浅生楽作品の書評/レビュー

御霊セラピスト印旛相模の世直し研修 東京リバーサイドワンダー

評価:☆☆☆☆★


女神搭載スマートフォンであなたの生活が劇的に変わる!

合理的に生きよう
評価:☆☆☆☆★
 落とせば再留年となる一限目の講義に出るか出ないかをサイコロで決めようとした、Fラン大学生の海江田悠里のスマホに、フォルトゥーナという運命の女神が宿る。彼女は父である天帝ユピテルの意志を受け、大事な決断をサイコロで決めようとした人物を導いてきたという。彼女のこれまでの弟子は、カエサル、アウグストゥス、織田信長、徳川家康、ナポレオン、チャーチルという、錚々たる面々だ。
 そんな中、今度、彼女が選んだのは、もはや人生を投げ捨て気味の大学生。いくらフォルトゥーナが忠告しても、改めようとはしない。そんな彼に、運命の女神は様々な提言をしていく。

桃の侍、金剛のパトリオット (3)

夢の寿命
評価:☆☆☆☆★
 大陸を統べる金剛の皇子を産む運命を持つ香桃を我がものにしようとする「蚩尤」袁世凱に対し、旧長岡藩士・鬼頭周蔵、燭陰札と呼ばれるアルカナを持つ宇佐美俊介や縦横家となった才媛・蘭芳の手を借りて、五族協和の桃源郷を建国することで対抗するという目標が出来た。
 しかし、その後ろ盾である山形有朋は既に高齢。しかも、世界情勢は第一次世界大戦へと移行し、日本も戦乱の渦に自ら飛び込もうとする。自らの権勢の衰えを悟った山縣は、後の国のかじ取りを原敬に託し、モモたちは大陸へと逃して日本の政変に影響を及ぼさせないようにする。後詰めの意味も込めて。

 いよいよ戦乱の中に飛び込むことが明確になった時、モモは俊介をその渦中に巻き込んでしまうことにためらいを感じてしまう。一方、俊介は、夏目漱石と出会い、彼が語る日本近代の本質に何かを感じるのだった。
 だが、「共工」エドゥアルド・シュネルは、彼らに選択の時間を与えなかった。

 夏目漱石の口を通じて葬送される日本近代の姿は、バブル景気後の閉塞感に苛まれる現代の姿に重なって見える。その閉塞感から逃れるために、破滅へとつながる黒い夢を共有して現実とするのか、あるいは、辛いと分かっていてもそれ以外の道を模索して希望へ至るのか、世界がどちらを選ぶのかは歴史的には自明なことなのかもしれない。

桃の侍、金剛のパトリオット (2)

全ては自らと切り離せはしない
評価:☆☆☆☆☆
 大陸を統べる金剛の皇子を産む運命を持つ少女・香桃は、燭陰札と呼ばれるアルカナを持つ学生・宇佐美俊介と出会い、山形有朋の庇護の下、彼女を手に入れて子を孕ませようとする袁世凱と戦い続けることを誓った。そのために、俊介も勉学・武術をより一層身につけるべく、鍛錬を続ける毎日を送っていた。
 そんなある日、骨休みに訪れた銭湯・蛇骨湯で、ドイツからの留学生だというウルリッヒ・ブリュークマンに出会う。そして、彼と神谷バーで親交を深めた帰り、孫文の美人秘書・宋慶齢が襲われているところをモモが助けることになる。

 今回の主役は、人を操る魔眼を持つ妖しい才媛・蘭芳だ。モモが孫文に傾倒し、彼の許でその金剛力を揮おうとするのに対し、俊介はアルカナの示す慎重策を奉じ、それによりちょっとした行き違いが生まれてしまう。そしてそこには、運命に翻弄される存在としてのモモと、わずか14歳の誰かに頼りたい少女としての二面性が影響し、それが隙間となって行く。
 その行き違いに対し、結果的に二人を取り持つ役割となったのが蘭芳だ。彼女自身は俊介に引っ張り出され、彼女自身も強さと弱さを併せ持ちつつ、それを意志の力でねじ伏せ、自らの理想に向かって歩み出していく。後ろ髪をひかれながら…。

 おそらくは天命を左右するほどの力を持ちながら、その力から目をそむけ、ただ札を示すだけの道具になり切ろうとする主人公と、同じく運命に逆らいたい気持ちを持ちながらも、その幼さゆえに運命に流されそうになるヒロイン。
 彼らを、彼らと同じ様な立場に、むしろもっと辛い目にあった経験を持ちながらも、ゆえに自らの力から目をそむけない女性が美しく輝いている。前回はお色気担当のお邪魔虫という印象もあったけれど、今回は健気で儚く、だが強いという印象に変わった。

 そして物語は、中国史上の英雄たちが舞台に登場してくる中、世界は第一次世界大戦に向かって進んでいく。

桃の侍、金剛のパトリオット

歴史の間は次の激動への準備期間
評価:☆☆☆☆☆
 清朝末期、義和団の残党が潜む村を、北洋大臣・袁世凱が率いる一個師団が包囲していた。彼の狙いはただひとつ、わずか八歳の少女・香桃を捕らえ、薬漬けにして女に育て子を孕ませることだ。袁世凱がロリコンということではない。香桃が桃源公主という、世界の支配者となる運命を持つ子ども、蚩尤を産む特別な存在なのだ。
 しかし彼女は袁世凱に捕まることはなかった。旧長岡藩士・鬼頭周蔵が、明治の元勲・山県有朋の依頼を受けて彼女を救い出し、日本へと亡命させたのだ。

 それから6年、帝都東京で一高に通いながら占い師として身を立てる宇佐美俊介の前に、成長した香桃と鬼頭周蔵が現れる。彼が彼女たちに連れて行かれたのは椿山荘、山県有朋の邸宅だった。

 明治維新の元勲たちの多くも世を去り、日露戦争に勝利して国威は高揚しているものの、その高揚に誤魔化されて疲弊に気づかず、民草には暴走の兆しすら見える。そしてその背景には、維新時の奇跡的な立身出世の時代も過ぎ、自分の望むような栄達を遂げられない停滞感が若者たちを被う現状がある。
 そんな若者のひとりでもある宇佐美俊介は、才能はありながらも志をもたない。それが、過酷な天命を課せられた少女や、尊敬すべき人間たちと出会い、目を開かれていく。

 史実をベースにしながら、その背景にヨハネの黙示録ベースの要素を埋め込んでいくことで、魔術的な陰謀という視点から20世紀初頭を描く作品だと思う。
 なんか、赤城毅氏と同系統の作品になる気がするな。

   bk1
   
   amazon
   

ミネルヴァと智慧の樹 始原

自分の目で見て自分の頭で考える
評価:☆☆☆★★
 世界の全てを表現した一枚の絵、智慧の樹。この絵に描かれたものは、世界の変化を写す様に絶えず変わり続ける。そして、描かれたものを描きかえれば、世界も変化してしまう。
 そんな一枚の絵から生まれたミネルヴァ、天乃理に梟として見出された森本慧は、高校の時に出会った師匠と仰ぐ人物の言葉を盲信し、流行を追って賢く生き抜き、二十歳からの余生を目指す大学生だ。表向きは大学図書館の書庫整理のバイトと言われながら、実際はミネルヴァの梟として、理の作業を手伝い、彼女の目となって周囲の人々を観察する。彼女が、彼女の父である錬金術師ルルスの言葉を忠実に再現するために。
 二十歳の余生を目指す超現実主義的な生き方から、ある日突然、非常識な世界へ放り出された慧は、その影響か、不思議な夢を見る。それは、高校卒業のときに別れた彼女である佐倉霞と彼がなぞる、ファウストの物語だった。

 ファウスト的要素を取り込み、心理学の要素を取り込み、パロディを取り込み、様々なキャラクター要素を取り込んだ作品なのだけれど、基本的には対話による思索がメインになっていると思う。
 慧と霞、ファウストとメフィストフェレス、ルルスとシュプレンゲルという対比や、慧と師匠、理とルルスという対比など、他にも親子関係などの人間関係の構造が組み合わさり構成されていて、色々と考えさせられる。
 ただ、あまりにも様々なことが盛り込まれていて消化不良というかコンパクトになりすぎかなと思う部分があったり、シリアスか笑いかどちらに重点が置かれるのか分からない時があったりする気がした。

 星3つにしているけれど、読者によっては星5つだと思うし、それに化ける可能性を秘めた作品だと思う。ただし、星4つではないとも思う。

   bk1
   
   amazon
   
ホーム
inserted by FC2 system