別荘には、いつも初をイジる理解だけではなく、彼女の世話係のメイドさん水無月沙耶、月見月の情報屋にして別荘の主である久遠、同じく月見月の暗殺者である真理たちがいた。
 プライベートビーチで過ごす時間も束の間、別荘の地下に隔離されるもう一人の異常者、月見月悪夢が関わるとき、迷宮のような別荘を舞台とする事件が始まる。

 今回は、殺人衝動を引き起こすウィルスに感染しないようにするという名目で、登場人物たちがバラバラに隔離され行動しているうちに犠牲者が生まれる。そして、事件を一瞬で解決する能力があるキャラたちは、体調が優れなかったり、事前にばらされて対策を取られたりしていて、役に立たない。
 犯人の目的は何か、本当に殺人衝動ウィルスは存在するのか、裏切り者は誰なのか?そんな事件を解決した後には、次なる本物の異能者の存在が明らかになる。

 当初にあったゲーム的要素は薄れて、クローズドサークルでのミステリー的な展開になっている。しかも、理解の活躍する場はあまりなく、初くんが一人でうろちょろする感じ。
 こんな感じなので、ツッコミ役として初が生かされるシーンがあまりない。理解が出られないなら交喙が天然でボケ倒すとか、共演者がいた方が初くんは生きるのにと感じた。

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月見月理解の探偵殺人 (2)

犯人探しの神経戦
評価:☆☆☆☆★
 都築初が所属する放送部に、遥香の友人である星霧交喙(いすか)が入部してくる。無口で無表情で対人アレルギーのイスカが入部した理由は、かつて放送部に所属していた彼女の姉である星霧花鶏(あとり)の痕跡を探すため。そしてアトリは、初の父が自殺した根本原因である産業スパイ事件に関係しているらしい。
 再び登場した月見月理解や、放送部部長である上坂京と共に、アトリの足跡をたどっているうちに行きついたのが、ノアズ・アークと呼ばれる、8つの部屋と8つのカードキーを持つ不可思議なシェルター。彼らは、別にアトリを追ってきた4人の男女と共に、そこに監禁されてしまう。制限時間は9時間、それまでに脱出できなければ毒ガスで殺されてしまう。極限状況に追い込まれる中、8人の中に紛れ込んだアトリを探り出し、無事に脱出することが出来るのか?

 実の妹とは折り合いが悪い初に対して、仲の良い妹のポジションに落ち着きそうなイスカが、今回の事件のキーパーソンとなっている。彼女も理解と同じように聖痕と名付けられた特殊能力もちであり、その能力およびノアズ・アークの脱出ルールと、それらの隙間で繰り広げられる犯人探しの神経戦が後半のメインだ。
 若干、ノアズ・アークの脱出ルールが複雑なのだけれど、読み終わってみると、そのルールと交喙・花鶏の間には象徴的な関係があったような気がするし、彼女の名前にもストーリーの根幹に関係する意味があったように思う。一方で、キリスト教的なネーミングだが、宗教色はない。
 イスカが前面で活躍する時間が長かった分、理解の初いじりは控えめだったかな。

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月見月理解の探偵殺人 (1)

嘘つきが嘘を暴く
評価:☆☆☆☆☆
 都築初のクラスに転校してきた車椅子の少女、君筒木衣梨花=月見月理解は、自己紹介でクラスメイトに暴言を吐き、その言動は他者の感情を逆なでするが、初のことをれーくんと呼び、妙になれなれしくしてくる。彼女とは一面識もないはずの彼だが、実はかつて二度だけ、ネットゲームで対戦したことがあった。
 そんな理解が転校してきた理由、それは、初の父を殺した犯人を暴くこと。彼女は特殊能力を持つ探偵なのである。

 初の妹、遥香を犯人と目し、かつてのネットゲームでのリベンジを口実として、初に賭けを持ちかけてくる理解。理解が遥香が犯人であることを証明する前に、初が真犯人を見つけるか、理解の特殊能力を暴けば、遥香から手を引く。そんな条件で対決することになった二人だが、理解の言動は周囲を逆なですること著しく、不必要な感情対立も巻き起こしていく。
 呼吸をするように嘘をつく、とうそぶくくせに、人間関係を穏やかにしておく潤滑油として必要な小さな嘘や隠し事も許さないかのように断罪する理解。校内一のお人よしと称されながら、何かをじっと隠し通しているかのような初。
 幸せでいようとして嘘をつき、誰かを護ろうとして嘘をつき、それなのに嘘をついたことで自分が傷つく。真実だけが人を救うのではなく、ほんの小さな優しい嘘が人を救うこともあるのに、嘘は嘘というだけで断罪されなければならないのだろうか。

 タイトルを見るとミステリーっぽいけれど、ミステリー風味なだけでミステリーというほどではない。読んでいるうちに何が本当だか良く分からなくなっていくけれど、最後の優しさだけは本当なのかもしれない。

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