天鴉蒼作品の書評/レビュー

魔遁のアプリと青炎剣 (2)

遺産を託された者たち
評価:☆☆☆★★
 十年前に亡くなった特別高機動隊所属の父である祇堂明の死因を知るために、高天原学園青龍院で優秀な"素戔嗚(トレイザー)"になるべく努力している祇堂拓真は、特殊な"月夜見(ファインダー)"の奏咲ユマ・ライラと出会った。そして彼女から、彼女の父であるエリアス・ライラの遺産について打ち明けらる。
 その遺産を狙い、人権団体ホワイト・ドーン代表であるマクレガー伯爵が鳰市へやってくる。市長を抱き込み、市内で暗躍することに対しての黙認を取り付けた伯爵は、白虎院の金河詩織の弱みにつけ込み、祇堂拓真と奏咲ユマ・ライラに接触させるのだった。

 そして、夏の陣サマーオリンピアの対決が終わった鳰市に、その存在の根幹を揺るがす事態が発生する。

 今巻も残念ながら内容が薄いように感じた。おそらく、前巻の売上が思わしくなく、急速な盛り上げが要求されたのだろうが、丁寧な積み上げなくしてラスボスを登場させてしまったのは、失敗だったように思う。おかげで、バッサリと終わってしまったような印象が残った。

魔遁のアプリと青炎剣

遺産に頼って生きる人類
評価:☆☆☆★★
 核戦争により"旧文明時代(ロストエイジ)"が崩壊して三百年。人類は禊祓の三貴子(セイクリッドチルドレン)"と称される"天照(デイブレイカー)""月夜見(ファインダー)""素戔嗚(トレイザー)"の能力を発現させた少年少女の力と遺産により、分散した都市で生き残りを図っていた。
 そんな都市の中でも最も繁栄する鳰市には、"月夜見(ファインダー)"と"素戔嗚(トレイザー)"のみが入学を許される高天原学園があり、都市を二分する企業であるIGAが支援する青龍院と高雅重工が支援する白虎院に分かれ、その異能を競い合っていた。

 青龍院の高校二年生である祇堂拓真は、個人成績19位の"素戔嗚(トレイザー)"だ。同じく"素戔嗚(トレイザー)"の霧島彩華や松尾優介、"月夜見(ファインダー)"の渡良瀬穂積と組み、将来の就職を決める四季競技祭やバイトを共にしている。
 異能を生かしたバイトの最中、祇堂拓真は白虎院の制服を着た奏咲ユマ・ライラを助ける。"月夜見(ファインダー)"でありながらその能力を上手く使えないという、都市外からの流入者である彼女の助けとなろうとするものの、彼女のチームメイトであり、祇堂拓真にライバル心を燃やす鶴嶺菊之進、亀野舞嬉や亀野玲緒に妨害される。

 チームにありながら虐げられる奏咲ユマ・ライラを助けるため、祇堂拓真は春の陣スプリングオリエンテーションにおいて、鶴嶺菊之進たちと決着をつけることになるのだった。
 スマートギアに入れられた魔遁アプリという、異能を発現するためのアプリを使って繰り広げられる学生バトルに、世界の秘密が絡んでくる様なお話。ガジェット的には「魔法科高校の劣等生」に似ているし、バトルゲームはバラエティ番組の「逃走中」に似ている。

 似ていると書いた時点で何となくおわかりいただけるかも知れないが、派手に設定を披露して大風呂敷を広げる割には、いまひとつ盛り上がらない。その理由の一つは、キャラクターの色分けがしっかり出来ていないところだろう。
 基本的に登場する能力の方向性は二種類なので、バリエーションが少ない。その中で個性を出すためには、同じ系統の中でも差別化が必要だ。しかし、分かりやすい差別化が成されていないのに一緒くたにバトルを繰り広げるので、どこで起きていることも似たような出来事に感じてしまいやすい。

 バトルシーンでは、起きていることを分かりやすく伝える描写を心がけて欲しいところ。せめてこの巻の中で、盛り上げて解決するネタも作って欲しかった。あからさまに次巻に続く構成にするにしても、一巻ごとの納得感は必要だろう。
 じわじわと盛り上がって面白くなってくれることを期待したいところだが…。

ホーム
inserted by FC2 system