赤井紅介作品の書評/レビュー

ジェスターゲーム 欲すれば望み、奪え

結局誰の物語?
評価:☆☆☆★★
 愚者と名乗る謎の少女から欲望の卵の刻印を施され、ジェスターゲームの獲得者となった伊龍恭太郎だったが、他人の欲望を奪ってまで叶えたい願いなど、特に何も無かった。大抵の願いは、他の方法で叶えられるからだ。
 しかし、そんな恭太郎を不意打ちしてきた獲得者の一人である袖咲舞には、何をおいても叶えたい願いがあった。テコンドーを駆使して襲ってくる舞を何とか封殺し、自分の部屋へと連れ込んだ恭太郎は、卵を奪わない代償に身体を要求していると勘違いしている舞の誤解を解き、彼女との接点を作ることになる。

 そして帰宅する舞を送るために追いかけた恭太郎は、世間を騒がす刺殺犯と目される宮前篤志の一派に襲われている舞を助けることになった。そして、彼女のあまりの危なっかしさを見かねた恭太郎は、彼女が目的を達成するためのサポートをすることになる。
 恭太郎を慕う御影錦や三好奈菜、従兄の竹村司から情報を得て、宮前篤志を追い詰める恭太郎たちだったが、そこで明らかになったのは意外な真相だった。

 う〜ん、色々と説明不足過ぎじゃないですかね?これでは読者は、誰の立場で誰に感情移入して読めば良いのでしょう?何だかよく分からない状況に翻弄される主人公というのは別に良いのですけれど、「よく分からない状況」だと言うことを読者に伝える努力は必要なのではないでしょうか?
 あと、ヒロインがひたすらレイプされそうになる展開というのも、危機のタイプとしてあまりにもシンプル過ぎやしませんか?実際、戦場で頭に血が上った男が考えることなんてその程度なのかも知れませんけれど、フィクションなのだから、現実の単純さに則しすぎると、面白さの要素もなくなると思いますよ。

 最後に、真の黒幕が何か良い人みたいな感じでまとめていますが、ジェスターゲームと無関係の人に大量の犠牲を強いたことを忘れないように。

白翼のリンケージ (3)

明かされる本当の理由
評価:☆☆☆☆★
 イルの辻斬りをしていた高校生の高遠楓は内調イル対策課の中学生である七条明日花と知り合い、銀狼のイルによって“リンク”の呪いをかけられた。それは互いの感情や状態が連携し、一方が傷つけば他方も傷つくという厄介なものだ。
 剣鬼にして楓の師匠である紀尾井竜玄が姿を消したと娘の双葉に伝えられるのと時を同じくして、彼らに呪いをかけた銀狼が人間としての意識を取り戻したと連絡が入る。

 その結果、街の防衛は紀尾井瑞穂や室長の九重八重丸に任せ、高遠楓や七条明日花、御影奈津と七条美也は、七条亜季乃が送られ、七条沙耶や御影マチ、クルトがいる隔離街へ行くことになった。それは、隔離街が設置された本当の理由に関係していたのだ。

 結果的に打ち切りとなったらしく、作者的には不完全燃焼感の残る、唐突な巻き上げ展開になっている。それでも主人公たちの関係という点においては、一応の決着は見た。現代ファンタジーとしてでなく、ラブコメとしてまとめたという感じだろう。

白翼のリンケージ (2)

敵の正体
評価:☆☆☆★★
 イルによって父・高遠恒明と母を失った高校生・高遠楓は、その仇を討つためにイルの辻斬りをしている最中、九重八重丸率いる内調イル対策課に所属する中学生・七条明日花と出会い、イルの血を浴びて感染し、極めて稀なケースとして、ウィルスが不活性化した上に、リンクと呼ばれる状態になってしまった。互いの気持ちが伝わったり、互いのダメージが伝わったりするのだ。つまり、一方が死ねばもう一方も死ぬ。
 そんな状態であるため、監視を兼ねて明日花が楓の家に居候し、剣鬼・紀尾井竜玄の指導を仰いでイルを倒すための力を磨いている。そんなある日、K金というヒト型のイルが彼らの前に現れる。それは、過去5年、内調イル対策課に最も被害を与えて来たイルであり、高遠楓が敵と狙うイルでもあった。

 七条亜季乃が隔離街送りになってしまい、七条美也や御影奈津だけではK金に対抗するのは難しい。そんな状況の中、隔離街から抜け出し暗躍する七条沙耶や吸血鬼クルト、御影マチらが現れ、楓たちと同様に、K金を倒そうとしてくるのだった。

 楓や明日花らのテンションが高過ぎて暴走しがちで、キャラクター的にまとめ役を欠くこともあり、全体的に落ち着きがない印象になっている気がする。冷静なツッコミキャラは手元に置いておきたいところだ。
 今回の物語は、展開的にしんみりとするエピソードのはずなので、もうちょっと落ち着き目の演出にした方が、グッと来たんじゃないだろうか?一本調子に上げていくばかりではなく、起伏と落差が感情を刺激する鍵になると思う。問題は何を書きたいか、なのだろうけれど。

白翼のリンケージ

後半になると面白くなる
評価:☆☆☆★★
 鬼や妖怪の正体だと考えられている、感染性のウィルスにより異形化した人間・イルが歴史の表舞台に登場するようになって10年ほどが過ぎた。高遠楓は紀尾井竜玄から学んだ剣技を霊刀撫鷲でふるい、夜な夜なイルの辻斬りを続けていた。ある目的を果たすために…。
 そんな少年がイルと戦っている最中に、ウェイトレスの格好をした少女・七条明日花が割り込んでくる。彼女はイルと戦う政府機関、内調イル対策課の実働部隊員だった。お互いに邪魔し合いながらの対イル戦闘となったが、体勢を崩した明日花をかばってウィルスに感染してしまった楓に対し、明日花は抑制剤を打った自分の血で異形化を食い止めようとする。それはある意味で成功したのだが、代わりに二人とも細胞の性質が変化し、そして、互いの感情や、損傷が伝わってしまうリンクが発生してしまった。

 そんなわけで連れて行かれた対策課の本拠地は、メイド姿のウェイトレスがサービスしてくれる喫茶店。全員、対策課のメンバーらしい。そして彼女たちと協力関係をしぶしぶ結ぶことになるのだが、それぞれ主張が強く、なかなかに大変なことになるのだった。

 最後の方にかけては面白い展開になっていくのだけれど、前半は個人的に退屈過ぎた。特にキャラの書き分けがきちんと出来ているように思えないのに、大量に似たようなキャラクターばかり出て来るのでよく分からない。主役級の二人に至っては、似たような口調で怒鳴り合うので、本当にどっちがどっちか分からない。今回登場したキャラは今後、有効に機能し切らない印象なので、もう少し減らしても良かったのではないかと思う。
 でも後半は面白い展開になって行くので、続巻は出て欲しい。そして本来活躍するキャラたちは、きっちり書き分けて欲しい。

それがどうしたっ (3) 人間が見つける、両手いっぱいの幸せ

勇気を持って踏む込む一歩
評価:☆☆☆☆☆
 生まれて初めて友だちとキャンプに行くことに浮かれている穂積真尋が直面したのは、ダメ悪魔レムの補習問題だった。天使の七海カエキリアの鬼のしごきでレムが赤点をクリアした後に訪れたキャンプ場には、いつものように元天使長のにゃんぽこに加えて、同じく熾天使のお父さん犬カイクンまで現れて大騒動が起きる。
 そんな楽しいキャンプ場には似つかわしくないことだが、本当の自分の気持ちを口にしたばかりに、真尋は八千草可憐から別れを切り出されてしまう。そしてその直後にレムが失踪してしまったことも重なり、真尋は心労でやつれてしまうのだった。

 自分の病気のために、大好きな幼なじみから身を引こうとする可憐に対し、真尋は一歩踏み込むための勇気をレムから受け取る。そしてその結末は…。
 天使と悪魔、そして人間たちの不思議な友情の物語は、今回でおしまいとなった。少し早めの終了の気はするけれど、結末は落ち着くべきところに落ち着いた気がする。

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それがどうしたっ (2) 天使に好かれる、キケンな嘘のレシピ

可憐の秘密
評価:☆☆☆☆★
 いつも穂積真尋の猫の飼い主探しを手伝ってくれる公園の主猫にゃんぽこからの初依頼で、子猫の飼い主探しをすることに。子猫に名前をつけたレムは可愛がるのだけれど、子猫には見下されているかも知れない。
 ある日、朝木宗助の買い物に付き合うことになった七海カエキリア。八千草可憐の提案により、真尋とレムの3人は、二人の様子を探るためあとをつけることにする。しかし、二人のデートを見守るはずが、可憐と真尋もデートの様になり…そんな時に異変が発生する。

 1巻はレムの登場とキャラクター付けがメインとなったが、今回は主人公・穂積真尋の幼なじみである八千草可憐がメインとなっている。
 心臓に病を抱える可憐は、それゆえに自分にルールを課し、自分を犠牲にしてでも周囲の大切な人を守ろうとする。そんな切なさもありつつ、主にはレムの天真爛漫というか無軌道な行動が描かれる。
 天使や悪魔という人外の生物がたくさん登場する割には、ほとんど奇跡的な解決はなされず、誰もがとても人間的な手段で努力して解決しようとする。とても不思議な状況なのに、そういう地に足のついた部分が強調されている作品です。

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それがどうしたっ (1) 悪魔に憑かれた時の、ステキな対策

自分の気持ちを上手く表現することができない
評価:☆☆☆☆★
 穂積真尋は一人暮らしをしている高校生。顔は良いのだが人見知りが激しく、周囲の人間に誤解されていて友達がいない。彼がまともに話が出来るのは、隣に住む同級生、八千草可憐とその友人の七海カエキリアくらいだ。
 学校に行っては誰とも話さず、すぐに帰ってきては暇をもてあましている彼の生活に変化が訪れるのは、7年振りに帰宅した父親徳治が一人の少女レムを連れてきたことによる。徳治曰く、彼女は悪魔で、自分の願いをかなえてもらった代償の支払を真尋に押し付けようとする。
 ところが押し付けられたレムはちょっと記憶力が良いこと意外は大体無能で、突拍子もないことをしたり、幽霊を怖がったり、猫に虐められたりする始末だ。そんなレムと契約することになった真尋は、友達が欲しいと願う。

 駄目な天使だという悪魔レムと同居することになり、他社との交流がある生活に心弾む真尋。そしてその交流を通して、レム以外の人間との関係も少しずつ変化していく。
 レムのボケにコメディを演じながら、人間関係の普遍的なテーマを交えて、穂積真尋という人間の純粋さを描いていく。悪魔を虐める天使や、八千草可憐の抱える秘密などもあり、今後の展開も色々と準備されているようだ。

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