壱月龍一作品の書評/レビュー

 壱月龍一さんの作品の書評/レビューを掲載しています。

ラ・のべつまくなし (3) ブンガクくんと腐埒なるキホーテ星

周囲の声と自分の意思
評価:☆☆☆★★
 売上の落ち込み、担当編集の交代などで迷いが生じる矢文学のところに、純文学作家としての再デビューのチャンスが訪れる。
 同業者との交流の中で自分が何を書くべきか、ライトノベルとは何なのかという疑問を抱いてしまい、何を書きたいかも分からなくなっているときに、椎名明日葉が他の男と楽しそうに会話しているのを見て、ますます負の感情は増していく。そして、彼を2次元アレルギーにした姉の手によって、破局が訪れてしまう。

 本当はラノベを書きたくなかったはずなのに、編集者や友人や恋人や絵師や、そしてファンや、多くの人との交流の中で自分にとっても意味あるものとなったラノベが、今度はブンガクの選択肢を奪うものになってしまう。
 彼にとって大きな影響を与える人物たちの声に押しつぶされてその言いなりになってしまうのか、自分の主張を通しきるのか、それとも別の道を見つけ出すのか。その答えは結構難しい。

 今回が完結編ということで、題材とは少し違うところでハッピーエンドが訪れます。

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ラ・のべつまくなし (2) ブンガクくんと腐たご星

想像をカタチにする世界
評価:☆☆☆☆★
 ライトノベル作家として活動する理由を見つけた矢文学だったが、担当イラストレーターの星峰海と星峰陸との初顔合わせでトラブルが発生し、海が担当から降りると言い出し始める。陸は何とかとりなそうとするのだが、そのうち海は、ブンガクと椎名明日葉を別れさせるための工作を始めてしまう。海を頑なな態度にさせている理由には、彼らの兄に関わる出来事があるらしいのだが…。
 作品に関わる人々や、ブンガクにライバル心をむき出しにする先輩作家なども登場する。

 ブンガクが真剣にプロの作家として生きていく気持ちを固めたことの表れなのか、担当編集以外の業界関係者が登場するようになります。今回は担当イラストレーターがメイン。
 前作では明日葉との問題解決のために、作品を書く、という手段が使われたけれど、今回もその基本路線は変わっていない。やはり作家は書いて(描いて)何ぼということなのだろう。
 好きで始めた仕事だとしても、ビジネスになってしまえば、以前のままでいるのは難しいことらしい。

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ラ・のべつまくなし ブンガクくんと腐思議の国

物語がつなぐ青年と少女
評価:☆☆☆☆★
 純文学作家を目指して書生みたいな恰好をしている青年矢文学が、編集者の薦めでライトノベルを書いたら爆発的なヒットを生み、作中の舞台を巡礼に来ていた少女椎名明日葉に一目ぼれしてしまい、お近づきになろうとするのだが…という作品。
 始まりと終わりがきれいにまとまっているし、相手に少しでも近付こうとして一歩一歩努力する結果として、自分の現在の状況を受け入れて行く、という変遷の描き方も面白いと思う。

 一方で、恋愛という二人の関係性を描いた物語でありながら、矢文学サイドから見た描写がほとんどだった様な気もする。だから、彼が変わっていく姿は実感できるのだけれど、椎名明日葉の変化は、彼の目を通した姿でしか分からなかった。
 友人や編集者など、突っ込めば色々と出てきそうなキャラもいるので、続巻が出るかもしれない。そういった機会に、主人公以外から見た人の姿という視点があっても良い様な気がした。

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