藍上ゆう作品の書評/レビュー

君と歩んで恋色ミッション 未来からきた彼女は現代でお仕事を学ぶそうです!

前に進むチャンスか、あるいは取り戻す奇跡か
評価:☆☆☆☆★
 ライバルだった友人の七草唯音を交通事故で亡くしてから、高校にもいかずに引きこもりになった鮎川歩人の部屋の机から、ある日、リボンだけを巻いた裸の巨乳少女が現れる。セリザワ・マナと名乗る彼女は、未来の職業訓練学園の学生で、現代のお仕事を学ぶためにやって来たらしい。
 そもそも彼女が未来から来たというのも信じ難かった歩人だったが、彼女がペルシャール共和国大統領アラク・ジャビアの暗殺を予告したことで、ひとまず信じることにする。

 そうすると、リボンを使ってジョブチェンジしたマナはメイドになり、歩人の部屋の掃除を始めた。彼女の初ミッションは、ご主人様が帰りたくなる家を作ることだ。帰るどころかそもそも出かけない歩人は迷惑に思うのだが、一生懸命だけれどドジな彼女に、唯音の面影を見つける。

 同じく職業訓練学習生のミカド・ミユやオリベ・ナナミ、生徒会長のカンザキ・セレナや謎の幼女ミズキ・アカネとも関わることになる歩人は、未来と現在、そして過去を行き来し、何かの事件に巻き込まれていくことになる。

 まるっきりのラブコメなのかと思いきや、ファンタジックな設定も織り込まれている。まあ、のっけから、紛争地帯の話題が出てくるから、当然絡むものだとは思っていたけれどね。
 しれっと次巻に続くので要注意。

最近の妹ブームはどうやら俺のおかげらしいですよ

妹修行が世界を決める
評価:☆☆☆★★
 八年前に交通事故で両親と母親のお腹の中にいた妹の優愛菜を無くした高校生の今野瑛人は、命日に事故があった場所の傍の公園のベンチで佇んでいたところ、異世界《混迷する感情の果て(シスタ・シスタ)》から来たユアナという少女と出会う。彼女は妹学校の研修で、瑛人の妹になりに来たという。彼の実妹の今野美帆が、妹の模範例なのだそうだ。  妹学校甘えん坊科の学生にも拘わらず、甘えることが大の苦手のユアナは、瑛人の言葉にいちいち反発してばかり。しかし、美帆の指導を受け、瑛人から過去の話を聞くことで、少しずつ打ち解けてきた。  ところがそこに、《混迷する感情の果て(シスタ・シスタ)》の姉学校を代表してマオという少女が訪れ、瑛人を姉萌えにさせるという。彼の判断にはこの世界の流行を左右する力があり、シスタ・シスタの趨勢を決定づけることになるというのだ。  その影響をはかる指標であるシャイン文庫のラインナップを見れば、確かに彼がマオに惹かれると、タイトルに入る妹の文字が姉に変わっていく。そんな状況の中、落ちこぼれ気味のユアナは立派な妹になれるのか?  一言で言えば、妹というキーワードを入れた、ツンデレものっぽい感じ。ツンがデレたら妙に弱気キャラに変貌するところが特徴だろうか。

創世の大工衆(デミウルゴス)

歴史の闇を背負う大工衆
評価:☆☆☆☆★
 カナト・イクティノスは獣耳族の国クーラントにただ一人の人間だ。かつて帝政セラータ国内に住んでいた獣耳族は、ルミナ教とは異なるヴァース教を信仰していることを口実に、皇帝デスト・イクティノスにより土地を追われ、いま住む荒野に追いやられてきたのだ。カナトはデストの娘レイ・イクティノスの孫として、そしてただ一人の奴隷工として、ある仕事に従事するために生かされている。
 荒野に追いやられた当時の獣耳族を救ったのは、ヴィトール・ウィウス率いる創世の大工衆(デミウルゴス)だ。彼らは戦乱の世を嘆き、難攻不落の完全な建造物を作ることで世界に平穏をもたらすという理想を掲げていた。ルミナ教皇シエルの庇護の下で活動していた彼らは、獣耳族にも分け隔てなく接し、彼が現在暮らす城塞を、わずか七日で建設した。

 しかしその後、創世の大工衆(デミウルゴス)が未来を予見した完璧な設計であったためか、大工という職種は廃れ、今ではその技能をもつ者は数少ない。それにも拘わらず、クーラントの街の設計にはとある欠陥があり、その不備を補う技能を持っている唯一の人物がカナトであるために、先祖の罪業に拘わらず、これまで生きることを許されてきたのだ。
 奴隷でありながらも自分の役割に誇りを持って生きるカナトの前に、創世の大工衆(デミウルゴス)の子孫を名乗る少女シア・ウィウスが現れる。彼女は創世の大工衆の代名詞である魔工具ホルスを持っていた。

 女王シャロンから、創世の大工衆が残した設計図に基づき、とある建物を建てるように依頼されたシアに対し、カナトは師事して大工技能を学ぼうとする。だがシアは、カナトだけでなく、大家でもある、床屋クヴァルタを営むセルマ・ビョークにも馴染もうとはせず、極力、他人を避ける行動を取る。
 そんな彼女の態度に反発を覚えつつも、彼女の技量の素晴らしさに魅せられた彼は、何とか彼女の懐に入り込もうと懸命に努力するのだが、上手くいかない。そのうち、設計図にはある秘密が隠されていたことに二人は気づく。

 未だ表に出ている部分は少ないながら、世界観や設定はそれなりに作り込まれている印象を受ける。それだけに、キャラクターが今ひとつの出来であることが残念な気がする。
 例えば、シアは創世の大工衆であるがゆえに抱える悩みを持っており、それがもたらす不安が彼女の人格を不安定にしていると思われる。しかし現在の描写では、単なる我がままの気難し屋にしか見えず、その深みや影を窺い知ることはできない。また、プライドが高そうに見えるカナトだが、豹変して下手に出ることを厭わないなど、性格的一貫性がないように見える描写は、釈然としない。

 イラスト的にも、せっかく大工という、これまであまりない部分にスポットを当ててきたにもかかわらず、キャラクター造詣が通常のファンタジーの域を全く出ておらず、大工としての特徴があるデザインになっていない。これは怠慢に近いと思う。

ドS魔女の×××

エロさを感じさせる要素とは?
評価:☆☆★★★
 赤ん坊の頃、親に捨てられ、サキュバスの女王メアリーにより魔界で育てられた灰崎紅愛は、特級魔女となった。そんな彼女の願いは、恩人のメアリーと同じ悪魔になること。その願いを叶える魔法を発動するには、処女の女子高生を千人、発情させる必要があるらしい。
 そのために人間界の女子高、空百合女学院に教師として赴任したクレアは、教師を眠らせ、体育館に集まった生徒を発情させる魔法を発動する。ひとりでイクもの、誰かにイかされるもの、体育館が嬌声の渦が巻き起こる中、その魔法にかからない生徒たちがいた!

 コスプレ好きのボクっ娘、色川桃音。ロリ弓道少女、知名麻子。クールな才女、折居怜奈。臆病で無口な前里千尋。この4人を何とか発情させるため、あの手この手をクレアは使うのだが、ドSな彼女のウルテクにも、この4人は簡単には発情しない。
 そしてそのうち、クレア自身も、生徒として4人と行動を共にすることになってしまった。果たしてクレアは自分の願いを叶えることができるのか?

 イラストを見れば分かるように、とてつもなく肌色がいっぱい。冒頭でもサキュバスをねちっこく攻めてイかせる描写からはじまる、エロエロ展開…のはずなのだが、なぜか文章が全くエロく感じない。描かれている行動はとてもエロいはずなのに、ちっともエロく思えない。なぜだろう?
 結局、エロさというのは、同意であれ、拒絶であれ、恥じらいであれ、攻める側と攻められる側の相互作用により生じる感情なのだと思う。ところがここでクレアが行う攻め方は、ほとんどの場合、魔法で遠隔操作だったり、透明になって相手が認識できない状態にして攻めたり、相互作用が発生する状況にない。そしてその感覚のままで後半に進むので、相手が認識できる状態になったとしても、何も感じないことに慣れてしまうのだと思う。

 エロさを強調したいのだとしたら、全く強調できていない。人間に憎しみを抱く魔女が同年代の人間と交わることで感じる何かを描きたいのだとしたら、肌色の多さははっきり言って意味がない。総じて、何をメインにしたかったのかが、個人的には全く伝わってこない作品だった。

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