朝田雅康作品の書評/レビュー

二年四組交換日記 腐ったリンゴはくさらない

面倒だけれど深まる理解
評価:☆☆☆☆☆
 久しぶりにメモをとりながら本を読んでしまった。本文中、登場する二年四組の生徒35名の異名と本名の対比が秘匿されていて、各章で小出しにされる情報を突き合せなければ、その対比が明らかにならないという、一種のパズル要素を含んでいるのだ。このため、情報をメモしつつ、対比表を完成させていった。
 しかし、第6章までには、消去法も含めて、全ての登場人物の対比表が完成するので、そこからは普通の物語として楽しめる。そして、物語が怒涛の展開に突入するのも大体それ以降なので、全体構成としても、パズルパートと騒動パートに分かれていると言って良いかも知れない。

 私立伯東高校の新人教師の愛川奈美は、先輩教師たちの陰謀によって、非常に個性的なメンバーばかりが集められた隔離クラスの担任を任される事になる。ありきたりな不良や不登校生徒は当然として、クラッキングや機械工作で犯罪スレスレのことをやる生徒、政治家や金持ちの娘とメイド、成績優秀だが性格が捻じ曲がっているヤツ、親から虐待されていた生徒などもいる。こんなバラバラになりそうなクラスを統率しているのが、委員長と裏ボスだ。前者は知恵と人脈によって、後者は実力によってクラスに一体感を醸成している。
 そんな委員長が新学期早々クラスメイトに課したのが、交換日記だ。一冊のノートを誰かに配布し、その人物がその一日の出来事を書いて誰かに渡す。誰が書いたのか分からない様、匿名性を重視して、基本的に人物は異名で書き表わされるのだ。

 そんな交換日記が始まって数日すると、クラスメイトが各々、ちょっとした出来事に巻き込まれているのが分かる。それはバラバラだとよく分からないのだけれど、日記の記述が進むにつれ、事態はつながっていき、最後は結構な大事になってしまうのだ。
 そしてそんな大事件の影で、高校生らしくと言おうか、様々な恋愛事情、人間模様も明らかになっていく。

 パズルとして数学的な厳密さがあるわけではないと思うし、余詰めのある詰め将棋みたいな印象も受けるが、ストーリー展開を補助する一要素として考えた場合には、大勢のキャラクターを把握するために読者はそれなりに手間をかけなければならないため、それぞれに対する理解が深まり、物語への移入を容易にするツールとして十分機能している気がする。
 一ヶ月だけでこの怒涛の展開だったので、彼らに周りには今後も事件は起きるだろう。それをこれからどう描いていくかに、作者の技量が問われてくる気がする。次回は同様の手法は使えないだろうから。

 今回の表紙のイラストは普通にキャラが並んでいるだけの様で、人間関係をよく表現していると思った。

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以下、ネタバレ。私立伯東高校二年四組のクラス名簿(本名と異名の対比表)を掲載します。(くまくま調べ)
派閥 異名 本名 派閥 異名 本名
御三家壱 サムライ 吉田智之 御三家参 腹黒 渡辺卓也
  制裁男 津村和義   秀才 五条信也
  ハツラツ娘 遠藤香奈   アナウンサー 相馬冬実
  いじめられっ子 柳井秀樹   解説者 相沢敬之助
  万能者 中条大輔   ハッカー 吉井亮
  スポ淡 土谷仁   機械女 二階堂春枝
  幸薄男 西隆   登校拒否児童一 田崎健
  虐待男 久留米良太   三馬鹿一 青山一志
  ストーカー 五十嵐春香   三馬鹿二 柿沼新二郎
  マスコット 山吹一美   三馬鹿三 長谷川新三郎
御三家弐 お嬢 神崎陽子 中立 委員長 水岡透
  メイド 氷川詩織   副委員長 高橋亮治
  モデル 飯塚美奈   中立娘 佐倉澪
  マドンナ 大内桃子   登校拒否児童二 橘みなも
  才女 徳山茜      
  おシャレ女 島涼子      
  口軽女 森野由美子      
  アダルト 藤田ようこ      
  登校拒否児童三 中島美由紀      
  ハンサム 仙崎良      
  インドア男 田中秀行      
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